磯女<8>
琥珀、天空、大裳、そして天后は、七里御浜北端の鬼ケ城へ向かった。
朱雀は、上空を警戒しながら四人の後を飛んだ。
長く続く七里御浜を南から縦断した。白い石と砂の美しい浜だ。
そして、七里御浜の北端に立った天空は、天空剣を空に向かって突き上げた。
目を閉じ、天空剣に意識を集中する。
琥珀が天空を見詰める。天空にもあの異常な気配は作用するのだろうか。
天后も何か異常な気配を探ろうと鬼ケ城の小山を睨む。
辺りは穏やかだ。異変が起こりそうな雰囲気ではない。
やおら、天空が目を開け言った。
「琥珀、天空剣に何かが引っ掛かる」
天空は、剣を鬼ケ城の小山に向けた。
「やはり…、何かあるのか?あそこに…?」
琥珀に代わって大裳が聞いた。
「わたしは、何も感じないよ」
天后が天空に言う。
「これは…、天空剣の魔力、そして琥珀の杖の呪力が感じる異常な気配だろう。
天后や大裳は感じないのだから…」
天空は、腕を組み考え込んだが、分からない。
「大裳、そんな気配とは、何だ?分かるか?」
天空に問われて大裳が徐に答えた。
「考えられることは…、ひとつだけです。仏の剣である天空剣、
そして晴茂様が呪力を駆使して造り上げた琥珀の杖、
どちらも自然の摂理から力を得た魔力が働いています。
両方の魔力が感じるのは…、仏法の波動でございましょうか」
「ぶっ…、仏法の波動?なんだ、それは?」
難しい言葉が大裳から出た。天空は、ますます混乱した。
「仏から何らかの働きかけがある時、自然に出る気配でございます。
普通は、徳を積まれた高貴な僧しか感じない気配ですが、天空は剣で、琥珀は杖でそれを感じているのでございましょう」
「…??」
天空は、大裳の説明を聞いても全く理解できない。
仏様からの働きかけ?それは、何?
天空の混乱した頭を、天后が簡単に解決してくれた。
「ふうぅん、それって仏様が何か言いたいことがあるっていうのね?」
天后の問いに大裳が答える。
「言いたいことかどうか分かりませんが、まぁ…、そのようなことです」
「仏様が俺に言いたいことがあるってかぁ?いや、まあ、そりゃあ分からんでもないが、…」
「天空にじゃなくって、きっと仏法剣である天空剣に言いたいことがあるんだよ」
天空は素直に納得したのか、天后の言葉に頷きながら言う。
「何だかよく分からん話だが、まあいいや、あの小山に行ってみようぜ」
天空は鬼ケ城に向かって進んだ。琥珀も後を追う。
天后と大裳は、二人の行く方向について行くしかない。
太平洋に飛び出した岩山の鬼ケ城は、巨岩、奇岩が連なる景勝地だ。
その昔、多我丸という鬼の海賊が棲みつき、辺りの住民を苦しめた。それを坂上田村麻呂が征伐したと伝説にある。
太平洋の荒波に打たれる奇岩を眺めていると、いかにも鬼の棲家らしい場所だ。
足を止めた天空が剣を前方に突き出した。
ぶぅぅんと天空剣が鳴った。どうやら天空剣が振動しているようだ。
「琥珀、あそこ…」
天空剣が指し示している方向を、天空はじっと見据えている。
琥珀の持つ杖が、ぴくぴくと動いた。何かに反応している。
天后と大裳も、天空剣の示す方向を見た。岩山の縁から太平洋を見る。
荒波が押し寄せる数十メートル先に、大きな岩が海から突き出している。
天空剣は、その大岩を指し示していた。
「あの海から出ている岩?」
その岩を指差して、天后が天空に聞いたのと同時だった。
それまで片手で天空剣を持っていた天空が、慌てて両手で剣を持った。
いや、持つというより剣の振動を押さえようとしている。天空の顔色が変わった。
「なっ…何だ、これはっ!天后、手を貸してくれぇ!」
天空は、必死で天空剣を押さえ付けようとしている。
振動しているだけではない。
天空剣が暴れ出したのだ。
剣が勝手に動く。
「うわっ!」
こんな事態は天空にとって初めてのことだ。
天空の意に逆らって、勝手に天空剣が動く。
天空剣を離しては、天空の魔力は消える。
天空が必死に天空剣を押さえ付けようとするのも当然だ。
天后が、天空の手の上から両手で剣の柄を持った。
剣を押さえ付けようとしたのだ。
しかし、剣の柄に触れた途端、バチッと火花が飛び、天后は弾き飛ばされた。
「痛いっ!何よ、この剣!静電気でも帯びてるの?」




