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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第3章 鉄鼠
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鉄鼠<18>

光が消えた。


そこには、見知らぬ青年が、

三明(さんみょう)の剣を手に立っていた。


「何者っ!?」

琥珀と天空(てんくう)が、同時に叫んだ。


その青年は、きょろきょろと辺りを見回し、

自分の姿も確認している。


「その剣を、こっちに渡せ」

天空が剣を構えて、青年を威嚇(いかく)する。


天空に切り付けられそうになって、

(あわ)てて青年は手で天空を制した。


「おれだ…、俺だよ、天空」


「…」


「ほらっ、よく見ろよ、なっ!琥珀、俺だよ、多我丸(たがまる)だよ」


「多我丸…!?」

琥珀も天空も、じぃーとその青年を見た。


言われてみれば、確かに多我丸のようだが…。

服装も顔も声も、多我丸なのだが…。


「そうだよ、俺は多我丸だ。この剣に触れた途端(とたん)に、

元の身体に戻ったんだ。俺は多我丸なんだから…、なっ」


「おまえ…、多我丸かぁ」

()(ほど)、元の大きさに戻った多我丸だった。


「その剣の法力で、多我丸に掛けられていた

魔術が解けたのね」

琥珀が言った。


天空は、まだ疑っているのか、

青年の周囲を回りながらしげしげと青年を見る。


多我丸の正面に来た天空が言った。

「法力で元に戻ったということは、…、

鬼に戻ったということかぁ」


「いいや、天空、鬼には戻ってないよ、ほらな」


そう言いながら、青年は両手を広げぐるっと回って見せた。


天空は、その様子を見ながら(うな)る。

「ふぅぅむ…」


突然、天空は剣を大上段に振り上げ、

青年の頭上から振り下ろした。

その天空には殺意すら感じた。


多我丸と名乗った青年は、(かろ)うじて天空剣を()けると、

よろけてその場に尻もちをついた。


その姿を見て、天空はにやっと笑った。


「こいつは、鬼ではないな。

鬼なら、そんな避け方はしないぜ」

そう言い放って、天空は明るく笑った。


多我丸は立ち上がりながら、天空に怒鳴(どな)った。

「天空、いい加減にしろっ!今のは本気だっただろ」


「そうさ、本気じゃないと、鬼かどうか分からないからな」


そんな様子を見ていた琥珀も、

元に戻った多我丸に言った。

「よかった、多我丸、元に戻れて。天空を許してやって」


「ああ…、まあ、琥珀が言うなら、許すが…。

俺のことより、鉄鼠(てっそ)ネズミだ。

早く、邪悪な妖気を始末(しまつ)してやってくれよ」


琥珀は、鉄鼠ネズミの集団を呼んだ。


「もっとお互いに身体を寄せ合って、

集団全体を小さくしてくれない。

そうそう、もっと小さく、…、いいわ、それで」


数百匹の鉄鼠ネズミが一所に固まり、ひしめき合った。


「今から、安倍家秘伝、『遮断の五芒星(ごぼうせい)』の術を使う。

みんな、雑念を捨てて、静かにしてね。


わたしの合図で、五芒星から一斉(いっせい)に飛び出すのよ、

いい?素早く動かないといけないよ。では、始める」


琥珀は呪文を唱え出した。

木、火、土、金、水、五行相生(ごぎょうそうせい)の呪文を唱え、

最後に(いん)を切った。


薄白く大きく浮かび上がった五芒星が

数百匹の鉄鼠、全員を(とら)えた。


隔離(かくり)の五芒星』だ。


鉄鼠達は、五芒星の中に閉じ込められた格好(かっこう)だ。


その状態で、琥珀は、更に呪文を続ける。

印を切ること数回。

淡い白色だった五芒星が、赤みを帯びてきた。


「とうっ!」

琥珀は右手を高く上げ、何度目かの印を切った。

五芒星が赤く光った。


遮断(しゃだん)の五芒星』だ。


「みんなっ!外に出ろっ!」


琥珀の号令で、鉄鼠達は我先にと赤い五芒星から

飛び出した。ネズミの動きは、流石(さすが)俊敏(しゅんびん)だ。

勢い余って、引っくり返るネズミもいる。


あっと言う間に、数百匹の鉄鼠ネズミが

赤い五芒星から飛び出したのだ。


しかし、数匹位のネズミが飛び出せずにいた。

走って五芒星を出ようとするのだが、

赤い五芒星に(はじ)(かえ)される。


