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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第3章 鉄鼠
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鉄鼠<13>

「ほぉぉ、陰陽師の式神とな…」


田村麻呂(たむらまろ)の霊は琥珀から目を移し、

その後ろに立つ天空(てんくう)を見た。

「天空か!先程は驚かせてしまった」


そうか、光る巨石に触ろうとした天空を制止した声は、

田村麻呂の霊が発したのか。

天空は、立ったまま軽く頭を下げた。


田村麻呂の霊は、再び琥珀に目線を戻して言った。

「この(わし)に何用があるのじゃ、琥珀」


それを聞いた多我丸(たがまる)が、巨石の上に飛んだ。

多我丸は、自分の身体を少しでも大きく見せようとしたのか、

両足、両腕を開いて大の字に立ち、大声で言った。


「俺だ、田村麻呂!俺が、貴様に用があるっ!」


急に童子が巨石の上に現れたので、

田村麻呂は呆気(あっけ)にとられた表情をした。


こんな童子は知らないと、田村麻呂の顔に出ていた。

「おまえが…?

(わし)は、童子に知り合いはいないぞ」


「田村麻呂っ、よく見ろっ!俺だ」


田村麻呂の霊は、腰を(かが)めて多我丸を見た。

そのうち、田村丸の霊は目を丸くして、

更に腰を屈めた。


「おまえ…は、た…、多我丸…」


「そうだ!多我丸だ」

「ふうぅぅ…、むむぅぅ…」


田村麻呂の霊は、多我丸が生きている事と、

その姿の異常さを理解できずに、ただ驚くばかりだ。


そんな田村麻呂の様子をよそに、

多我丸が押し殺した声で言った。


「田村麻呂…、(なつ)かしいぞ。

貴様ともう一度、戦いたいものだが…」


幾度となく戦った田村麻呂と多我丸だ。

懐かしい古い友に再会したと、

そんな風に感じてもおかしくはない。


多我丸の声は、微妙に揺れていた。

田村麻呂の霊と多我丸は、(しば)しの間、

お互いを見つめ合っていた。


「多我丸、(わし)に何用じゃ?」

やっと田村麻呂が口を開いた。


「貴様が、俺を討った、

あの魔剣のことを聞きたい」


「あの剣か…。知ってどうするのじゃ」


「俺は、貴様に討たれた後、

嵐と稲妻によって復活した。…」


多我丸は、これまでの経緯を田村麻呂に話した。


「…、そして、千手観音に帰依(きえ)し今の俺がある。

しかし、そんな俺を狙っている者がいる。

そいつは、あの魔剣と関係すると思えてならない」


田村麻呂の霊は、多我丸の話を静かに聞いていた。

話が終わると、霊は思案を重ねていたが、

そのうちゆっくりと答えた。


「多我丸、おまえを討った剣は、

顕明連(けんみょうれん)という邪剣じゃ」


田村麻呂は()き捨てるように言った。


だが、その剣の銘に天空が反応した。

「顕明連!?…、聞き覚えがあるぞ、その剣…」


多我丸が、天空を振り返った。

「どんな剣だ?」


天空は、(はる)か昔を思い出しながら答えた。


「俺が天帝から天空剣を(さず)かった時、

天空剣ともう一振りの剣を見せられた。

天帝は、俺にどちらかの剣を選べと(おっしゃ)った。

そのもう一方の剣が、確か『顕明連』だった…」


「天空剣と同格の剣か…」

多我丸が(うな)った。


しかし、天空は同格の剣ではないと言う。


「いいや、天空剣は仏法剣だ。

顕明連は邪悪な妖剣だ。

同格ではない」


田村麻呂の霊も同格であることを否定した。


「顕明連は、それを持った者を邪悪に変え、

災いをもたらす。強い剣だが、邪剣じゃ。

そこの天空剣とは比較にならん」

霊は、天空が持つ剣を指差(ゆびさ)した。


「そんな恐ろしい剣を…、

貴様はどうして手に入れた?」

多我丸が聞いた。


鈴鹿御前(すずかごぜん)から()き上げた」


「鈴鹿御前!?」


多我丸も、琥珀、天空も、声を合わせて驚いた。


鈴鹿御前は、田村麻呂の女房ではなかったのか…?

