鉄鼠<10>
数時間後、琥珀と天空は清水寺から数キロ南の西野山古墓に来ていた。
竹藪の中で二人は多我丸を待っているのだ。
鉄鼠ネズミにも連絡したが、ネズミもまだ現れていない。
西野山古墓は、古い時代の貴族の誰かが埋葬された墓地と伝わっているが、
埋葬者は正確に分かっていない。
「ここへ多我丸が来るって言ったの?天空」
「ああ、言った」
「なんで、こんな所へ…?」
「それは聞いていない。兎に角、待つしかない」
この竹藪には、怪しい気はない。
二人は、気配を抑えてじっと待った。
ふいに、琥珀が妖気を感じた。
「この妖気は、…」
「鉄鼠だ」
ちょろちょろと枯葉を踏んで、鉄鼠ネズミが現れた。
「こんな場所に多我丸が来るのかぃ?」
「ああ、西野山古墓と言った。ここだ」
鉄鼠ネズミは辺りを見回した。何もない竹藪だ。
ネズミは、きょろきょろと辺りを警戒しているように落ち着かない。
少し離れた所に、折れた太い竹が横倒しになって朽ちている。
その方向を見詰めて、鉄鼠ネズミが小声で言った。
「おい、あれ…、何だぃ?」
琥珀、天空が、鉄鼠ネズミの視線の方を見た。
「何だいって、竹が朽ちているんだ」
「いやいや、そのもっと向こうだぜぃ。ほら、あの…、
斜めになった竹の根元…、こんもり土が盛り上がった横だぜぃ」
「うんん?」
琥珀、天空には何も不思議な物は見えない。
「そうか、目線が違うんだ!
おれの目線で見てみな、もっと低くして…」
鉄鼠ネズミにそう言われて、琥珀と天空は、
顔を地面近くまで下げてみた。
確かに、ネズミの言う場所に、キラッと光を反射する物がある。
「何かのゴミが光を反射してるんじゃないか?」
天空が答えた。
「違うぜぃ!ほら…、点滅しているんだぜぃ」
点滅している?
もう一度、琥珀と天空は、顔を下げて見た。
規則正しい点滅ではないが、
ネズミの言う通り不自然に点滅している。
何だろう?
天空が、その場所に、音もなく一気に飛んだ。
そして、その不可思議な物を覗き込んだ。
天空は、顔を近づけては首を傾げ、
また顔を近づけて観察している。
天空は琥珀を手招きで呼んだ。
琥珀もその場所に飛んだ。
ネズミも遅れじとその場所へ走った。
「どうやら、穴のようだ」
「あな?」
天空の言葉に琥珀が覗き込んだ。
ネズミがこんもり土が盛り上がったと表現したのは、
大きな石のようだ。
全体に苔生した大石が、土が盛り上がったように見えたのだ。
その半分以上埋もれた石に、
小指の先ほどの穴が開いていて、
そこから光が漏れ出ている。
「そうね…、穴だわ」
「この石の中か、石の下か、何か光る物があるのか?」
そう言いながら、天空が石に触れようとした。
「天空!それに触るなっ!」
突然、頭上から声がした。
琥珀と天空が、上を見上げる。
ネズミは驚いて、枯葉の中へ潜った。
声がした方向には誰もいない。
琥珀は気を探ったが、怪しい気配はない。
琥珀は杖を、天空は剣を構え、
背中合わせになって様子をうかがった。
緊張した時が流れたが、何事も起らないので、
ごそごそとネズミが枯葉の下から這い出してきた。
「何だい、あの声は…?」
ネズミの問いに、構えを解いた天空が答えた。
「解らない。しかし、迫力のある声だった」
「死の底から聞こえたような気がする。
声は頭上から聞こえたと思ったけど、
あの声が発せられた方角は…、なかった」
琥珀が妙なことを言った。
声の聞こえた方向がないと言う。
まるで、地の底から、
この空間全体に声が満ちた感じだったと言うのだ。
「ああ、そうかも知れない」
天空も琥珀の意見に同調した。
「おれのことを『天空』と呼んだ。
おれを知っているやつだ」
天空を知っている?
しかも、得体のしれない者となると、
そう多くはいないはずだが、
天空には一向に見当がつかなかった。
「多我丸じゃあないよな…」
鉄鼠ネズミが呟いた。
「いや、多我丸ではない。
多我丸が声を出せば、その居場所はおれには分かる。
さっきの声は、気配のない声だ」
「へへへっ、脅かすなよ…。
気配のない声って、怨霊じゃないよな。
俺は、どうも怨霊は苦手だぜぃ」
「霊気は感じなかったわ」
琥珀が答えた。
いずれにせよ、
得体がしれないのだから用心するに限ると、
琥珀、天空そしてネズミは申し合わせた。
「兎に角、油断はできないわ。
ここは、妙に重い空気が漂っている」
琥珀の言葉に、天空とネズミが頷いた。
「多我丸は、こんな場所に来るのかしら?」
琥珀は、ここに来ると言った多我丸を疑い始めた。
天空と一緒にいる所を、何者かに光る玉で襲われたのだ。
その天空ともう一度会うのは、
多我丸にとって危険ではないのか。
「あっ!」
その時、鉄鼠ネズミが素っ頓狂な声を出した。