この『遮断の五芒星』は、邪悪な気を外に出さない。


五芒星から出た鉄鼠ネズミ達は、身体の中にあった邪悪な

妖気を五芒星の中に置き去りにして飛び出せたのだ。


しかし、この数匹の鉄鼠は、

邪悪な妖気に支配され過ぎていた。

邪悪な妖気を分離できないのだ。


「ううっ…、無理か…」


琥珀が、押し殺した声で(つぶや)いた。


飛び出した鉄鼠、数百匹分の邪悪な気が、

赤い五芒星の中で黒い雲のように集まり出した。

そして、残った数匹の鉄鼠の身体に入ろうとする。


数百匹分の邪悪な妖気が、一匹の鉄鼠ネズミに

入れば、取り返しのつかない程、強力な

妖怪が出現する。琥珀は、決断した。


「許せっ、鉄鼠」


心の中で、そう叫んだ琥珀は、

高く上げた右手で最後の印を切った。


「とうっ!」


琥珀の掛け声とともに、五芒星が赤く(まぶ)しく輝いた。


徐々に弱くなる光の中には、既に邪悪な妖気はなかった。

残された数匹の鉄鼠も、その姿はなかった。

『遮断の五芒星』は、邪悪な気と共に消えた。


琥珀は、鉄鼠ネズミの頭領(とうりょう)に頭を下げた。

「全員を救えなかった…」


鉄鼠は、そんな琥珀にむしろ感謝の言葉を言った。

「元はといえば、俺達が女鬼(めき)の誘いに乗ったのが原因だ。

ほとんどの仲間を救ってくれたのは、あんただ。

有難う、礼を言うぜぃ」


身体が元に戻った多我丸が、

鉄鼠ネズミを手の平に乗せながら言った。


「よかった、よかった、なぁ、鉄鼠。

これで自由の身だ。

みんなで助け合って生き延びろよ」


天空も、鉄鼠に分かれの言葉を言った。


「さあ、どこへでも行きな。

また、どこかで会うかも知れないが、

その時は、面白い情報でも聞かせてくれ」


「多我丸、おまえも元気でな。

琥珀、天空、おっと、それに騰蛇(とうだ)、有難うな。

天后(てんこう)大裳(たいも)にも、よろしく言ってくれ。


それと、御在所(ございしょ)の異界に行くなら、

鈴鹿の女鬼には気を付けるんだぜぃ。

それじゃあ…」


多我丸の手からぽんと飛び降りた鉄鼠ネズミは、

仲間のネズミ達と竹林の中へ消えて行った。


それを見送った天空が、ぼそっと言った。

「なかなか、良いやつらじゃないか。

どこで、どう生きてゆくのか、ちょっと心配だが…」


そんな天空に、琥珀が竹藪(たけやぶ)の一角を見ながら言った。

「大丈夫よ、天空。ほら、もう情報集めを開始したわ」


琥珀の視線を辿(たど)った天空は、竹藪の草木に隠れて、

一匹の鉄鼠ネズミが(ひそ)んでいるのに気が付いた。


「へえぇぇ、流石に鉄鼠だ。

油断(ゆだん)(すき)もあったもんじゃないぜ」


琥珀と天空に気付かれたネズミは、

草むらへ入って行った。


天空が、多我丸に向かって言った。

「多我丸、鬼の大将と聞いていたけど、

意外と痩身(そうしん)だったんだな」


「へへへ、これでも昔は妖術で、

どんな形にも変化(へんげ)したんだ。

この格好じゃ、鬼の頭領にはなれない」


「そうか、妖術は使えなくなったんだ。

法力を授かったというが、どんな術が使えるんだ?」


「いや、大した術ではない…。

それより、琥珀、この三明の剣はどうするつもりだ?」


多我丸は、蜘蛛(くも)の糸で(たば)ねられた三振りの剣を、

琥珀の目の前に差し出した。


「そうねぇ…」

琥珀が腕を組み考え出した。


天空が、その内の一振りを指差して言った。


「この妖剣、顕明連(けんみょうれん)と言ったか、これは危険な剣だ。

おそらく、顕明連の邪悪な気を、

大通連(だいとうれん)小通連(しょうとうれん)という仏法剣で

抑え込んでいるのだろう。


三明の剣は、三振りでひとつだ。

別々にしてはいけないのだ」


多我丸が続ける。

「それに、鈴鹿の鬼が、この三明の剣を(ねら)っている。

決して鈴鹿の鬼の手に渡してはいかん」


そこまで考えれば、三明の剣をどうするのか、

(おの)ずと答えが出る。


琥珀が、言った。

「五芒星の結界に封じる。それしか…、ない」


天空も多我丸も(うなづ)いた。


その時、騰蛇が空に向かって、火を()いた。

鈴鹿の鬼の光る玉が数発襲って来たのだ。

騰蛇の紅蓮(ぐれん)の炎で、光る玉は燃え()きた。


「ここにいては、危ない。攻撃される」

騰蛇が言った。


