磯女<10>
「おいおい、琥珀、天空剣で開けたあんな小さな穴に、俺達が入るのか?」
「入れない?」
「相手は岩石だぞ。土の中ならともかく、岩が割れて海の藻屑となってしまう。止めよう、止めよう」
「異界の手掛かりなんだよ!いやならいいよ、天空」
そう言って、琥珀は海に突き出た大岩に飛んだ。
穴の中を覗き込んだ。
何も見えない。中は真っ黒だ。
しかし、異界に導けるのは天空剣の魔力だけだ。
琥珀にはどうしようもない。
その琥珀の姿を見ていた天空が言った。
「もぉうぅ…、しょうが無いなぁ」
天空は、仕方なく琥珀の後を追って、大岩に飛んだ。天后、大裳も後に続いた。
いかに大岩とはいえ、その天辺に四人が立ったのだから狭い。
身体を寄せ合わないと海に落ちる。
「おい、天后、押すなよ。もっとそちに行けるだろう。琥珀、穴の中は見えたか?」
「中は分からない」
「それは、そうでしょう。異界ですから、こちらから見えません」
大裳が、見えなくて当然ですという顔で呟いた。
「そんなこと、分かってるよ、大裳。聞いてみただけだ」
琥珀が、天空を促した。
「中へ入ろう、天空」
「おいおい、やはり本気か?」
「異界を調べないと、晴茂様を助けられない」
天空も、晴茂を助けると言われれば、返す言葉がないのだ。
「よしっ!中へ入るか。みんな繋がっていてくれよ」
琥珀、天后、大裳の三人は、天空の身体に両手で繋がった。
天空は、天空剣を大岩の穴にあてがった。
「伸びろっ、天空剣!」
天空の声とともに、天空剣が大岩にズブズブと入って行く。
どこからともなく、ごぉぉぉと鈍い音が聞こえ、天空剣諸共四人の姿が岩に吸い込まれた。
四人が転がり落ちたのは、…、地面が波打つ薄暗い空間だ。
琥珀は立ち上がろうとしたが、上手く立てない。兎に角、足元が柔らかいのだ。
仕方なく琥珀は呪文を唱え、宙に浮くことにした。他の三人も同様だ。
「ここって、…洞窟?」
天后の問いに、琥珀が答える。
「いいや、洞窟ではないわ」
四人は、きょろきょろと周りを探るのだが、上と左右には何もない。
下には例のふわふわと柔らかい地面がある。
「兎に角、妖気や霊気、邪悪な気はないわね」
天后が言った。
「これは、広い空間ですねぇ。少し進んでみますか?」
大裳の提案に、天空が言った。
「しかし、見渡す限り目印が何もないぜ。どっちに行けばいいのか?
それに、今俺達がいる場所を覚えておかないと、あの大岩に戻れなくなる」
天空は地面に降り、屈んで何かをしている。
この場所の目印でもつけているのだろうか。
暫くして、首を傾げながら、天空が再び宙に浮かんで来た。
「変だぜ、ここは」
「何?何が変?」
琥珀の問いに答えて、天空が言った。
「この空間に、…、土を感じない」
「…?」
「俺は土神だ。土のことは任せろ…なんだが、この空間には土がない。
大裳も土神だろ、どうだい、土を感じるか?」
そう言われて、大裳は目を閉じた。気を集中しているようだ。
「天空の言う通りです。ここには、土や砂、石、岩、…、要するに大地がありません」
「ええっ、…どういうこと?」
琥珀と天后は驚いた。
大地がないとは、どんな所なのか。
天空が下を指差しながら、天后に向かって言った。
「大地のあるべき所に、俺は水を感じた。天后は水神だ。調べてくれ」
「分かった」
天后が頷き、下へ降りて行った。
天后は、揺れる地面に手を触れた。なんと、天后が触れた地面は、天空が言う様に水ではないか。
しかも、どこまで行っても、水しかない。
天后が驚き、状況を把握している間に、琥珀、天空、大裳も降りて来た。
「天后、何か分かった?」
琥珀の問いに、天后は驚くべき回答をした。




