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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第3章 鉄鼠
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鉄鼠<2>

「伸びろ、天空(てんくう)剣!」


もしこの氷柱が天后(てんこう)の造った氷なら、天空も何とかして天后を助けたい。

全神経を天空剣に乗せて、天空は(わざ)を繰り出した。天空剣の切っ先が氷柱に当たる。


ガツッ!氷柱は硬い。天空剣が氷に刺さった深さは、ほんの数センチだ。

そんな傷では、この巨大な氷柱を壊すこともできない。


琥珀が叫んだ。

「天空っ!天空剣の奥義(おうぎ)で、お願い」


天空剣の奥義とは、以前、晴茂の助言に従って巨悪な鬼と戦った時に、天空が会得した究極の技だ。

天空剣は、それだけでも十分強い剣だが、

天空剣の奥義は剣の威力と天空の持つ気迫が相乗効果を発揮する技なのだ。


「よし、分かった」

天空は、気を静め、無心で天空剣に自身の生気を注ぎ込んだ。


天空剣が、銀色に輝きだした。

そして、天空剣の魔力が、天空に逆流する。

それを天空が、更に増幅させて天空剣に送る。


天空剣は、ますます銀色に輝き、直視できない明るさになった。


「伸びろ、天空剣っ!」


天空の声と共に、銀色に光る天空剣が巨大な氷柱に突き刺さった。

ビシッ、ビシッ、と氷にクラックが入る。

小さなクラックが無数に走り、やがて大きなクラックを誘発した。


(くだ)けるぞっ!」


天空の声と六角氷柱が粉々に砕けるのが同時だった。


砕けた巨大な氷柱は、青白い光を放ちながら、音もなくすっと消えてゆく。

異界の水を使った氷だから、天空剣の魔力で天后の呪術(じゅじゅつ)が解かれた瞬間に、

この世の時空には存在できないのだ。


あれ程大きかった六角柱が、跡形もなく消えた。

「どうなった?」


「氷の柱が消えました」

天空に答えたのは大裳(たいも)だ。


「そうじゃなくって、あの氷は天后の合図だったのか?天后は、無事か?」


「氷が海に砕け落ちたのではなく、その場で消滅したのですから、天后の呪術で造った氷でしょう。

しかし、天后は…、見当たりませんね」


「大裳、そんな呑気(のんき)なことを言ってないで、探せよ」


二人の会話をよそに、琥珀は目を閉じて何かを感じていた。

「ちょっと落ち着いて、静かにして、天空」


「うっ、天后がいたか?」

「いいえ…、天后の気配じゃなく、わたしの土蜘蛛の糸がどこかにいる」


「そりゃあ、どういうことだぁ?」

「妖怪アオジの後をつけさせた蜘蛛の糸だよ。

さっきアオジが鳴いた。それを追っかけて来たのかしら」


琥珀は、土蜘蛛の糸を探って目を開けた。蜘蛛の糸の気配は、崖の上に感じる。

琥珀は、上を指差して、見上げた。天空、大裳も崖の上に目をやった。


すると、何と、崖の上の岩から三人を覗き込んでいるのは、天后ではないか。


「あっ!天后」

三人は、同時に声を上げた。


天后は、ひょいっと崖を飛び下り、三人の横に着地すると、天空を怒鳴(どな)りつけた。


「遅いよ、天空っ!もう少しで、異界の氷に(つぶ)されるところだったわ。

氷の柱は、天后の術だって、気付かないのはどういうことよっ!」


「ああ…、いやぁ…」

いつもは、天后を(いじ)めている天空だが、流石(さすが)に今は言葉が出ない。


「アオジが鳴いたから…、妖怪が…出る…」

「妖怪が怖くって、尻込みしたのっ!」

「そう…、あっ、いや…、天后、すまん」


天空が天后に頭を下げた。

大裳は、天空が初めて天后に頭を下げたのを見て、くすくすと笑う。

それを切っ掛けに琥珀、天后も笑った。


ばつが悪そうに天空も苦笑いをした。天后の無事生還をみんなで喜んだのだ。


「天后、わたしの蜘蛛の糸を知らない?」

暫くして、琥珀が天后に聞いた。


蜘蛛の糸の気配がする方を見たら天后がいたのだから、琥珀の質問も当然だ。


「あっ、そうそう、これね。これは、やはり琥珀の蜘蛛の糸なのね」

天后は(ふところ)から一本の蜘蛛の糸を出した。


琥珀は、その糸を手に取りながら聞いた。

「どこで?異界の中?」


その琥珀の質問に答えるために、天后は水中の泡の異界での出来事を三人にした。


「へぇぇ、すると、その猛スピードで動くやつが、アオジなのかぁ?」

天空が質問とも(つぶや)きともとれる口調で言った。


「分からない。でもね、琥珀の蜘蛛の糸が追っかけていたのだから、妖怪アオジのはずだわ」


天后の意見に、天空がまたも呟く。

「やはり…、アオジの姿は分からないままかぁ?」


「少しは手掛(てが)かりのようなものが見えて来たわ」

琥珀が首を(かし)げながら言う。


「みんなで泡の異界に入った時には、蜘蛛の糸の存在を感じなかった。

この糸は、泡の異界にはいなかったのよ。だから、当然アオジもいなかった。

わたし達が天后を残して異界を出てから、どこからかアオジが異界に入って来たということになる」


「成る程…。こっちの出入り口には俺達がいたのだから、

あの泡の異界には別の出入り口があったということだ」


「それがどこか、分からないうちに、異界が潰れた」

天后は残念そうに答えた。


「琥珀、その蜘蛛の糸に聞けないのですか?どこを巡って異界に入ったのか」

大裳が琥珀に聞いた。


「それは無理だわ。この土蜘蛛の糸は、いまいる場所の情報は分かるけど、

そんな連続した記録はないんだ」


「そうか。じゃあ…、泡異界のこれ以上の情報はないということか…」

天空の呟きが二人にとどめを刺したように響いた。


しかし、大裳は、(あきら)めずに言った。

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