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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第3章 鉄鼠
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鉄鼠<8>

「割に人が多いぜ。夜を待った方がいい」

ネズミが琥珀達に言った。琥珀は(うなづ)いた。


日が暮れるまで、この場所で待機することにした。


本来の姿に戻った天后(てんこう)が、ネズミの心配事を琥珀達に話した。

式神達が、なぜ多我丸(たがまる)を探すのか、という疑問だ。


天空(てんくう)が、まず話し出した。

「そんなことを考えていたのか。いいか、ネズミ、よく聞けよ!

おれ達、晴茂様の式神は、異界から出てくる邪悪な妖怪を退治してきたんだ。


妖怪大蝦蟇(おおがま)だろ、次に磯女(いそおんな)だ。

そこでだ、異界のことを知れば、妖怪を退治するのが、もっと楽になるはずだ。

多我丸は、異界からおれが出してやった。異界の様子などを知っているはずだ。

だから、多我丸に会いたいってことだ」


琥珀は、天空が余計なことを言うのではないかと不安に思っていたが、なかなか良い説明ではないか。


「ふぅーん…。異界ねぇ…」

ネズミは、まだ完全に納得した顔をしていない。


「妖怪が異界から出てくるのかぃ…。異界もいろいろあるけど…、どうやって妖怪は異界に入ったんだぃ?

それが分かれば、異界のことは理解が進むぜぃ。


多我丸もそうだ…、あいつ、どうやって異界へ…???

あれっ!天空、おまえが多我丸を異界から出したと言ってたぜぃ。

多我丸は…、自力では異界から出られなかったってことか…。

入ったら出られない?

そりゃあ、異界に封印されたってことに…なる…ん…だが…」


このネズミ、なかなか頭のキレが鋭い。

大裳(たいも)が、説明を続けた。


「そうです。妖怪達も多我丸も、異界に封印されていたのです。

誰に、どうやって封印されたかは分かりません。

妖怪達は、何かの切っ掛けで異界から出て来たのですが、

多我丸は、この天空剣の魔力で封印が解けたのです。

ですから、ネズミの疑問も多我丸に聞けば分かるかも知れません」


「ちょっと待てよ、大裳!

封印すると言えば、おまえらのご主人、陰陽師の得意技だぜぃ。

ほれっ、陰陽師(おんみょうじ)呪術(じゅじゅつ)で妖怪を結界(けっかい)に封印するだろぉ?

多我丸も陰陽師が…」


大裳が、ネズミの言い分をきっぱりと否定した。

「いいえ、多我丸は我らのご主人様、陰陽師によって封印されたのではありません!」


ネズミの頭脳が回転した。

「ふぅーん…。陰陽師ではない。

他に、妖怪を封印できるほどの結界や異界を造れる者は…?神か…仏か…?」


そこまで言って、ネズミの目が鋭く大裳を(とら)え、(つぶや)いた。


「観音様…?」


「異界を造ることができるのは、おまえの言う通りです。

強い呪力を持つ陰陽師、そして神か仏…」


「あの時の観音様が、多我丸を異界に封じたと…!

