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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第3章 鉄鼠
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鉄鼠<12>

琥珀も天空(てんくう)も、多我丸(たがまる)に聞きたいことが山ほどある。

そんな二人の気持ちを知ってか知らずにか、多我丸は尋ねた。

鉄鼠(てっそ)は…、いないか?」


天空が答える。

「ネズミは、おまえを探しに行った。ここにはいない」


安堵(あんど)の表情を浮かべた童子、多我丸が言う。


「琥珀とやら、安倍陰陽師の呪術で、ここに坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)の霊を

呼び出してくれ。おそらく、あの巨岩の下に眠っているはずだ」


琥珀は、その要求に(あき)れた。こっちも色々と聞きたいことがある。

それなのに、一方的に要求だけをしてくる多我丸だ。


天空も琥珀と同じ思いだったのだろう、やや不機嫌に答えた。


「多我丸、ものを頼む時には、もう少し言い様があるし、

一方的では駄目だろう!田村麻呂の霊を呼び出す理由とか…、

なぜネズミがいるといけないのかとか…。


それに、こっちもおまえに聞きたいことがあるんだ!」


そんな天空の言葉にも多我丸の態度は変わらない。

「事は急を要す。まずは、田村麻呂の霊だ」


その言い(ぐさ)に天空も怒った。


多我丸を指で摘み上げると、

自分の顔の前にぶら下げ、大声で言った。


「おまえは何様のつもりだっ!

