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琥珀色の心 Ⅱ  作者: 柴垣菫草
第1章 あおじ
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あおじ<15>

琥珀はもちろん知らないのだが、太陰(たいおん)天后(てんこう)天空(てんくう)、それに勾陳(こうちん)も毒蜘蛛という妖怪は知らなかった。


「妖怪『土蜘蛛』の間違いじゃないのかぁ。それとも、毒を持った土蜘蛛ってことかぁ?」

「妖怪、毒蜘蛛については、これから色々と調べてみましょう。それより、…」


そう言って、琥珀が更に首を傾げた。

その琥珀に同調するように太陰が発言した。


「そう、そうですわ。毒蜘蛛のことよりも、大蝦蟇(おおがま)が『異界に封じられていた』と言い、異界から解き放たれ出てきた先が『大江山』だったと言ったことの方が…、分からないですわ」

その言葉に、琥珀はうんうんと頷いた。


「うん?何が分からない?」

天空は、琥珀や太陰の疑問自体が分からない。


異界に封印されていた大蝦蟇が、封印が解けて出てきたらたまたま大江山だったのではないのか。

何ら疑問などないではないか。


「大蝦蟇は、『毒蜘蛛によって異界に封じられ、その封印が解けて出てきたら大江山だった』と言ったけど、何か変ですか?」

天后も琥珀と太陰の顔を覗き込んだ。


「だって…、わたし達、天空、太陰、わたしは、異界にある土蜘蛛の巣を調べていて、そこからアオジの声に導かれて来たら大江山だったのよ…。これって、大蝦蟇の後を辿(たど)っているような…」


「あっ、そうか…。俺達も異界から大江山へ出て来た…」

天空が手を打って合点した。


「なに?何?…と言うことは…、大蝦蟇もその土蜘蛛の巣にいたってこと?」

天后も気が付いたようだ。


太陰は、酒徳利を口に当てて、一口ごくりと酒を(あお)った。


「ふぅぅ…、わたし達の知っている土蜘蛛の巣から、大蝦蟇が出て来たかどうかは、分からないですわ。

でも…、いずれにせよ、京の公園、この大江山、そして土蜘蛛の巣、この三か所は異界で繋がっていることが分かりましたでしょ。


その事実から推測できることは…、おそらく、もっと多くの場所が異界を通じて繋がっていても不思議では…ううぃ…ぷぅぅ…ないということですわ」


「ええぇ…?」

「異界のトンネルかぁ…」


天后、天空の驚きの声に琥珀が頷いた。

「うん。その異界のトンネルが、網の目の様にあちらこちらに張り巡らされているかも知れない」


天空がぼそっと(つぶや)く。

「そんな異界、誰が造ったんだ…?」


「それが、…毒蜘蛛?」

そう答えて天后は、琥珀と太陰の顔を見た。


「そうかも知れませんわね。でも、違うかも知れませんわね」

「分からないと言うことか?太陰」


「そうですわ、まだ誰が造ったか分かりませんわ」


まだまだ謎が多いのだが、琥珀は希望を(つか)んだような顔で皆に言った。


()(かく)、晴茂様を探す手掛かりが、ひとつ見つかったのよね」

「そうねぇ、異界のトンネルね」

天后も明るく答えた。


「それもこれも、俺達が聞いたアオジの鳴き声のお蔭だぜ」

大蝦蟇との戦いで、琥珀はすっかりアオジのことを忘れていた。天空の言葉で思い出した。


琥珀は、鬼女紅葉(もみじ)から授かった秘伝『土蜘蛛の糸』をアオジの鳴き声へ向かって飛ばしたのだった。

琥珀は気を集中した。自分の分身である蜘蛛の糸から情報を得ようとしたのだ。


ところが、その蜘蛛の糸が琥珀の心に響かない。蜘蛛の糸から応答がないのだ。

こんなことは初めてだ。

更に、心を研ぎ澄まして蜘蛛の糸に集中した。だめだ…、届かない。


琥珀の蜘蛛の糸はどこへ行ったのか!


琥珀は、蜘蛛の糸を呼び戻す呪文を唱えた。しかし、それも無駄だった。どうなってしまったのか。

琥珀の土蜘蛛の糸が、跡形もなく消えてしまったようだ。


そんな琥珀の困惑した顔を見て太陰が尋ねた。

「琥珀ちゃん、蜘蛛の糸と連絡がとれないのでしょうか…?」


太陰の言葉で我に返った琥珀が、小さく頷いた。

「太陰、わたしが蜘蛛の糸を飛ばしたのを見てたの?」


「はい、これでアオジの正体が初めて明かされると思ったのですのよ」

「でも、蜘蛛の糸から応答がない。糸が消えた。そうとしか思えない」


琥珀と太陰の会話を聞いて、天空、天后、それに勾陳は、琥珀がアオジに向かって土蜘蛛の糸を飛ばしていたことを初めて知った。

「土蜘蛛の糸の術が効かなかったということ…?」

天后が聞いた。


「いいえ、効かなかったと言うより、アオジと共に消えてしまった」

「ふぅうん…。琥珀の蜘蛛の糸は、どこででも、琥珀の目となり耳となるはずだろ?それが消えた?どういうことだい」

「分からない…」


その時、徳利の酒を飲み干してしまった太陰の目がきりっと引き締まった。

そして、言った。

「琥珀ちゃんの蜘蛛の糸は…、アオジと共に、異界へ入ったのではないかしらぁ」


皆は太陰の顔を見た。


「琥珀ちゃん、異界にある蜘蛛の糸には、あなたの気は届かない…ってことだわ」


そうか、そうかも知れない。琥珀は、太陰の目をじっと見て、頷いた。


「アオジは、異界の住人…。やはり、異界が何かを秘めている」


 その後、榛名(はるな)山周辺を調べていた六合(りくごう)大裳(たいも)、そして騰蛇(とうだ)から何ら晴茂の痕跡がないと知らせが入った。東西南北の方角を調べた青龍(せいりゅう)白虎(びゃっこ)朱雀(すざく)玄武(げんぶ)も晴茂に繋がるものを見つけることはできなかった。


その後、琥珀は、唯一の手掛かりである京都船岡山の土蜘蛛の巣を隈なく調べたが、多数の横穴のどれも他の場所に繋がっていなかった。


そして、(あせ)る琥珀の気持ちを置き去りにして、時だけが過ぎて行った。


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