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o孕o~講習~オンライン

作者: かずっち

 俺は今年から始まった自転車講習会に召集された。

 講習第一期生だ。TVや新聞に出ちゃうのだろうか?


 受講者番号”009”ギリ一桁ナンバーだが嬉しくもないし、昔読んだ漫画では、栄光の一桁と、はしゃいだ奴が死んでたな。


 午後一時、会議室のような講習会場に集まったのは60人。欠席者は無し。

 各々(おのおの)が机に記された講習者番号を確認して、着席する。

 机の上にはケーブルに繋がれた白いヘルメットが人数分用意されていた。

「それでは、頭に VR(ブイアール)装置を被ってください。前後がありますから気をつけてください」

 係の男性が全員の着席を確認して口を開いた。前後は一目でわかる。それよりも解せぬのが……。


 えっ? ヴァーチャル? 自動車教習所みたいなシミュレーション形式なの? 


 この講習会場に居る60人全員にVR装置、いわゆるヘッドギアが用意されていた。

 演算処理は、今年採用されなかった方のスーパーコンピューターが担っているらしい。税金どんだけ使ってんだよ!


 ゲーム、もとい講習が始まる。


 現実と遜色無い仮想空間。無駄に作り込まれた町並み。ここは大宮あたりか。

 歩行者に自転車や自動車の往来がそれなりにある。


「みなさん、まずはいつも通りの運転でかまいませんので、3キロ先のゴールを目指してください」

 係にそう告げられた。ゴール到着時に運転技術とマナーを採点してくれるらしい。


 スタート時に、いつのまにか耳に刺さったイヤホンから音楽が聴こえ、手にはナビゲート機能付きスマホを握らされていた。これは罠だ。

 俺はイヤホンを外し、コードをスマホに巻きつけ、ポケットにつっこむ。

 目の前では、同じ制服の女子高生が3人がスマホを弄りながら併走している。

 同じ学校の仲良し3人組か。さっそく罠に掛かったな……いつも通りにも程があるだろ。


 ほどなくしてゴールに到着。到着順に個別に採点が始まり、待たされることも無く評価が告げらた。

「009号、片手運転、一回です。歴代最高評価ですがもう一度お願いします」

 あちゃー、厳しすぎじゃないか? 俺が女子高生を追走しながら彼女たちの違反を指折り数えた時だな。しかし違反がそれだけなら次は問題ない。

「ちなみに、満点を取るまでその装置のベルトは外れませんので、あしからず」

 係が後出しで、聞き捨てならないことを言い出した。

「まさか、電流とか?」 

「アフロには成りませんのでご安心下さい」

 俺の懸念はデスゲーム、係のそれは罰ゲームだ。


 スタート地点に飛ばされ、改めてゴールを目指す。

 女子高生がコンビニ脇のひらけた場所に自転車を止めてスマホを操作する。届いたメールで違反の詳細がチェック出来るらしい。

「あれ、なんかまたメールが来た」

 彼女がそうつぶやきながらスマホを操作してから10秒ほど過ぎて……。


”警告! システムエラー、ウイルス検出、サーバーヲ隔離シマス”


 突然の人工的な音声による警告とともに、目の前のマンホールの蓋が吹っ飛び、穴から火柱が上がる。それをスマホで動画撮影しようと野次馬が群がる。救急車の進路を塞ぐのもお構い無しだ。

 イヤホンからは大音量の”ALL I WANT”。耳に刺さなくても聴こえてくる。

 コンビニの前にはおまけシールだけ抜かれたお菓子が散乱している……ふざけるな、飢えた異世界転生者達に謝れ!

 エロゲの無料配布物の列で、「割り込まれた」と取っ組み合いの喧嘩が始まる。

 当たり屋と、蛇行運転でそいつを避ける黒光りする高級車。

 釘バットを振り回したモヒカン集団が大型バイクで逆走している。俺達よりこいつをどうにかしろ!

 青くペイントされた自転車専用レーンが、不思議な力で細くなっていく……しかし世田谷区よりはまだ太い。


 一気に治安と秩序が乱れた! この狂った世界の車道を、神は俺たちに模範運転でゴールを目指せと言うのか?


「ねーこれやりきらんと脱出できひんの?」

 女子高生の一人が初代講習最高評価の俺に声をかけてきた。

「ああ、そんなこと言ってたな。満点取れとか」

「うちら、併走、片手、前方なんたらの前科三犯だし、うるせーシャバに戻るくらいならここで暮らすのもいいーンじゃね? ところであンた何したの?」

 さすが前科者。俺たちの会話に劇画チックなしゃべり方の女子高生が加わった。いや仮想現実に転移したわけじゃないから大宮では暮らせないぞ!


 「言いたくない」と、俺は彼女の質問を突っぱねた。実は俺こそが前科者だった。


 俺の罪状は……自転車泥棒。無料貸し出し自転車の返却場所を間違えて、いわゆる借りパクになってしまった。

 紛れも無い窃盗だが貸し出し団体の温情により、今日の講習会を受けて感想文を団体に提出する事で許される手はずだった。


 まてよ……この講習者の中で逆に、イレギュラーな俺が一番交通ルールに詳しいんじゃないか? これは俺が皆を導くべき展開。一人も落伍者を出すことなく!


  ◇◇◇


 3人の女子高生を先頭に、みんなで降りた自転車を押しながら歩道を使ってゴールを目指した……。


  (完)


実在する個人・団体等とは一切関係ありません。

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