田村麻呂と鈴鹿御前は、手を組んで各地の鬼を討伐したのだ。


()わば、夫婦であり同志であったはずだ。


「ははは…、驚くな!鈴鹿御前は、鬼じゃ。

儂も夫婦になってから、気が付いた。

あれは、最も邪悪な鬼じゃよ」


「はぁ?」


琥珀以下、三人は田村麻呂の霊が言った言葉に、

只々驚くばかりだ。


(ようや)く、多我丸が口を開いた。

「田村麻呂っ、…と言うことは…、

俺は鈴鹿御前の邪剣で討たれた。


鈴鹿御前は、鈴鹿の鬼…。

俺に何度も手下になれと言ってきた、

鈴鹿の鬼に俺は殺されたことになるのか!」


「結果的には、そうなるのぉ」


多我丸は、頭の中を整理しなければ、

(にわ)かに信じられない顔付だ。


琥珀が、多我丸に代わって、霊に聞いた。

「鈴鹿御前は、その後どうなったの?」


霊が話し出した。


「鈴鹿御前…、あの鬼の妖力の源は、

三振りの剣にあったのじゃ。

それらの剣は、『三明(さんみょう)の剣』と呼ばれ、

ひとつは『大通連(だいとうれん)』、

ふたつは『小通連(しょうとうれん)』、

みっつめが『顕明連(けんみょうれん)』じゃ。


この三明の剣を(わし)に奪われた鈴鹿御前は、

この世に()めなくなった。

ははは…、異界に落ちて行ったのじゃ」


異界!?

琥珀は、異界の新たな情報に反応した。


「じゃぁ、鈴鹿御前は異界にいるの?」


「そうじゃよ。あの鬼は、呪われた鬼じゃ。

三明の剣の魔力がなければ、この世に出られぬ」


多我丸が、混乱して(つぶや)いた。

「ならば…、

俺を襲っているのは誰だ?

あの(ほこら)に来た美女は何者だ?」


田村麻呂の霊が、多我丸の混乱を鎮めるように話した。


「多我丸、おまえを襲っているのは、鈴鹿御前じゃ。

鈴鹿御前に見込まれて、手下にならなかったのは、

多我丸、おまえだけじゃ。


(わし)と戦っていた頃のおまえは最強の鬼じゃった。

あの頃、おまえと鈴鹿御前が戦っても、多我丸、

おまえが勝っただろう。


ただし、鈴鹿御前には三明の剣があった。

三振りの剣がお互いに魔力を増す仕組みになっておる。


大通連は知恵の剣、

小通連は慈悲の剣、

そして顕明連は力の剣じゃ。


三明の剣は、持つ人によって、

如何様(いかよう)にもその魔力を引き出せる。

鈴鹿御前の邪心は、顕明連の力を引き出し、

邪悪な剣に変えてしまった。


そのままでは邪悪な鈴鹿御前が

何を仕出(しで)かすか、分からなかった。


じゃによって、(わし)が三明の剣を、

あの鬼から奪ったのじゃ。


その後、多我丸、おまえが鈴鹿の地へ

やって来たのじゃが、その時には

鈴鹿御前は既に異界に沈んでいた」


「ううぅ、しかし、今でも俺は光る玉に襲われているぞ」


「そこが、あの鬼の恐ろしいところじゃ。

儂も知らなかったのだが、やつは、

異界からでも攻撃ができる。

異界に落ちて出られないが、やつの力は、

異界の外にまで及んでおる」


「ううぅ…、異界から出られないのなら、

俺が見たあの美女は?何者?

鈴鹿の鬼ではないのか!」


「それは鈴鹿御前ではなかろう。

異界に落ちてから後、鈴鹿の鬼は、

妖怪どもを異界に引きずり込んだ。


大蝦蟇(おおがま)大蜈蚣(おおむかで)磯女(いそおんな)土蜘蛛(つちぐも)らじゃ。


まだまだ、異界には引きずり込まれた妖怪が

おるやもしれん。そして、妖怪どもを手懐(てなず)けて、

手下にしておるのじゃ。


その中のどれかに命じて、

おまえの様子を探ったのであろう」


田村麻呂の霊が話した内容は、多我丸も合点(がてん)

いったのだが、琥珀や天空にとっても、

これまでの異界と妖怪の関係に道筋がつくものだった。


そしてなによりも重要なことは、

晴茂を喰らった土蜘蛛も鈴鹿御前の手下だと

田村麻呂の霊は言ったのだ。


本当だろうか。

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