俺たちが助けてやったんだぞっ!」


しかし、多我丸も負けてはいない。

「その礼は、既に言った」


あまりにも無礼なその言葉に、

天空は、摘まんだ多我丸を大地に(たた)きつけようとした。


「待って、天空!」

()めたのは琥珀だ。


「多我丸、私は理由もなく霊を呼び出さないよ。

田村麻呂の霊を呼び出して、何をしようとしているのか、

聞く必要があるわ」


坂上田村麻呂の霊を呼び出せるのは、

今は琥珀しかいない。


その琥珀の意見をのまなければ霊とも会えないと、

多我丸は琥珀の言い分に従うことにした。


「分かった、琥珀。まずは、話そう」


天空が、多我丸を枯れ木の上に下ろした。


そして、多我丸が話し出した。


 多我丸が鬼ケ城を拠点として紀伊半島で暴れ回っていた頃、

妖怪としては一・二を争う鬼の首領だった。


多くの鬼を引き連れ、西は熊野、奈良の都まで

勢力を伸ばしていた。


そんな多我丸に接近する別の鬼が、北は鈴鹿の山地にいた。


多我丸に部下を使者として再三送って、

自分の配下に入れと要求してきた。


多我丸はその都度、使者の鬼を血祭りにして、

その首級を送り返してやった。


何度目かの使者を切り捨てた多我丸は、

(ごう)()やして鈴鹿の山地に攻め入った。


しかし驚くことに、多我丸の高ぶる気迫とは裏腹に、

鈴鹿は静かなもので、鬼の気配などひと欠片(かけら)もなかった。

鈴鹿の周辺をくまなく調べてみたが、平安な地域だった。


多我丸は拍子(ひょうし)抜けし、鬼ケ城に戻った。


その後、鈴鹿からの使者は途絶(とだ)え、そして一年後、

坂上田村麻呂将軍が、軍勢を引き連れて、

多我丸成敗(せいばい)に鬼ケ城にやって来た。


多我丸は、どれ程の軍勢がやって来ても、

蹴散(けち)らす自信があった。

たかが人間の軍勢だ、鬼の妖力に人間は(かな)うものではない。


田村麻呂の軍勢は幾度も鬼ケ城を攻めたが、

その度に多くの犠牲を出し撤退した。


多我丸は、無傷のままだ。

鬼ケ城で悠々(ゆうゆう)と過ごし、

時には田村麻呂の軍勢を飛び越えて村々で悪さを働いた。


 更に一年が過ぎ、十何度目かの田村麻呂の攻撃の時、

多我丸は胸騒ぎがした。

田村麻呂の軍勢の様子がいつもと違ったのだ。


多我丸はその朝、自ら田村麻呂軍の偵察に出かけた。


そこで目にしたのは、田村麻呂が光り輝く一振りの剣を

手にしていた姿だった。

その剣の光を、多我丸は直視できなかった。


朝日を浴びて光る剣は、邪悪なものを全て消し去るような

絶大な威力があった。


多我丸は、急ぎ鬼ケ城に帰り、(まわ)りを幾重(いくえ)にも固めさせた。

自身は鬼ケ城から海に浮かぶ小島に渡り、

そして、身を(ひそ)めた。


その時の田村麻呂の軍勢は強かった。

幾重にも固めさせた鬼達の防衛線をあっという間に

突破すると、鬼ケ城を制圧し、首領の多我丸を探した。


田村麻呂が光る剣を手に、

『多我丸!どこだっ!勝負しろっ!』と叫ぶ。


多我丸としても、妖力・武力を誇った最強の鬼だ。

配下の鬼達が止めるのも聞かず、

『ここにいるぞっ!』と大声で(こた)え、

隠れていた小島の天辺(てっぺん)に立った。


田村麻呂は、『この剣を受けてみろ』と

光る剣を多我丸に投げた。


いつもであれば、容易に剣をかわせる多我丸だが、

剣の持つ魔力だろうか、多我丸は一歩も動けず

剣を胸に受けてしまった。


こうして多我丸は坂上田村麻呂に()たれ、

その首級は大馬神社(おおまじんじゃ)に埋められたのだ。


 その後の話は、鉄鼠ネズミが話していた内容とほぼ同じだ。


嵐と落雷によって、多我丸は復活するのだが、

千手観音に帰依(きえ)し童子となった。


鉄鼠ネズミの話と食い違うのは…、

熊野古道の脇道を入った(ほこら)に来た妙齢(みょうれい)の美女のことだ。


ネズミは、その美女に妖気を感じなかったと言った。

しかし、二回目に祠に来た美女を見た多我丸は、

女に異様な気を感じたのだ。


異様な気には、強い妖気も含まれていた。


多我丸はその女を見た時、反射的に逃げたのだ。

会ってはいけないと感じたという。


そして、()み慣れた鬼ケ城に逃げ込んだ多我丸だが、

そこに待っていたのは妖怪鉄鼠の集団だった。


鉄鼠ネズミは多我丸に、どうして観音様に

会わないのだと詰め寄った。


多我丸が、あの女は観音様ではないと言ったが、

鉄鼠ネズミは聞く耳を持たなかった。


鉄鼠ネズミの手下、数十匹のネズミが四方に散った。


その後、多我丸は強い力で身体を制御され、

異界に封じられたのだった。


 長い年月、多我丸は異界で(ひと)り考えた。


祠に来た女は、鈴鹿の山地にいた鬼ではないだろうか。

やはり目的は、多我丸を自分の傘下に加えることだろう。


また、坂上田村麻呂が朝日に光る剣を持ち、

突然強くなったのは何故なのか。

誰かが魔力を持つ剣を田村麻呂に渡したに違いない。

それも鈴鹿の鬼か。


そして、妖怪鉄鼠が何故、祠で

千手観音の世話をしていたのか。

もしかすると、鉄鼠ネズミは、

鈴鹿の鬼の回し者かも知れない。


多我丸の話を聞いていた琥珀と天空、

やっと天空が口を挟んだ。


「おまえを異界に封じたのは、誰だ?」

「分からん。抵抗しがたい力が働いた」


「鈴鹿の鬼なの?」

琥珀も続いて聞いた。


「いいや、違う。もし鈴鹿の鬼なら、

異界に封じた時点で俺を如何様(いかよう)にも始末(しまつ)できたはずだ」


「それで…、田村麻呂の霊に会って、何がしたいの?」


「まず、俺を切った剣を聞く。

誰から授かったのか、どんな魔剣か…。

その答えが、俺を異界に封じた者に結びつく。


光の玉で、俺を攻撃してくる者の正体が分かるはずだ」


()(ほど)…。それで(あせ)っているのか」


「ネズミは鈴鹿の鬼の回し者なの?」

「はっきりは分からん。しかし、油断できぬ」


琥珀は、もう少し異界の話を聞こうとした。

しかし、多我丸は焦っていた。

早く田村麻呂の霊に会って聞きたいのだ。


「琥珀、頼む!田村麻呂の霊を呼び出してくれ。

何度も言うが、事は急を要す」


「分かったわ」


大きく(うなづ)いて琥珀は、土に(まり苔生(こけむ)した

巨岩に左手を触れた。

片膝をついた格好の琥珀は、ぶつぶつと呪文(じゅもん)(とな)える。


そして、右手を高く上げると、小さく(いん)を切った。


(あた)りは、この世に音が無くなったのかと思える程の

静寂(せいじゃく)に包まれた。そのまま数分の時が流れた。


突然、苔生した巨岩の向こう側に、青い着物を着た

痩身(そうしん)の大男が現れた。


目は爛々(らんらん)(するど)く、

顎鬚(あごひげ)が長く、

まゆ毛も長く、

頑丈(がんじょう)そうながたいの男だ。


征夷大将軍、坂上田村麻呂の霊だ。

燃えるような目で琥珀を見据えている。

「何者じゃ!」


琥珀は、立ち上がると目礼(もくれい)し、名乗った。

「陰陽師、安倍晴茂が式神、琥珀と申します」

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