早起きは三文の得?
話中に登場するアプリが実際にあったら申し訳ないです。
「随分と早いっすね、今日」
「ああ、まあな」
未来が去っていくと、高橋がそう切り出した。
「急ぎの仕事ってありましたっけ?」
はて?と首を傾げながら樋口が聞く。
「いやさ、昨日の商談で肉食系男子やら、出来る男の話になってさ。出来る男はプライベートが充実してるって話しになってな」
「へぇっ!そんな話してたんすか!珍しいっすね」
「それでプライベートの充実と朝早くに来ることと、何か関係あるんですか?」
樋口がのんびりと幸せそうにカップに口をつけながら聞いてくる。
そんなに沢山、朝からよく飲めるななんて木下は考えながら
「いや、プライベートで俺がすぐ出来ることと言えば、早寝早起きくらいかな、、、と」
ポリポリと頭をかきながら照れ臭そうにそう答えると、
「 「ぷっ!!」 」
二人は堪らず笑い出した。
「あはは、ちょっと!吹き出しちゃったじゃないですか!でも、木下チーフらしいですね」
「そこで習い事とかにならず、早寝早起きってのがチーフらしいな」
お腹を抱えて笑い出す二人。
「急に習い事って難しいだろうが。仕事終わりに何かするよりは、仕事前にした方がいいし」
「言われてみればそうっすね」
「そうしたら朝ヨガとかいかがですか?最近流行ってるみたいですよ?」
樋口の提案に、木下は顔をしかめながら、
「朝ヨガかぁ、仕事中に眠くなりそうだな」
「確かに、朝から体を動かしたら、昼過ぎくらいに眠気マックスになりそうっすね」
「確実に寝るな」
ふむぅ、、、と考え込む二人。
「まぁ、そうですけど、、、」
出来る男とは程遠い二人だなと樋口は心の中で呟いていた。すると、木下が、
「あ、でもさ、一駅歩くのに地図アプリ使ってきたんだよ」
「あ、チーフが担当してるマップのアプリですね」
「そうそう。それ使ってこの辺りの普段は通らない裏道や路地を抜けながら来たんだけどさ、結構知らない店も多くて、検索かけながら歩いてたら色々な発見があってさ」
「確かに、路地や裏道って普段は踏み込まないですよね」
高橋、樋口が頷いて聞いていると、
「だろ?それでさ、気になったんだ。迷子防止アプリだから今までのナビアプリより分かりやすいんだけどさ、でも、それだけなんだよなー」
「それだけってなんすか?」
「目的地に向かうだけなんだよ」
「でも、その為のアプリですよね?」
「そうなんだけど、途中で見かけた良さげな蕎麦屋とかさ、店名を検索かけると、かなり口コミが高くてさ」
「へえ!毎日この辺に通っていても知らないもんっすね」
「ああ、でも口コミによると道が分かりずらいとか、地図では見つけづらいって書いてあってさ、確かになって思ったんだ」
「この辺りのは高いビルばっかりで、初めての人は確かに迷いますよねぇ」
「そう。それでさ、この迷子防止アプリに付加価値を付けれないかなって」
「 「付加価値ですか?」 」
高橋と樋口は興味津々に聞くので、木下は続ける。
「あぁ。だけど、地図の会社に急にグルメの機能を入れろって言っても無理な話だろ?だから、そっちに強い所と相互リンクとか出来たら面白いかなって」
「なるほど、相互リンクだったらお互いに今あるものを使えば良いだけっすもんね」
「どちらもインストールしていれば、すぐに検索が出来て確かに便利ですね」
「そっ、まぁ、提案っていうラフ案だけでも近いうちに持っていくかな」
「そうしたら企画書がいりますよね?」
樋口はすぐにメモを取り出しながら、構成を考えているようだ。
「そしたら、グルメサイトの分析も必要っすよね?」
高橋もそれに続いて、何かを携帯にメモをしているようだ。
相変わらず仕事が早い二人に少し感心していると、
「みんなで何してるのー?珍しい」
三人に声をかけてきたのは、コーヒーを片手に持った近藤琢磨だった。
いつも、木下より少しだけ早く出勤する彼が居るということは、気づけば長居をしていたらしい。
店内も混み合ってきていた。
「いや、ちょっとな、、、あっそうだ!」
「なーにー?」
「琢磨さ、グルメクーポンサイトと繋がりあるよな?」
「えっ?何だよ、急に」
「お願いがあるんだけど、、、」
今までの話をかいつまんで手短に話すと、
「へぇー!確かに面白いね。地図が見やすくなれば、方向音痴な俺には助かるし」
そう言って近藤も賛成してくれた。
「サンキュー!したらさ、高橋にそのサイトの詳細をくれないか?利用ユーザー層とか、平均アクセス数とか、現状の地図に対する口コミなんかあるとありがたいんだけど」
「おっけー、すぐに出せるよ」
「ありがとうございます、先輩!」
「したら、それをまとめて、樋口は企画書にしてくれ」
「はい、了解しました」
「したら、俺にも地図アプリ側の同じような資料ちょうだい。こっちも企画書作るからさ」
「ああ、わかったよ」
5人で目を合わせて頷きあう。
「したら、そろそろ行きますかー。ちこくしちゃうよ?」
近藤がそう言うと、ゾロゾロと全員で席を立ちはじめる。
木下はトレーを返しに返却口に向かうと、気づいた未来が受け取りにきてくれた。
「あ、ありがとう」
「いえいえ、何だか盛り上がってましたね?」
笑顔の未来にトレーを手渡すと
「うん、早起きして気付けた事が、いい仕事につながりそうなんだ。三文の得かな?」
「そうですか!では、今日1日良いことが沢山あると良いですね」
「ありがとう、山内さんもね!」
「ふふふ。ありがとうございます。行ってらっしいませ!」
軽く手を上げて答えて出口に向かうと、ニヤニヤ顔の四人が待っていた。
「待たせたな」
「いやぁ、はるてぃーったら、中々やるねぇ」
「なんだよ、急に」
「聞いたよ、朝からカフェデートしてたんだって?」
「でっ!お前らー!」
大きな声を出す木下に、
「朝からうるさいぞ木下!!」
気づけば後ろにいたらしい部長からお叱りの雷が落ちた。
そんな様子を、未来は遠くから微笑ましく見守るのだった。