肉食系恋愛講座1
会話が長めです(; ̄ェ ̄)
「壁ドンですか?」
「はい、知りませんか?」
「いや、聞いたことはありますけど、実際にした事はないです」
木下はシナリオライターの内田加奈子とクライアントの商談ルームにてそんな会話をしていた。
メンバーは木下と、相手側は4名全員が参加している。
女性だらけの空間に最初は居心地の悪さを感じていた木下だったが、内田から今後の参考にと、メインモデル(本人は未だ認めていない)である彼に向けて用意されていた質問に答えるうち、次第に打ち解けることができていた。
そんな中、あの流行りのフレーズの話になったのだ。
「壁ドンって、実際にされて女性は嬉しいんでしょうか?」
正直に思った事を彼が聞くと、女性陣からは様々な声が上がってきたが、全てをまとめると『相手と場合による』と言う、至極真っ当な見解となった。
そして、壁ドンからの俺様発言を実際に彼氏にされても嬉しくないと言う意見まで上がっている。
「彼氏が壁ドンして、言うことを聞けなんて言ってきたら、殴ってしまうかも、、、」
香川に至っては少し不吉な予言までしていた。そこで、
「みなさん、彼氏がいらっしゃるんですか?」
少し不躾な質問を木下が投げかけると、皆を代表して香川が答え始める。
「斎藤さんと、内田さんはこう見えて主婦なんですよ。見えないですよね?私はお恥ずかしながら、長く付き合っている彼氏がいます。竹内は絶賛募集中ですわ」
控えめな竹内は、顔を赤くしながら「はい、、、」と、か細く呟いた。
「それと、歳の事は男性は聞きづらいでしょうから先にお伝えしますと、斎藤さんと内田さんは30代、私は29歳、竹内は今年25歳になります」
「あ、それじゃ竹内さんは僕の一個下ですね、僕は今年26歳ですから」
「まぁ木下さん、お若いんですね!竹内、あなたにぴったりかもしれないわよ?」
香川は目をキラキラさせながら竹内を見ると、彼女は顔が机にめり込みそうなくらい俯いている。
どうやら、かなり照れているようだ。
「ははは、竹内さんにだって選ぶ権利はありますよね?」
木下が軽く笑ってスルーする方向で話を進めると、香川は少しガッカリした表情になったが、木下は全く気づいていない。
「では、実際に受け入れらる肉食系要素って何ですかね?」
女子なら皆、壁ドン男子のような少し強引な男に憧れていると思っていた木下はさらに質問をしてみることにした。これには、内田が答えるようだ。
「肉食系って、なんか恋愛全体にガツガツしたい女子が憧れるイメージがありますけど、実際に求めているのってそう言う事じゃないんですよね」
「そうなんですか?」
「はい。どちらかと言えば、押さえる所はしっかり押さえる勝負強さ的な?この人、持ってるわぁ的な?要素が重要なんです。何に対しても」
「と、言いますと?」
「そうですね、、、例えば、肉食系女子って聞いて木下さんならどう思いますか?」
(ふむ、、、肉食系女子か)
少し考えて出した彼なりの結論は、
「何か、気の強そうなイメージですね。目当ての相手がいたら『チャンス!』ってすぐにがっついて飛びかかりそうな、、、」
「では、そういう方を彼女にしたいと思いますか?」
「いえ、、、思わないですね。何か毎日疲れそうで」
「それと一緒なんですよ、女子も。いつもがっついているような男の人と、奔放な恋愛を求めている訳では無いんです」
「なるほど」
分かりやすい説明に、さすがはライターさんだなと感心していると、内田は続ける。
「押さえるというのは、仕事面でのリーダーシップであったり、社会的な事をキチンとこなす人ですね。しっかりと自立して友人関係も良好で、オンオフが使い分けれる人と言いますか。慕われて周りに人が自然に集まってきて、仕事面でも成功しつつ、休みの日はしっかり遊ぶ。もちろん、彼女には一途で浮気なんか論外。彼女にだけにはがっつく!みたいな」
「はぁー、なるほどなるほど。確かに、出来るモテ男!って感じがしますねぇ」
すっとぼけた声で相槌をうつ木下に、熱弁がすこし恥ずかしかったのか内田は少しトーンダウンして、
「もちろん、分かりやすい俺様を好きな方もいますよ。散々振り回して、浮気なんか当然だぜっ☆な彼氏を、私が何とかしてあげたいっ!みたいな。でも、少数派ですかねぇ。あと、二次元で俺様を求めている人も、リアルな世界では求めていない事が多いです」
「何だか難しい話ですねぇ」
「そうですね、でも、すっごく欲しいのに手に入らない魅力的な事を、実際に手にする気分になれるのが、恋愛シミュレーションの醍醐味ですからね」
「醍醐味ですか」
「実際にはあり得ないから良いんですよ。一等地にビル一棟所有するような俺様な超セレブ男子が、自分だけには激甘とか、実際には中々ないでしょ?でも、そんなあり得ない彼氏も出来てしまうのが二次元!それが良いんです」
「何だか、初めて踏み入れる世界で感心してしまいます」
ふむふむと素直に感心して話に聞き入っている木下を女性陣は不思議そうなな目で見つめていた。
「どうかしましたか?」
視線に気づいた木下が聞くと、今まで聞き役に回っていた斎藤が答えた。
「気持ち悪いとか、引いたりしないんですか?」
心配そうに質問された木下は、びっくりして答える。
「えっ?何でですか?思いませんよ、そんな事。むしろ、普段は聞けない深い話が聞けて、すごく勉強になりましたし」
「勉強、、、ですか?」
「はい。僕もそれなりに彼女がいたり、経験もありますけど、相手が僕にどんな事を求めていたかなんて真剣に考えた事は無いんですよ。だから、今後の参考になって良かったです」
「それは良かったです」
斎藤が安心したように言うと、木下はさらに続けた。
「それに、恋愛にがっつく事が女子が求める肉食系じゃないと分かりましたしね。仕事もプライベートもしっかり押さえつつ、彼女にはストレートに愛情を表現すれば良いなら、僕も頑張れば出来そうですし、自信も付きました。これから沢山努力しますよ」
はははっと、爽やかに笑いながら答える木下に、
(恋愛最強王子、今日ここに降臨!)
そう、女性陣の心には刻まれたのだった。