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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第3章 鉄鼠
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鉄鼠<7>

琥珀達は、(うなづ)いて聞いた。


「どこ?」

大馬(おおま)神社だぜぃ」


大馬神社は、鬼ケ城から北西に直線距離で約五キロメートル、辺りは巨岩と杉の巨木が立ち並ぶ山奥だ。

坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)に討たれた多我丸(たがまる)の首級が埋められた神社だ。

また、ネズミの話によると、鬼の多我丸が復活した場所でもある。


「分かった。行こう!」

琥珀が答えた。


「俺は、この石の隙間から繋がっている洞窟を伝って行くが、

おまえ等はどうする?大馬神社で落ち合うかぃ?」


琥珀は、天后(てんこう)を見た。

天后は頷くと、ネズミに化けた。

天后の、呪術(じゅじゅつ)仙術(せんじゅつ)が融合した変化(へんげ)の術だ。


「ありゃぁぁ、見事なもんだぜぃ」


ネズミは目を丸くして驚いだ。


「天后が、おまえと一緒に行く。残りは上空から行く。どこで落ち合う?」

琥珀の問いに、ネズミが答える。


「大馬神社の境内(けいだい)に夫婦杉の巨木がある。その裏で会おう」


妖怪鉄鼠(てっそ)は、天后が化けたネズミを連れて、石の隙間に飛び込んだ。

それを見届けて、琥珀は朱雀(すざく)の背に乗り、天空(てんくう)大裳(たいも)は朱雀の足に(つか)まって大馬神社へ飛んだ。


 天后は、ネズミの後に従って、狭い洞窟を進んだ。ネズミ一匹がやっと通れる程度の狭い穴も何度か(もぐ)った。

こんな洞窟が大馬神社まで続いているのだろうか。狭い洞窟は、左右に上下にくねりながら続いた。


ふいに広い空間に出た。


すると、木の根や岩が入り組んでいるあちらこちらの陰に、何かがいることに天后は気付いた。

ネズミは先に進みながら、天后の様子を(うかが)っているようだ。


ネズミが(ひそ)んでいる者に気付いていないはずはない。

天后は、ネズミとやや距離を取り、用心深く後を追った。


ネズミはチョロチョロと走って進んでいたが、太い木の根が洞窟の真ん中を横切っている場所を過ぎた。

そこで、ネズミが止まり、天后を振り返った。ネズミは妖気を強めながら、妖怪鉄鼠に変化(へんげ)した。


天后も止まる。


(まわ)りを警戒しながら、天后がネズミの姿のままで言った。

「鉄鼠、()めな!何を(たくら)んでいるか知らないけど、おまえに勝ち目はないわ」


鉄鼠は、天后の方一へ歩進み、更に妖気を強めた。

あちこちの陰に、潜む者の赤い目が見える。どうやら、鉄鼠の手下たちのようだ。


十匹位はいるだろうか。鉄鼠とその手下たちは、最大限に妖気を強めた。

しかし、天后にとってみれば、取るに足らない妖気だ。


ネズミ姿の天后が、鉄鼠の方にじりじりと進む。

天后の目は、鉄鼠に『殺意を消せ』と威嚇(いかく)している。


いくら弱いとはいえ、殺意のある攻撃には、本気で立ち向かう場合がある。

何かの拍子に、術を真面(まとも)に喰らうかも知れないからだ。


天后が本気で攻撃すれば、鉄鼠の十匹くらいは、一瞬で滅びる。

それ程の力量の差が、天后と鉄鼠にはある。

天后は威圧して、そのことを鉄鼠に知らせているのだ。


不意に、陰に隠れていた一匹の鉄鼠が、天后を襲った。

しかし、その鉄鼠が天后の場所に辿り着く前に、天后の姿がふっと消えた。


天后が消えたと同時に、どこからともなく鋭く(とが)った氷の矢が、

襲ってきた鉄鼠の目の前の土に突き刺さった。


そして、天后の声が聞こえた。


「みんな、()めなっ!鉄鼠が何匹いようと、問題ではないわよ。次は本気で氷の矢を刺すからね」


その声が止むとすぐに、数本の氷の矢が飛んで来て、鉄鼠の大将の周りに刺さった。


鉄鼠は、その氷の矢をかじった。しかし、歯が立たない。

しかも、周りを氷の矢で囲まれた鉄鼠は、そこから抜け出られないのだ。


天后の得意(わざ)の氷の柱だ。数匹の鉄鼠が、その周りに集まって氷の矢をかじった。

だが、天后の氷は硬い。鉄鼠たちが、かじるのをあきらめた頃、天后ネズミがすぅっと姿を現した。


「どう?硬いでしょう」

そう言った天后は、右手を上げた。


氷の矢が溶けてゆく。


「鉄鼠、おまえには邪気がなかったのに、なぜ私に敵意を持つの?」


鉄鼠は妖気を解き、普通のネズミの姿に戻った。

他の鉄鼠たちは、さっとどこかへ去った。


「敵意は持ってないぜぃ。けどさ、おまえたちが、どんな理由でやって来て、

なぜ多我丸を探しているのか、分からないんじゃぁ、心許(こころもと)ないぜ。

下手(へた)をすりゃあ、俺たちを狙ってきたのかもしれねぇし…」


「あははは、あんたを狙ったりしないよ。

大馬神社に着いたら、教えてあげるから、急ごうよ」


「ああ、分かったぜぃ。安倍の陰陽師は、邪気のない妖怪を攻撃しないと聞いてるんだ。

あんた達は、その式神だから、信じるけどさぁ…」


ネズミは、やや不満そうな顔で、納得したのかしないのか、そんな言葉を残して走り出した。


天后も後を追う。


 大馬神社に着いた琥珀達は、既に夫婦杉の近くに身を隠していた。

参拝者が意外と多い。こんな場所ではネズミと話はできない。


そう考えていた時、裏山の方から天后の合図が聞こえた。

大馬神社の境内(けいだい)ではあるが、人が入ってこない山中に、ネズミと五式神が集まった。

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