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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第4章 三尸
46/53

三尸<1>

 京都の衣笠山に一本の杉の巨木がある。その高い(こずえ)に腰を掛け、

黄昏(たそがれ)の東の空をぼんやりと(なが)める娘がいる。

既に、京の町には明かりが(とも)り始めた。


今宵(こよい)は満月だ。九尾(きゅうび)のキツネが、会いに来いと琥珀(こはく)に指定した日だ。

どこへ行けばいいのかその時になれば分かると言うのだが、

建物の中にいるより分かりやすいだろうと、

高い木の上で琥珀は待つことにした。


九尾のキツネが会いに来いと言うからには、きっと晴茂の居場所が

分かったのに違いない。

琥珀は、期待と不安を胸に、九尾の合図を待っているのだ。


 琥珀達も、異界(いかい)について(さら)にひとつの手掛(てが)かりを見つけた。

磯女(いそおんな)の退治から端を発した南紀鬼ケ城の鬼、多我丸(たがまる)と、

鈴鹿の鬼に取り込まれた鉄鼠(てっそ)との一連の事件により、

妖怪鈴鹿御前(すずかごぜん)が異界に落ちたとの事実が分かった。


その異界の入り口は鉄鼠から聞いた。すぐさまその異界に入ろうかと

思った琥珀だが、その前に九尾のキツネに会って何らかの情報を

仕入れた方が良いだろうと考えたのだ。


 薄暮(はくぼ)の東の空に、満月が昇り始めた。その月を眺めながら、

琥珀はひとつ溜息(ためいき)をついた。


早く晴茂を探し出したいのだが、自分の力の無さが身に染みるのだ。

式神(しきがみ)天空(てんくう)天后(てんこう)に助けてもらっている。

琥珀独りでは、手強(てづよ)い妖怪を相手に晴茂を探し出すのは無理だ。


折角(せっかく)、晴茂に陰陽師(おんみょうじ)安倍家の秘伝術を伝授されたと言うのに、

何と情けないと琥珀は自分を責めた。


 (ようや)く、(あた)りが暗くなってきた。琥珀は、東、南、西、北と見渡した。

まだ九尾のキツネから合図はない。


すると西の方角の山、ちょうど高雄山(たかおさん)の辺りだろうか、青白い光が

天に向かって一瞬の間上がったのを、琥珀の目が(とら)えた。

それは人工の光ではなかった。


「あれかっ!」

琥珀は(つぶや)くと、西に向かって飛んだ。


木々に(おお)われた山の中で、琥珀は九尾のキツネの痕跡(こんせき)を探した。


「この辺りだと思うのだけど…」

ぶつぶつと呟きながら、琥珀は妖気を探った。


確かではなく当てずっぽうで怪しいそうな場所をうろうろとしていた

琥珀の前に、古い小さな御堂が現れた。

何の御堂か分からないが、それ程古くない注連縄(しめなわ)が張ってある。

近くの村の山の神でも(まつ)っているのだろうか。


琥珀は、じっとその御堂を見たが、別に異様な気配はない。

しかし、何か引っ掛かる。


その場所を立ち去ろうとし(きびす)を返した時、御堂の戸がギギッと

開いた。咄嗟(とっさ)に琥珀は飛び退いて構えた。


「ほほほ…、俊敏な動きだこと、琥珀」


ふいに御堂とは反対側、即ち琥珀の背後から声が聞こえた。

琥珀は身を低く構えながら、振り向いた。

銀色に輝く長い毛の妖狐九尾がそこにいた。


「九尾っ!驚くじゃないの。何でこんな御堂なんか造って…」

そう言いながら琥珀が御堂を指差して振り向いたが、

既にそこには御堂はなかった。

琥珀は、九尾と御堂のあった場所を交互に見ながら、目を丸くした。


「ほほほ…、急に現れると驚くと思ってね。

怪しい御堂で知らせたつもりですよ」


「そんな…」

琥珀は、九尾の言い草に少し腹が立った。


それを見透かしたように、九尾が本題に入った。

「あなた方は異界を追っているようですが、

晴茂様の手掛かりはありましたか?」


「まだ…、晴茂様に直接(つな)がる手掛かりはありません」


「そうですか。わたしは、妖怪土蜘蛛(つちぐも)を手掛かりに、

あれこれ調べてみました。

土蜘蛛の配下に組み込まれた妖怪は多いですね。

あなた方が土蜘蛛を倒すまでは、やつが妖怪の中で最強だったようですよ。

ああ…、最強はわたしですけどね、わたしは他の妖怪と群れませんから…」


確かに、妖怪土蜘蛛は多くの妖怪達を手懐(てなず)けていた。

それは琥珀も知っている。


「土蜘蛛が滅んで、その妖怪達が自由に動き出しました。

これから忙しくなりますよ。

そんな妖怪の中に、一匹の鬼がいます。

なあに、弱い鬼ですが、こやつ、滅法(めっぽう)足が速い。

走り出したら、誰も追いつかない。

その鬼が、晴茂様の居場所を知っていると言います」


「えっ!本当ですか!?」

琥珀は、一歩九尾のキツネに歩み寄りながら叫んだ。


「ほほほ…、いやいや正確に言うと、

晴茂様らしき人間の居場所を知っている妖怪を、

その鬼が知っていると言うのです」


「…」

琥珀の喜びが半減した。


それなら、又聞きの又聞きではないか。何も情報がないよりは良いが、

まだまだ喜ぶのは早いと思った。


「まあ、その鬼は、流石(さすが)にわたしに(うそ)は付かないでしょう。

でも、鬼が話を聞いた妖怪が信用できるかどうか…。

その鬼が、その妖怪を連れてここに来るはずです」


九尾のキツネの配下でもない鬼が、妖怪を連れて来る。

九尾のネズミは、やはり名の知れた大した妖怪なのだ。

その鬼も、その妖怪も、九尾の妖狐に刃向(はむか)えないのだろう。


「その鬼は、何という鬼?それに、

晴茂様を見たと言う妖怪はどんな?」


琥珀の矢継(やつ)ぎ早の問いに、九尾のキツネは平然と答えた。

「名前は知りません。

わたしは、鬼にも妖怪にも、まだ会っていませんからね…」


「ええっ!?」


琥珀が驚くのも無理はない。

情報源を確かめもせず、こんな大事な話で琥珀を呼び出すなんて、

あまりにも人を馬鹿にしている。琥珀は、そう思った。

九尾のキツネは、そんな琥珀の心を見透かしたように続けた。


「琥珀、大丈夫ですよ。この野狐(やこ)が、その鬼に会っています」

そう言って、九尾のキツネは琥珀の左横に視線を振った。


九尾の視線の先を見ると、何といつの間に現れたのか、

一匹の白い狐が座っている。


体はやや小柄だが、目は鋭く、見ただけでその動きは

俊敏だろうと思わせる姿だ。


「このキツネは、わたしの親族です。

妖狐になるために修行をしている身ですから、野狐です。

修行中の野狐の中では一番優秀なキツネですよ。

その野狐が見て、鬼の言葉は信頼できると、

わたしに教えてくれました。

もし、見立てが間違えていたなら、

この野狐は即刻修行から脱落です」


そう言われて、その野狐はちらっと九尾を見た。


そして鋭い視線を琥珀に戻し言った。


「鬼の名前は、韋駄天(いだてん)

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