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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第3章 鉄鼠
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鉄鼠<5>

天空(てんくう)の疑問も(もっと)もであった。


三井寺(みいでら)鼠で有名な鉄鼠(てっそ)は、三井寺の僧侶、頼豪(らいごう)怨念(おんねん)が生んだネズミの怨霊(おんりょう)と伝わっている。

比叡山の寺に所蔵される経典を、その鋭い歯で食い千切ったとされる。


四人の式神の前にいるネズミには霊気はない。

だから鉄鼠ではない、と天空は言うのだ。


琥珀は、大裳(たいも)の顔を見た。ようやく冷静になった大裳が解説する。


「平安時代に、天皇に皇子が授かるように頼豪は祈祷(きとう)を続けました。

うまく皇子が誕生すれば、思いのままの褒美(ほうび)(もら)える約束をされていたのです。

首尾よく皇子が誕生したのですが、褒美を貰う段になって、

比叡山延暦寺の邪魔により約束が叶えられなかったのです。


その後、頼豪はこの事を(うら)み、百日の断食をして果てました。

その頼豪の怨念が怨霊鉄鼠を生んだと言われています」


大裳のこの解説が正しければ、やはり鉄鼠は怨霊であり、妖気ではなく霊気を伴わなければならない。

琥珀も天后も、()(ほど)(うなづ)いた。


ところが、それを聞いていたネズミは、鼻で笑った。

「へへぇん、ちょっと、式神のみなさん!本物の鉄鼠がここにいるのだから、そんな伝説のような解説は要らないぜ」


大裳が聞く。

「どこか間違っていますかな?」


「いいや、話は(おおむ)ねあってるぜぃ。だが、俺達は妖怪だ。

あの坊主の霊が俺の手下を乗っ取りやがった。そして怨霊に仕立てたんだぜぃ。

妖怪を乗っ取ってしまう程、強い怨念があったんだろな」


「成る程、そうでしたか…」


天空は、そんな話を聞いて感心している場合かと、大裳に言った。


「しかし、ネズミ!おまえは妖怪だとしてもですよ、あの童子が多我丸(たがまる)だというのは、合点(がてん)がゆきません。

童子には、法力のような力を感じましたぞ」

気を取り直した大裳が聞いた。


「へへっ、長い話になるが、聞きたいかぃ?」


大裳をなめているようなネズミの口調に、天空が剣を振り上げた。

ネズミは、身を縮めて言った。

「分かった、分かったぜ、天空。きちんと話すからさ。その天空剣を仕舞いなよ」


天空の(おど)しに大人(おとな)しくなったネズミが次のように話した。


 鬼ケ城を本拠地とし、この紀伊半島の南を荒らしまくっていた鬼が、多我丸だった。

そして、勅命を受けて多我丸を成敗したのが、坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)だ。

その成敗を助成したのが千手観音であり、これは伝説通りだ。

討たれた多我丸の首は大馬(おおま)神社に埋められていた。


しかし、百年ほど後のある大嵐の夜、大馬神社の裏にある岩山が崩れ、

多数の巨岩が転がり落ちる災害が起こった。


その内の一つの巨岩が、多我丸の首が埋まった場所を直撃したのだ。

その弾みで多我丸の首級が飛び出し、そこに嵐の稲妻が落ちた。

その衝撃で目覚めた多我丸は、再び鬼ケ城に逃げ込み、悪さを働くようになった。


それを見かねたこの(ほこら)の千手観音が、法力で多我丸を小人(こびと)にし、その妖力も消し去った。

何の力も持たない、ただの小人になった多我丸は、近郷の人々に追い回され、

子供達にも(いじ)められる毎日だった。


それも哀れに思った千手観音は、千手観音を守る童子になるなら、救いの手を差し延べてやろうと言った。

多我丸は、その言葉に感謝し、仏に帰依(きえ)し、いささかかの法力を授かって千手観音を守護する童子となった。


「多我丸が生き返った話は聞いておりませんが…?」

大裳が、腕を組みながら(つぶや)いた。


「俺の話を疑うのなら、勝手にしろぃ。

多我丸が生き返った大嵐の岩崩れで出来たのが、大馬の清滝だ。大馬神社の裏山にあるぜぃ。

転がり落ちた岩を水が流れる綺麗な滝だぜぃ」


「ふむふむ…」


琥珀達は、取り敢えず、このネズミの言うことを聞くしかない。

信じるか否かは、別の問題だ。


「それで、その多我丸…、その童子は、どこへ行った?

まだ、中にいるのか?」


「多我丸は、もういないぜ。裏から洞窟を伝って、出て行ったぜぃ」

天空の質問に、ネズミはあっさりと答えた。


「ええっ、この中にはいないの?」

琥珀が嘆いた。それなら、童子を追わなければと、琥珀と天空が動き出したのを見て、

大裳がそれを制した。


「鉄鼠にもうひとつ聞きたいことがあります。童子の行方は、鉄鼠が知っているようですから…」

ネズミは、うんうんと頷く。どうやら童子の行き先を知っているようだ。


大裳はネズミに問うた。


「千手観音を守護する童子となった多我丸が、なぜ異界に封じられたのですか?

相当長く異界に封じられていたようです。我々が童子を異界から脱出させたのですが、

その後、そこの石の隙間に入ったのです」


「…?」


ネズミは、大裳の話を聞いて、目を丸くしている。


「どうしたの?異界の話は知らなかったの?」

天后(てんこう)がネズミに言った。


「おまえ達が、異界から救い出したぁ…。ふぅぅぅん…」


しかし、ネズミは黙ってしまった。何か考え事をしている様子だ。

そんなネズミに、天空が剣を振り上げ威嚇(いかく)した。


「おおぉ、ちょっと待ってくれよ、天空」

ネズミは、身を縮めて天空に頼んだ。


(しば)しの時が流れた後、ネズミが話し出した。


阿修羅(あしゅら)…、あっ、いや、多我丸が姿を消したのは、二百年…、もっと前かな…、

()(かく)、二・三百年前だぜ。


いやぁぁ、異界に封じられていたとは、知らなかったぜぃ。

俺は、てっきり千手観音の指示で、どっか違う場所に移ったと思っていたんだ。


それ以来、この祠の千手観音は荒れ放題だからな。

ほれっ、この石仏も千手観音の(しょう)が抜けてるだろ。ただの石の(かたまり)だぜぃ。

多我丸は、千手観音と一緒にどこかへ行ったと思っていたんだが…」


「二・三百年前に、何かあったのか?」

天空が、胡坐(あぐら)をかき、剣を大地に突き刺しながら聞いた。


「そうさなぁ…。今、多我丸が消えた頃のことを思い出していたんだが、…、

もしかして、あれが原因かと思えることがあったぜぃ。些細(ささい)なことなんだが…、今思うと不思議な話だぜ」


ネズミもその場に座り込み、話し出した。

琥珀、天后もネズミを囲むように座った。

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