磯女<11>
「わたし達は、水に囲まれている。周りは全て水だわ」
「ええっ!水の中にいる?」
「そう、言ってみれば、水中の泡の中だわ。大きな泡の中、…」
「おいおい、この異界は水中の泡だというのかぁ」
天空は天后にそう言って、後ろにいる大裳の方へ振り向いた。
天后、琥珀も大裳を見た。大裳に何らかの説明を聞きたいのだ。
「ああぁぁ…、急にこちらを向かれても、…。泡ですか…」
大裳は困った顔で腕組みをしてしまった。
暫くして、大裳が言う。
「先程の千手観音の使いと関連させるならば、観音様は水の化身だ、と言うことぐらいでしょうか。
うぅぅん、あまり関係ないかもしれません」
成る程、説明したことにはかわりはないが、大裳自身が言うように、三人が聞きたい内容ではない。
「それよりも、…」
大裳が続けて発言した内容の方がはるかに重大だった。
「我々が水中の泡の中にいるのであれば、泡が破れれば助からないかもしれません。
ここは異界ですから、異界の水中に投げ出される訳です。
水の中では、どこに異界の出口があるのか…、特定できないでしょう。
早くこの異界から脱出した方が良いかと…」
「うわっ!それは、いかんぜ。早くここから出よう」
天空は、慌てて天空剣を握り直した。
「ちょっと待って!新しく発見した異界なんだよ。晴茂様を救出する何か手掛かりを探さなくっちゃ」
琥珀の意見に、天空は反論する。
「そりゃあ、分かるけどさぁ、琥珀。俺達がここで消滅してしまったら、晴茂様を助けようにも助けられないぜ。
まずは、こんな危険な異界から出ようよ」
「いいよ、天空。あなた達は戻って!わたしが残って調べる」
琥珀はこの異界に残ると言った。その目は真剣だ。
「しかし…、この異界から出るには、天空剣が必要なんだぜ。
琥珀が残ったら、天空剣を持たないおまえは、ここから出られない」
「さっき千手観音の使いを異界から出したように、向こうから天空剣を使ってよ」
「いやぁ、それは危険だぜ、琥珀。あの千手観音の使いは、自分で天空剣を引き寄せる力があった。
けど、おまえにはそんな力はない。俺が向こうから、どこを狙って天空剣を使うっていうんだ。そうだろぉ、大裳」
「はい、とても危険です。兎に角、みんなで戻りましょう」
大裳も琥珀に戻るように言った。しかし、琥珀は首を振る。
暫し、言葉が途切れた。
「あ~あ、しょうがないなあ。分かったわ、私が残って、この異界を調べてみる」
そう言ったのは天后だ。
「天后っ!駄目だ。危険だ」
「でも、琥珀が残るより危険が少ないわ。だって、私、水神だよ。例え異界だとしても、水を制してみせるわ。
その代り、天空、私の合図を見つけたら、間違わずに天空剣を使ってね」
琥珀は、戸惑った。自分が無理なことを言ったがために、天后に危険な決断を強いてしまった。
これは止めさせねばならない。
「天后を危険な目にあわせられない。やはり、わたしが…」
琥珀の言葉を手で遮った天后が言う。
「琥珀、私も同じ晴茂様の式神だよ。晴茂様を助けるために、式神として行動するだけだわ。
それに、さっきも言ったけど、この水中の異界は私にしか制御できない。心配しなくていいよ」
天后の目は真剣だった。
そんな天后の強い気迫を感じた天空が琥珀に向かって言った。
「ふぅう、琥珀、こう見えても天后は案外頑固だ。ここまで言うと、もう決心は変わらない。そうだな、天后」
「そうだよ、天空。さあ、みんな早く戻って」
いつもはあれ程いがみ合っている天空と天后だが、お互いを信じ合っているんだと琥珀は改めて知らされた。
天后は、ぶつぶつと呪文を唱えると宙に浮かび、そのまま遠くへ飛んで見えなくなった。
「じゃあ戻るぞ、琥珀、大裳、俺に掴まってくれ!早く戻らないと、天后の合図を見逃すかもしれない」
琥珀と大裳は、天空の腕を握った。もう一方の腕で、天空は剣を持ち方向を定めた。
「伸びろ、天空剣!」




