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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第2章 磯女
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磯女<9>

「暴れるなっ!わっ!」

天空(てんくう)は、天后(てんこう)に返答もできず、天空剣を押さえ込むのに四苦八苦している。


それを見ていた琥珀が、天空に静かに言った。

「天空、天空剣を自由にさせて。抑え込もうとせず、あなたが天空剣の動きについてゆけばいい」


天空は、琥珀の顔を見た。

その間も、天空剣は暴れる。


天空は、琥珀に頷いた。両手で持った剣を、片手に戻した。

そして、天空剣を押さえ込むのではなく、天空が剣に合わせて動いた。


ぶぅぅーん、天空剣が振動する。

剣の切っ先が、あちらこちらに大きく動く。

琥珀の忠告で観念した天空は、剣の動きに逆らわず、腕の力を抜き、剣をただ持つだけに心掛けた。


天空剣の振動音がぶぅーんからきーんに変わった。

振動が高速になったのだ。


切っ先の方向はやはり海中から出た大岩だ。

その大岩の一点を精密に狙っている。


振動音が高音過ぎて聞こえなくなったと同時に、天空剣が勝手にするすると伸び、大岩に突き刺さった。


「痛っ…、何だ?勝手に伸びやがった!」

天空剣が岩に突き刺さった反動で、天空は後ろに弾かれ、岩の崖に背中をしこたま打った。


「あっ!あれは…」

天后が指差す先を、琥珀、天空、大裳(たいも)が見た。


天空剣が突き刺さった岩に穴が開き、そこから子供が現れた。

いや、子供よりも小さい。


手の平に乗りそうな人形の大きさだ。

そう、丁度それは(ひな)人形の大きさで、五人囃子(ばやし)と同じような身なりだ。


岩に開いた穴から這い出た人形のような小人は、天空剣の上に立ち、にこりと琥珀達に微笑んだ。


そして、その風貌には似付かない重い声で言った。

「やっと、この世に戻れた。礼を言うぞ、天空」


そして、もう一度微笑むと、その童子は光の玉となって北の方角へ飛んだ。

琥珀達は呆然とその光の玉を見送った。


岩陰に隠れて見えなくなった光の玉を、

赤い微かな筋が追っていったのを四人は知らなかった。


「なんだ、あれは?何者だ?」

自由に使えるようになった天空剣を、するすると縮めながら天空が言った。


「妖怪…、ではなさそうね」

天后が答えた。


「あいつに俺の天空剣が反応したのかぁ?どういうことだ、大裳?」


暫く腕組みをして考えていた大裳が、話し出した。


「あの童子は、おそらく千手観音の使いでしょう。

昔、この鬼ケ城には、邪悪な鬼が棲み、悪さをした伝説があると言いましたね。


その鬼、名を多我丸(たがまる)と言いますが、多我丸を討ったのは坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)

そして、その田村麻呂に助成した童子がいたと伝説では言われています。


その童子は、千手観音の化身とされていますが、

今の童子を見る限り、千手観音ではありません。


仏法剣である天空の剣が反応したことを考えれば、

仏に関わる者であるのは疑いの余地がありません。

ですから、おそらく千手観音の使いでしょう」


琥珀、天后、天空は、意表をついた大裳の言葉に驚いた。

「千手観音…?」

「千手観音の使い?」


大裳は、それでも自信ありげに答える。

「はい、千手観音の使いの者です」


大裳を除く三人は、そう言えば徳のある顔立ちだったとか、でもあの声は仏には似つかないとか、

なぜ烏帽子(えぼし)を被っているんだ等々、自分の意見をお互いに述べ合った。


そんな騒がしい三人に向かって大裳が言う。

「そしてもうひとつ、皆さん…、あの童子の言った言葉に重要な内容がありました」


「…?」

三人は、大裳の方を向き、次の言葉を待った。


「あの童子は、『やっとこの世に戻れた』と言いました。

即ち、あの童子は今までこの世ではない場所にいた、と言うことになります。


この世ではない場所といえば…、それは異界しかありません」


そう言って大裳は、海上に突き出た大岩に開いた穴を指差した。


「そうかっ!あれは異界からの出口…なのね」

琥珀が真剣な顔で言った。


もうひとつ異界の入り口が見つかった。

晴茂に繋がる異界かもしれない。


琥珀は、大声で言った。

「異界へ行ってみましょう」

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