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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第3章 鉄鼠
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鉄鼠<10>

 数時間後、琥珀と天空(てんくう)は清水寺から数キロ南の西野山古墓(こぼ)に来ていた。

竹藪(たけやぶ)の中で二人は多我丸(たがまる)を待っているのだ。


鉄鼠(てっそ)ネズミにも連絡したが、ネズミもまだ現れていない。

西野山古墓は、古い時代の貴族の誰かが埋葬された墓地と伝わっているが、

埋葬者は正確に分かっていない。


「ここへ多我丸が来るって言ったの?天空」

「ああ、言った」


「なんで、こんな所へ…?」

「それは聞いていない。()(かく)、待つしかない」


この竹藪には、怪しい気はない。

二人は、気配を抑えてじっと待った。


ふいに、琥珀が妖気を感じた。

「この妖気は、…」

「鉄鼠だ」


ちょろちょろと枯葉を踏んで、鉄鼠ネズミが現れた。


「こんな場所に多我丸が来るのかぃ?」

「ああ、西野山古墓と言った。ここだ」


鉄鼠ネズミは辺りを見回した。何もない竹藪だ。

ネズミは、きょろきょろと辺りを警戒しているように落ち着かない。


少し離れた所に、折れた太い竹が横倒しになって朽ちている。

その方向を見詰めて、鉄鼠ネズミが小声で言った。

「おい、あれ…、何だぃ?」


琥珀、天空が、鉄鼠ネズミの視線の方を見た。

「何だいって、竹が朽ちているんだ」


「いやいや、そのもっと向こうだぜぃ。ほら、あの…、

斜めになった竹の根元…、こんもり土が盛り上がった横だぜぃ」


「うんん?」

琥珀、天空には何も不思議な物は見えない。


「そうか、目線が違うんだ!

おれの目線で見てみな、もっと低くして…」


鉄鼠ネズミにそう言われて、琥珀と天空は、

顔を地面近くまで下げてみた。


確かに、ネズミの言う場所に、キラッと光を反射する物がある。


「何かのゴミが光を反射してるんじゃないか?」

天空が答えた。


「違うぜぃ!ほら…、点滅しているんだぜぃ」


点滅している?


もう一度、琥珀と天空は、顔を下げて見た。

規則正しい点滅ではないが、

ネズミの言う通り不自然に点滅している。


何だろう?


天空が、その場所に、音もなく一気に飛んだ。

そして、その不可思議な物を(のぞ)き込んだ。


天空は、顔を近づけては首を(かし)げ、

また顔を近づけて観察している。

天空は琥珀を手招きで呼んだ。

琥珀もその場所に飛んだ。

ネズミも遅れじとその場所へ走った。


「どうやら、穴のようだ」

「あな?」


天空の言葉に琥珀が覗き込んだ。

ネズミがこんもり土が盛り上がったと表現したのは、

大きな石のようだ。


全体に苔生(こけむ)した大石が、土が盛り上がったように見えたのだ。


その半分以上埋もれた石に、

小指の先ほどの穴が開いていて、

そこから光が漏れ出ている。


「そうね…、穴だわ」


「この石の中か、石の下か、何か光る物があるのか?」

そう言いながら、天空が石に()れようとした。


「天空!それに(さわ)るなっ!」


突然、頭上から声がした。

琥珀と天空が、上を見上げる。

ネズミは驚いて、枯葉の中へ(もぐ)った。


声がした方向には誰もいない。

琥珀は気を探ったが、怪しい気配はない。


琥珀は杖を、天空は剣を構え、

背中合わせになって様子をうかがった。


緊張した時が流れたが、何事も起らないので、

ごそごそとネズミが枯葉の下から()い出してきた。


「何だい、あの声は…?」


ネズミの問いに、構えを解いた天空が答えた。

「解らない。しかし、迫力のある声だった」


「死の底から聞こえたような気がする。

声は頭上から聞こえたと思ったけど、

あの声が発せられた方角は…、なかった」


琥珀が妙なことを言った。

声の聞こえた方向がないと言う。


まるで、地の底から、

この空間全体に声が満ちた感じだったと言うのだ。


「ああ、そうかも知れない」

天空も琥珀の意見に同調した。


「おれのことを『天空』と呼んだ。

おれを知っているやつだ」


天空を知っている?

しかも、得体のしれない者となると、

そう多くはいないはずだが、

天空には一向に見当がつかなかった。


「多我丸じゃあないよな…」

鉄鼠ネズミが(つぶや)いた。


「いや、多我丸ではない。

多我丸が声を出せば、その居場所はおれには分かる。

さっきの声は、気配のない声だ」


「へへへっ、(おど)かすなよ…。

気配のない声って、怨霊(おんりょう)じゃないよな。

俺は、どうも怨霊は苦手(にがて)だぜぃ」


「霊気は感じなかったわ」

琥珀が答えた。


いずれにせよ、

得体がしれないのだから用心するに限ると、

琥珀、天空そしてネズミは申し合わせた。


「兎に角、油断はできないわ。

ここは、妙に重い空気が(ただよ)っている」

琥珀の言葉に、天空とネズミが(うなづ)いた。


「多我丸は、こんな場所に来るのかしら?」

琥珀は、ここに来ると言った多我丸を疑い始めた。


天空と一緒にいる所を、何者かに光る玉で襲われたのだ。

その天空ともう一度会うのは、

多我丸にとって危険ではないのか。


「あっ!」


その時、鉄鼠ネズミが()頓狂(とんきょう)な声を出した。

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