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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第4章 三尸
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三尸<3>

九尾の後ろで黙って聞いていた琥珀が、思わず声を出した。

「えっ!それって妖怪アオジ…」


九尾、野狐(やこ)、そして韋駄天(いだてん)も琥珀を見た。


「おやっ!よくご存知で…、お嬢さん。

そいつは、アオジって呼ばれてます、へい」

韋駄天が、琥珀を指差しながら言った。


九尾のキツネもぼそっと(つぶや)いた。

「誰もその姿を見たことがないという、

あの『アオジ』のことか…」


今度は、九尾、野狐、琥珀の視線が韋駄天に向けられた。


「あっ…、いや嘘じゃないです。

へへへへ…、ええ、アオジですよ。

そのアオジときちんと話ができるのは、

同じ速さで走ることができる、あっししかいない訳で…。

何しろ、いつも走っているやつですからねぇ」


九尾のキツネが韋駄天に聞いた。

「その人間は、何と言ってアオジに話しかけた?」


韋駄天は、申し訳なさそうに頭を()き答えた。


「へへへへ…、あの…、その人間の言った内容は、

アオジから聞いていないんで…。

とんでもない速さで走っているアオジに聞こえるように

話しかけた、ってことが、へい、重要なんです」


「で…、そのアオジは、どこにいる。

走り回っているなら、話が聞けないではないか」


「へへへへ…、それがですね、満月の夜だけは、

アオジも走らなくていいんです。

なかなか止まる機会がないんですよ、気の毒にねぇ。


満月の夜だけは、止まれるんです。

あっ、いやっ、正確に言いますと、へへへへ…、

満月の夜だけは、走ってもいいし、

走らなくてもいい、っていうことですね」


九尾のキツネが再び聞いた。

今宵(こよい)が満月だ。アオジとやらは、どこに?」


韋駄天は、きょろきょろと周囲を見ながら答えた。

「それが…、一緒に来たんですがね、

途中で(はぐ)れてしまって…ですね。

あっ、いや、あっしが逸れてしまたんですがね、…。


何しろ、走っているあいつについて行くのは、

そりゃぁ大変で…。どこへ行きやがったんだぁ」


韋駄天は、九尾のキツネに(にら)まれ、

居ても立ってもいられず、

その辺りをうろうろし出した。


そんな韋駄天に、野狐が聞いた。

「おい、韋駄天、場所はここだと、

そいつは知っているのか?」


「ええ、知ってますとも…、念を入れてですね、

昨夜もここへ一緒に来たんですから…」


韋駄天が(あた)りを探すので、琥珀も周囲に気を集中した。

すると、今まで韋駄天の話に気を取られていたから

気付かなかったのだろうか、

琥珀の右手に感じるものがある。


「うんん?」

琥珀の右手の中指は、蜘蛛(くも)の糸を出す。

その指が、何かを感じている。


琥珀は、更に集中して気を()()ませた。


妖気だ。


(かす)かだが、妖気を感じる。

琥珀は妖気が漂う方に顔を向けた。


すると、ほぼ同時に、

九尾のキツネも同じ方向を(にら)んだ。

九尾も妖気を感じ取ったのだ。


「そこにいるのですか?」

九尾のキツネが、そこに向かって声をかけた。


妖狐九尾に見つかっては仕方がない。

妖怪アオジは、姿を見せずに答えた。


「わたしは、アオジです。九尾の妖狐、

あなたが会いたいと言うから来ました。

でも、そこには見知らぬ小娘がいるではないですか。

話が違います」


なかなか用心深い妖怪だ。

これまで誰も姿を見たことがないのも(うなず)ける。


「おお、おまえ、来てたのか。

そうならそうと言ってくれよ。

心配するじゃぁねえか」

韋駄天が声の聞こえた方角に話しかけた。


「韋駄天さん、その娘は誰ですか?」


「おおぉぉ、こいつか?あっと…、こいつは…」

韋駄天は琥珀を指差したのだが、

琥珀が誰だか知らないので口籠(くちごも)った。


琥珀が声のする方に向かって身分を言った。

「わたしは、陰陽師(おんみょうじ) 安部晴茂(はるしげ)式神(しきがみ)で、

琥珀といいます」


「式神…、こはく?そんな式神は知りませんねぇ」


納得していないアオジに向かって、

九尾のキツネが言った。

「この式神は信用できる。わたしが保証する」


九尾のキツネが断言したのだが、

アオジはまだ信用できないらしい。


「九尾の妖狐さんが保証すると言われても、

この小娘はわたしに蜘蛛の糸を投げたのです。

敵意があると見なさねばなりません」


アオジの行方を探るために、

琥珀が蜘蛛の糸を放ったのを、

アオジは知っていたのだ。


そう言われると琥珀は返す言葉がない。

「ああ…、あれは…、

あなたに聞きたいことがあったので、

あなたの居場所を(さぐ)るためにやったことです。

敵意なんかありません」


「おやっ、そうですか…。

もっとも…、あんな蜘蛛の糸では、

わたしを捕まえることはできませんけどねぇ。

しかし、随分(ずいぶん)とシツコイ蜘蛛の糸でした。

どこまでも追っかけて来ましたからねぇ」


琥珀は(あやま)らねばと思った。

「妖怪アオジさん、気に(さわ)ったのなら謝ります」


「いえいえ、別に謝って欲しいとは

思っていませんよ。

敵意がないと分かれば、

そんなことは取るに足らないことです。

分かりました、もう、忘れましょう」


九尾のキツネが妖怪アオジに言った。

「そろそろ姿を見せてくれませんか。

あなたのことは他言しないと、

ここにいる全員が約束しますから」


「分かりました、九尾の妖狐さん。

九尾のキツネさんが、そこまで言われるのなら、

隠れていては失礼ですからね」


そう言って妖怪アオジが姿を見せた。

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