そりゃあ、ないぜ。多我丸を封じなければならない理由が、全くないぜぃ」


大裳は、ネズミの言葉を制して、言った。

「非常に強い妖力を持つ妖怪も、異界を造れますぞ」


ネズミは、大裳の発言に驚いた。

これまで、ネズミの情報網では、妖怪が異界を造った話は聞いていない。


そもそも異界は、時空を(ゆが)める能力が必要なのだ。

そんな能力は、やはり神、仏、そして強い呪力(じゅりょく)を持つ陰陽師にしか備わっていない。

いくら強くても、基本的にはまやかしの力である妖力で時空を歪められるとは考え難い。


「妖力で…異界が…、造れる!?」

ネズミは、大裳を鋭い眼差しで睨みながら言った。


驚きの表情から、ネズミの顔は次第に青ざめた表情へと変わって行った。

やはり、このネズミ、頭の回転が速く、しかも切れる。


「天空…、おまえが、謎の美女に妖気はなかったかと、俺に聞いたのは…、このことかぃ?」

「そうだっ」


「観音様…、いや、あいつは…、妖怪?」


その時のことをもう一度思い浮かべるネズミだった。

「いやぁ…、妖気はなかった。妖気は感じなかったぜぃ」


やはり、ネズミは、観音様が現れたのだと信じたいのだ。


「おまえの気持ちも分かるよ。それもこれも、多我丸に聞けば、はっきりするはずだ」

天空は、ネズミにそう言った。


 そろそろ参拝者もいなくなった。琥珀が立ち上がろうとした時、あちこちに異様な気を感じた。

琥珀が杖を握り締めた。その様子を感じ取ったのか、天空も(あた)りに気を配る。

何者かが近くにいる。妖気も感じる。


琥珀は、用心しろと大裳と天后を見た。

大裳は、すぐに反応し臨戦態勢になった。


ところが、天后は、気を緩めて普通の状態でいるではないか。

琥珀は、天后ともあろう式神がこの異変を感じないのかと、合図をしようとした。


「ネズミ、仲間が集まって来たよ。ほら、式神のみんなが気を張ってる」

天后がネズミに言った。天后は、既にこの妖気は経験済みだ。


「ああ…、大丈夫ですぜぃ。あいつらは、俺の手下ですから…」

ネズミは、みんなにそう言って、チュチュと鳴き声を出しながら林の方へ移動した。


すると、数匹のネズミが(まわ)りの林から集まってきて、何事か話し合っている。

(しばら)く、話し合ったネズミは、ささっと林の中へ走って行く。


鉄鼠(てっそ)ネズミが、戻ってきた。やや顔色が()えない。

「多我丸が、消えたぜぃ」


「消えた?そりゃ、どういうことだっ!」


頭を()きかき、ネズミが報告をした。

「いやぁ…、多我丸は白馬社っていう小さな(やしろ)に隠れていたんだ。

それを、俺の手下のネズミが見張っていたんだが、ついさっき、忽然(こつぜん)と姿が消えたらしいぜぃ。

慌てて辺りを探したが見つからない。それで、俺に報告に来たってことだぜぃ」


「我々も、探そう!」

「いやぁあ、それは、俺たちに任せてくれ」


琥珀が言ったのを、ネズミが拒否した。


「おまえら式神も優秀だが、何かを探すとなれば、俺たちネズミに(かな)う者はいないぜぃ。

天后にも言ったが、俺たちの情報網はどこまでも伸びているんだ。

任せときなっ!おまえらは、妖怪と戦って疲れているだろう。

少し休んでなよ。見つけたら、必ず知らせるぜぃ」


琥珀たちは、鉄鼠を信用できないのではないかと、不審顔をした。

それを察したネズミは、続けて言った。


「まぁ、ネズミの言うことは信用できないって思うのは当然だけどさ、

はっきり言って、おれもおまえ達を信用できないんだぜぃ。


そりゃあ天下の十二天将(てんしょう)だし、滅多(めった)なことはないと思うが…。

多我丸は…、今は千手観音に帰依(きえ)して善行をやってるんだけど、

元は邪悪な鬼だからさ。鬼退治は、陰陽師が得意とすることだろ。


おまえ達が多我丸を見つけたら、成敗しちゃうんじゃねえかって、

心配なんだぜぃ。こう見えても…、多我丸は友達だから…」


琥珀は、妖怪から『友達』なんて言葉を聞くとは思わなかった。

そして、『友達』と恥ずかしそうに言ったネズミの顔と仕草(しぐさ)に、思わず笑みがこぼれた。


「友達…、なの?」


「なっ…なんだよぉ!可笑(おか)しいかぁ?」


この妖怪鉄鼠は、無邪気な妖怪だと式神達は感じた。

あの天空だって、にやにやとネズミを見ている。


琥珀はネズミに言った。

「分かった。あんたに任せる。多我丸を探してっ!」


「大丈夫かぃ?『友達』だからって、逃がすなよ」

天空もネズミの言い分を了解した。


天后と朱雀(すざく)は、笑顔で頷いた。


妖怪鉄鼠は、『じゃぁ、見つけたら連絡するぜぃ』と、杉の巨木が立ち並ぶ山に入って行った。


 奇妙な事件が南紀で起こっていると、朱雀が琥珀に連絡して来て以来、

妖怪磯女、(あぶく)の異界、千手観音の使いという多我丸、妖怪鉄鼠、そしてもちろん妖怪アオジが登場した。


沢山の事が起こり、異界について分かった事もあれば、更に謎が深まった部分もあった。

琥珀は、鉄鼠が多我丸を探している間に、これらの事を整理したいと考えた。


天空、天后、大裳、朱雀の式神には、一旦解散すると言い、琥珀は京都の晴茂のアパートへ戻った。


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