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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第2章 磯女
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磯女<6>

「なにぃ?毒蜘蛛を倒したとな?」

磯女(いそおんな)は、驚きの声を上げて天空(てんくう)(にら)んだ。

だが、すぐに冷静になり大きく頷いた。


「はははは…、そうかぃ、成る程、毒蜘蛛が死んだから異界の封印が解けたのかぃ…」

磯女は合点がいったようだ。


この話の進み具合は良い展開だと思った大裳(たいも)が、磯女に言った。

「その毒蜘蛛を我らが倒したから、あなたは異界から出られたのです。

我々は、あなたにとって()わば恩人ですよ。

ですから、その式神達を放してやってください」


磯女は、大裳に目を移し、その頼みを不思議な申し出だ、という顔をした。

大裳も言ってから気付いた。妖怪に義理や恩など通用しない。


「恩人…?おまえたちが、恩人かぃ。はははは…、わたしに恩人なんかいない」

磯女の目が鋭くなって続けた。


「おまえだけは助けてやろうと思ったが、妙な言い掛かりを付けるなら、放ってはおけないよ」


天空の周りに集中していた黒髪の束が、半分ほど大裳の方にするすると伸びた。大裳は、身構えた。

身構えてはみたものの、これらの黒髪が襲えば、大裳は()けることもできないかもしれない。

磯女は爛々と燃える目で大裳を睨みながら、にやっと笑った。


この事態、大裳にとっては絶体絶命の危機だが、天空にとってはチャンスが訪れたのだ。

四方八方から天空の動きを見張っていた黒髪が半分に減り、天空剣を突く間隙が増えた。

天空は、用心深く剣の切っ先を磯女の首に向け、機会を待った。


大裳はそんな天空の様子を確認しつつ、磯女には弱々しい態勢を見せていたが、

何とか天空に攻撃の機会を作らねばと、考えた。

今自分が磯女を攻撃すれば天空のチャンスは増えるはずと、寄って来る黒髪の束を見ながら大裳は思案する。


だが、天空剣が磯女を貫き損ねた時は、確実に自分は滅ぶ。

それではリスクが大き過ぎる。


大裳は、自分が滅びるのを恐れている訳ではない。しかし、ここで自分が滅び、天空剣も役に立たなければ、捕らわれている琥珀、天后(てんこう)はもちろん、天空も含め全滅になるリスクを考えたのだ。


それよりも……と、大裳は短く呪文を唱えた。

大裳の身体が、フッと消えた。


磯女は黒髪を振った。数本の黒髪の束が、大裳が消えた場所に(むち)のようにうなって打ちつけた。


今だっ!


天空が動いた。

「伸びろっ!天空剣!」


天空剣は、磯女の喉元を目掛けて、目にも留まらぬ速さで伸びた。


それと同時に、磯女の束になっていた黒髪、何束かが、束を解き(すだれ)のように磯女の前に広がった。


目にも留まらぬ速さで伸びて行った天空剣は、何重にも広がった黒髪の幕に突き刺さったが、そこで動きを封じられた。

磯女の黒髪いっぽん一本が天空剣に(から)まって、がちりと剣を固定したのだ。天空は、剣を押すことも引くこともできない。


「ははははは…、そんな剣でわたしを倒せると思ったのかぃ」


天空剣の自由が利かなければ、天空は手の出しようがない。

「ううっ!」


「わたしの邪魔をするおまえ達は、滅んでもらうしかないよ」

磯女の妖気が、更に強まった。


天后、琥珀、天空剣を捕えている黒髪を除いた残りの全ての黒髪が、徐々に(まと)まって太い束になってゆく。

そんな黒髪で攻撃されたら、ひとたまりもない。


何か手立てはないのか、天空は天后、琥珀を見た。

しかし、天后は首を振る。琥珀は目を閉じて苦痛に耐えているような表情だ。


磯女の右手が動くと、一本に束ねた太い黒髪が天高く伸びた。

まるで大木が天に伸びるようだ。

上空で雷鳴がする。


すると、バシバシッと火花を散らしながら、稲妻が黒髪を伝って降りてきた。

黒髪が電気を帯びたようだ。黒髪から小さな稲妻が(ほとばし)る。


これは不味(まず)い!


黒髪を伝って上空の静電気が一気に下ってくれば、黒髪に捕らわれている天后、琥珀、そして剣を絡め取られている天空は、強力な稲妻で焼け()げるしかない。


「はははは…」

磯女の高笑いが聞こえ、磯女は黒髪を振った。

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