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#1 審判の日

 リハビリがてら、普段のストレスとその他諸々を投入して書きました。

 更新は不定期になりますのでご了承ください。




 全力疾走するゾンビ、俗称:新ドーンゾンビ。




 名前の通り狂ったように生存者へ向かって全力疾走してくる危険なゾンビだ。

 旧作のモールへ襲撃を仕掛けてくるバイカー集団の代わりとして戦闘力を上げリメイクされた彼らは、生存者を絶望の淵へと叩き込んだ。


 映画では舞台はアメリカという事もあり多数の銃器で倒されていたが、日本に銃器は警察・自衛隊・在日アメリカ軍の物を除くと殆ど存在しない。弾薬もまた然りだ。


 刃物や鈍器などで倒されたシーンもあったが、野性動物のように凶暴で俊敏な彼らを相手に戦闘経験の少ない普通の人間が太刀打ちできるだろうか? いや、無理だ。


 そして、それは最悪の立地で、現実のものとなってしまった。



 「あ、ああ、あ、ああああっ!」

 目の前の惨劇に頭を押さえ泣き叫ぶ老女。


 「痛い痛いっ! 止めてえぇぇっ!」

 指に噛み付かれ、それを必死に振りほどこうとするラフな格好の女性。


 「畜生、こっちに来るなよぉっ!」

 鞄を振り回しながら化け物の群れに呑み込まれる会社員らしきスーツの男。


 「頼む! 乗せてく――ぎゃあっ!?」

 逃げる自動車に向かって助けを求めるも他の車に撥ね飛ばされてしまう青年。


 「早く発砲の許可を! 早く、はや――ぐげっ」

 発砲許可を求めた警官の喉笛が飛び掛かって来た化け物によって食い千切られる。


 「こんなの現実じゃない、こんなの……」

 目の前で友人だろうか……恋人かもしれない少年を食い殺され、呆然と座り込む少女。




 『あぃぃいああぎゃあああっああっあっ』

 それら全てを呑み込み、地獄の底から響くような不協和音だらけの悲鳴と怒号と断末魔による大合唱。




 黙示録の日には子羊が封印を解き、四匹の馬が世界に死を運び、七人の天使がトランペットを吹き世界に禍を運び、神の怒りは地へと撒き散らされる。


 その黙示録の如き光景は、逃げる僕の目の前で惨劇として繰り広げられていた。



--------------------



 ――僕は逃げ込んだ雑居ビルの屋上で、力なく座り込んでいた。

 息も切れ切れに逃げてきたはいいが、辺りは一面ゾンビだらけ。

 繁華街だから狭く逃げられなかった犠牲者も多かったのだろう。


 そして僕自身も近い内にその一人の仲間入りとなる事も、不思議と直感している。


 僕は確かにゾンビ映画が好きだ。

 だが現実はそんな僕の希望を全てぶち壊した。

 考えてもみてくれ、映画の主人公達は屈強な身体や卓越した知識、そして類い稀なる度胸を持っていたからこそあんな地獄の世界を生き延びていたのだ。


 対して僕は? 身長165cm・体重54kg。決して屈強な肉体ではない、というかむしろ筋肉のついていない貧弱な体だ。頭脳もゾンビ映画と専門書の流し読みで作られた朧気な知識とも呼べない記憶の寄せ集め。度胸も自分みたいなチキン野郎にある訳がない。


 だが、こんな僕でも死にたくはなかった。

 だからこそ、まずは情報集めに専念することにした。




 まず外の連中は僕がこのビルに逃げる時色々バリケードを組ませてもらったからか入るのには難儀しているようだが、連中は入り口が引き戸だというのに体当たりしかしていない。恐らく生前(?)の記憶は失われているのだろう。


 続いて追跡能力、連中は普段はテクテク歩いているが生存者を見つけると途端にダッシュで追ってくる。どうやら餌を見つけるまではあまり体力を使わないようにしているみたいだ。餌不足で餓死するのかどうかは知らないが。


 そして追跡速度。早歩き程度の奴から全力疾走って感じの奴まで、元の人間の身体能力や健康状態に依存するのだろうか。これは検証するしかないな、したくないけど。


 更に五感の有無。僕を見て追いかけてきたって事は目は見えるだろう。それに見えない位置にいる人間を追いかけるのだから耳か鼻、もしくはその両方が利く。


 連中には身体がボロ切れ同然になるまで食われた者もいる。それでもしっかり動けるのだから恐らく身体の内部にも相当な変化が起きているだろう。しかし……痛覚はないのだろうか、見ているこっちが痛くなってくる。



--------------------



 上記の事から推測できる奴等の生態は以下の通り。



・普段は愚鈍だが獲物を追う時は俊敏

・発症(?)すると体内でも変化が起こり、身体が見た目よりも強靭になる←非確定

・身体が傷つく事には無頓着

・移動速度に個体差があるが、疲れ知らず

・五感は(恐らく)全て機能している

・生前の記憶や扉の開閉などの知識はない



 「どんな無理ゲーだよ、コリャア……」

 人間を見つけ次第全力で追い掛けてくる奴等がこの辺りに数百人単位で存在する。それだけで僕を死なせるのに十分すぎる条件が揃った。

 自慢ではないが、僕は逃げ足こそ速いが肝心の体力は殆どない。


 対して向こうは全力疾走をいつまでも続けられる。つまり旧ゾンビのように真正面から戦ったら確実に負けるのだ。

 正しい立ち回りとしては新ゾンビのようになるべく見つからないように行動しながら武器や食料を集めて安全な建物に立て籠るしかない、出来るかどうかは判らないけど。


 屋上の扉へと振り返る。

 そして扉を固定していたパイプ椅子を外しそれを担ぐと、僕は地獄の入り口へと繋がっている雑居ビルの屋内へと慎重に一歩づつ入り込むのであった。



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