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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第1章 あおじ
3/53

あおじ<3>

 九尾のキツネは、目を閉じ考え込んでいたが、ようやく口を開いた。

「これから、わたしの息がかかった者たちに晴茂さんを探させる。事は急を要するかもしれん。

後は…、そうじゃのう、太陰(たいおん)にでも聞くがいい。太陰なら気が付くはずじゃ。

そして、琥珀さんたちも晴茂さんを探せ」

九尾はそう言うと、突然ふっと姿を消した。


「あっ!待って…」

琥珀が九尾を止めようとしたが、既に九尾の気配はない。


琥珀は、天后(てんこう)の方を振り向いた。


「琥珀、わたしも…晴茂様の事が釈然(しゃくぜん)としないの。九尾の言う通りかもしれない。晴茂様は生きているかもしれない。ねえ、太陰を呼んで聞こうよ」


 十二天将(てんしょう)は、安倍晴茂の式神だ。式神同士が会うことも、話し合うことも、協力することも、全て晴茂の指示が必要なのだ。

しかし、安倍陰陽師の秘伝術、五芒星(ごぼうせい)を授かった琥珀は、同じ晴茂の式神の中でも特別な存在と考えられる。


晴茂がいない時、安倍陰陽師の代理になり十二天将を呼び出せるのだ。


 琥珀は、天后に頷いて、太陰を呼んだ。既に陽は西の山に隠れようとしていた。その薄暮の中に、太陰は手に酒徳利を持ち現れた。

やはり、いつも通りに酔っぱらっているようだ。目は定まらず、身体が揺れている。


「あらっ!琥珀ちゃん。御用かしらぁ」


琥珀は、太陰に再会して頭を下げた。

「うぃい…、頭なんか下げちゃ駄目ですわ、琥珀ちゃん。わたしも、あなたも、同じ晴茂様の式神ですわ」


どうやら上機嫌の太陰だ。琥珀の横にいる天后を見て言った。

「天后じゃないですか。あなたも呼ばれたの?ほほほ…、そんな怖い顔で見ないでくださいな。酔ってなんか い ま せ ん から…」


明らかに酔っぱらっている太陰を、天后は睨みつけた。晴茂が死んだというのに、酒を飲んで浮かれているとは、同じ式神として情けない。

そんな怒りが天后の顔に出ている。それでも太陰は気にする様子もなく、酒徳利を口に当ててから続けた。


「あらっ、怖いわ。で…、ぷふぁぁ…、何か事件でもありまして?」

太陰は定まらぬ目線で琥珀に聞く。


琥珀は、妖狐九尾との話を伝えた。

「…後は太陰に聞け、太陰なら気付くと、九尾が言いました。どういう意味か、分かりますか、太陰さん」


「晴茂様が生きているとは信じ難いのだけど、でも、わたし、晴茂様が死んだというのも釈然としないのよ、太陰。飲むのを止めて、考えてよっ!」

天后も琥珀に続いて自分の気持ちを述べた。


 太陰は、何を考えればいいのか、いまひとつ理解できないような顔付だ。暫く考えて、琥珀に確認しながら、ぶつぶつと自問し出した。


「琥珀ちゃん、九尾は…、えっとぉ、『晴茂様は少なくとも死んでいない』と言ったのですか…?

ういっ…、ふぅむ、『少なくとも…死んで…いない』と九尾の妖狐が言った。

そして、うっぷぅ…、その理由は太陰に聞け…でございますかぁ…?」


太陰は、酒を飲んでは、聞き取れない小声でぶつぶつと何やら(つぶや)いている。


「ふぅぅ…、あの時、晴茂様は確かに、土蜘蛛に喰われましたわよ。

御遺体は見つからなかったのですけれど、…土蜘蛛の糸に絡め取られ…、確かに…、ういっ…」


そうなのだ。琥珀、太陰、天后、天空(てんくう)…、式神達が見ている前で晴茂は妖怪土蜘蛛に喰われたのだ。その場面を思い出せば、晴茂が生きているとは思えない。


天后も、太陰に同調して呟いた。


「そうなのよね。ここにいる三人と天空…、四人の式神が晴茂様の最期の姿を見たわ。

そして、晴茂様を助けようとしたけれど…、遅かった」


その天后の言葉を聞いて、太陰の酔っぱらっていた目が急に焦点を定め大きく開いた。

そして、天后を鋭く(にら)んだ。

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