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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第3章 鉄鼠
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鉄鼠<4>

朱雀(すざく)の火が消えたすぐ後、ネズミが一匹、石の隙間から飛び出して来た。

琥珀たちの姿を見て驚き、逃げようとする。それを四人の式神が囲む。

元の石の隙間には、朱雀が放った二個目の火がちらちらと浮かんでいる。


このネズミ、妖気を発して、琥珀達を威嚇(いかく)するのだが、いかにも相手が悪い。

天空(てんくう)が剣を正眼に構えた。


すると、ネズミの妖気は弱いながらも若干強くなり、全身が(はがね)のような金属に覆われた。

「おおっ、おまえは、鉄鼠(てっそ)か?」

大裳(たいも)が言った。ネズミは、大裳の方を向く。


「やはり、鉄鼠だな。みんな、気を付けてくださいよ。

こいつの歯は、幾分硬いです。何でもかじりますからね」


鉄鼠と呼ばれたネズミは、大裳の方へじりっと動いた。

大裳が一歩下がった。


天空剣が、そのネズミと大裳の間に伸びてきた。ネズミは、天空剣に飛び付き、かじった。

ガギッ!鈍い音がした。かじられた天空剣は何の傷も付いていない。


ネズミは、剣の持ち主、天空を見た。


天空は、にやにやと笑いながら言った。

「おい、鉄鼠とやら!おまえの歯では、この剣に傷も付けられない。(あきら)めな」


ネズミは、草むらへ逃げようと素早く動いた。

しかし、琥珀の右手から飛んだ土蜘蛛の糸で両足を取られ、その場でひっくり返った。


ネズミは、相手は強いと思ったのだろう、元のネズミに戻り、妖気も弱くなった。


「おまえは、鉄鼠ですね?答えて下さい」

大裳が念を押す。


「何だよ、おまえ等は?いきなり火を使いやがって!」

「…」


「ああ、そうだよ。俺は鉄鼠だ。おまえ等は何者だぃ?」


「陰陽師、安倍晴茂(はるしげ)の式神」

琥珀が答えた。


「陰陽師?安倍…?おおっ、すると、あの火は朱雀の火かぃ?」


「そうだ」

木の上から朱雀が答えた。ネズミは、木の(こずえ)を見上げた。


そして、天空とその剣を見て言った。

「おまえは…、天空っていう式神かぃ。それ、その武器は天空剣」


どうやら、鉄鼠は十二天将(てんしょう)の知識があるようだ。

鉄鼠は、もう一度、式神達の姿を見渡して言う。


「式神十二天将かぃ…。そっちは天后(てんこう)、おまえは…大裳。うん?」

琥珀の姿を見て、鉄鼠は首を(かし)げた。


琥珀は、十二天将の一員ではない。鉄鼠が知らなくても当然だ。


「わたしは、式神、琥珀」

琥珀が自ら名乗った。


「琥珀?聞いたことがないぜ。それより、この蜘蛛の糸を何とかしてくれないかぃ。

身動きが取れないぜ。強力な十二天将が相手だから、逃げたり、かじったりしないからさぁ」

鉄鼠は観念したようだ。


琥珀は、みんなの顔を一通り見て了解を得ると、土蜘蛛の糸を外した。


ネズミは、自由になって式神達に聞いた。

「で、俺を外へ追い出して、何がしたかったんだ?」


琥珀が前に一歩出て、ネズミに聞いた。

「おまえが潜んでいた穴の中へ、小さな童子が入って行ったと思うが、

その童子はどこにいる?まだ、中にいるのか?」


「ああ、()(ほど)…、阿修羅(あしゅら)の後を追って来たのかぃ」


「阿修羅!?あの童子は、阿修羅なのですか?」

大裳が驚きの表情で聞いた。


「ははは…、本物の阿修羅ではないぜ。

観音様を守るっていうんで、自分で阿修羅と名乗っているだけだ」


大裳は、『そうだろう、あの童子が阿修羅のはずがない』と、

自らの知識が間違っていなかったことに安堵(あんど)した。


「そうなら…、あの童子は何者ですか?」


多我丸(たがまる)だよ」


「ええっ!多我丸?」

大裳は、童子が阿修羅と聞いた時より、数倍大きい驚きの声を上げた。


大裳の知識では、鬼ケ城に巣食っていた鬼が多我丸だ。坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)に討たれた鬼だ。

もし、このネズミの言うことが本当なら、大裳は鬼の多我丸を千手観音の使いと勘違いしたことになる。

あの童子を、正邪まるきり逆の立場に間違えたのだ。


他の式神はみんな大裳を見た。

そんなはずはないと大裳は向きになってネズミに問い(ただ)した。


出鱈目(でたらめ)を言ってはいけません。多我丸は、鬼ケ城に()んだ鬼です。

坂上田村麻呂が千手観音の力を借りて成敗(せいばい)したのが、多我丸です。

あの童子には、邪悪な気はなかったですし、妖気もなかったはずです。

鉄鼠、知っているなら、本当のことを言ってください」


大裳の迫力ある質問にも、ネズミはあっさり答えた。

「だから、童子は多我丸だって言ってるぜ。

その石の隙間に入った童子だろ?多我丸だぜぃ」


「そんなはずはないっ!」

大裳が、ネズミに襲いかかる勢いで、否定した。


「おいおい、大裳さん。そんなにカリカリしなくても…。

あんたが疑うのも無理はないぜ、とても多我丸とは思えないものねぇ」

ネズミは、大裳の知識を正当化するように言った。


「何か裏の物語があるの?」

天后が聞いた。


ネズミがその問いに答える前に、天空が言った。


「この野郎の言うことは、信用できない。確か…、鉄鼠といえば、三井寺(みいでら)ネズミのことだろぅ。

三井寺ネズミなら僧侶頼豪(らいごう)怨霊(おんりょう)のはずだ。こいつは、妖気はあるが、霊気はない」

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