「結界に封じるなら、鬼ケ(おにがじょう)はどうだ。

あそこは、俺の庭だ。俺が必ず守り抜く」

多我丸が小さく低い声で言った。


「分かった!()(かく)、行こう。

騰蛇、後は任せた」

そう言って、琥珀が飛んだ。


天空、多我丸も後を追った。


琥珀達が姿を消してから、十数発の光る玉が

次々と飛んできた。

それらを騰蛇の業火が、ことごとく焼き尽くした。


 南紀鬼ケ城に、琥珀と天空、そして多我丸が、

姿を現した。太平洋に突き出た岩山だ。


かつて多我丸率いる鬼集団の本拠地だった。

多我丸が、奇岩をぴょんぴょんと飛び越え、

岩山の頂上近くにやって来た。


そして、太平洋に向かってにょきっと突き出した

大岩の下に立った。


多我丸は、その大岩のやや凹んだ

部分を指差して、天空に言った。

「天空、剣でここを突っついてくれ」


言われた天空はやや不満そうだが、

それでも多我丸の言に従って岩の凹みを突いた。


すると、どうだ。その凹みが大きく広がったではないか。

人ひとりが入れそうな穴が開いたのだ。


「へへへっ、昔、俺が子供の頃に造った(かく)れ家だ」

多我丸は(なつ)かしそうに、その穴を見て言った。


「ほらっ、穴の入り口の奥にある、

その出っ張りを突いてくれ」


天空が出っ張りを突くと、今度は穴が閉じ、

元の凹みになった。


琥珀と天空は、顔を見合わせ驚いた。


「俺は子供の時でも、こんな仕掛(しか)けを妖術で

造れたんだぞ。懐かしいなあ」


多我丸は、自慢しているのか懐かしんでいるのか、

優しい顔を見せた。


(しばら)く、感慨に(ひた)っていた多我丸が言った。

「どうだい?琥珀。ここに三明の剣と俺が入るから、

五芒星の結界を張ってくれ」


成る程、ここなら絶好の隠し場所だ。

しかも、多我丸のかつての妖術も、穴の存在を隠している。


天空は即座に頷いて同意した。


しかし、琥珀は怪訝(けげん)な顔で多我丸を見た。

「多我丸、おまえもここに入る?」


「ああ、そうだ。俺も一緒に封じてくれ。

俺は、この命に代えても三明の剣を守り抜く」


「なに!?多我丸、おまえも入るのかぁ?」

天空が驚きの声を出した。


「一度は俺の命を奪った顕明連だ。その強さは、

俺が一番分かっている。

この剣を、二度と邪悪なやつらに渡してはならん。


破られることはないと信じるが、もし五芒星の結界が

破られた時、俺が最後の(とりで)となる。

俺の力が及ばなければ、琥珀、天空、

おまえ達に知らせる。


単に三明の剣を封じるだけより、心強いと思うだろう。

どうだ、琥珀。そうしてくれ」


多我丸は、頭を下げて頼んだ。


「なあ、多我丸!折角(せっかく)、身体も元に戻ったんだし、

一緒に鈴鹿の鬼を倒そうではないか。

こんな剣と(やみ)に沈むことはないぞ」


天空が説得したが、多我丸の意志は固い。


「ははは…、異界は闇ではないぞ、天空。

俺は、(あぶく)の異界に長年封じられていた経験がある。

孤独もいいもんだ。長い年月もあっという間に過ぎる」


琥珀は、多我丸の固い決意を知った。

それに早く三明の剣を封じなければ、

鈴鹿の鬼に在り処を知られてしまう。


琥珀は、多我丸の手を取り、申し出を受け入れた。


琥珀は、多我丸と三明の剣を呑み込んだ大岩ごと、

五芒星の結界を張ることにした。


五行相生の順で、五芒星の各頂点に立ち

呪文を投げる。

自然界の全ての力を集め、

それらの相乗された力を各頂点に配置する。


『木』は燃えて『火』を生み、

『火』は灰を造り『土』を()やす。

『土』はその中に『金』を生み、

『金』は周りから『水』を集める。

そして、『水』は『木』を(はぐく)む。


五行相生だ。


最初の頂点、『木』に戻り、

琥珀は念を入れて印を切った。


「とうっ!」


青白色に薄らと光る五芒星が、

大岩全体を包むように現れた。


その五芒星はぴかっと光ると、すぐに消えた。


何者も破れない、何者も侵せない、

安倍陰陽師の奥義(おうぎ)、五芒星の結界が完成したのだ。


(かたわ)らで(ひざまづ)いていた天空が、

立ち上がって琥珀を見た。


琥珀は、大きな波が絶え間なく

押し寄せる海を見詰めていた。

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