第8話・つまり俺は動物みてーなもんだってわけだ
戦闘回……フッ、私のイメージ力と描写力じゃこんなもんさ……
「シッ」
ジュリアが持つ幅10センチ程度の、細身に仕上げられた片手で扱うタイプの剣が突き出される。
真っ直ぐに頭を狙ったそれは速く、一般人であればそれが迫っていることに気づくころには、もう体を動かすこともできないほどの距離になってしまっていただろう。
ひょい
しかしそんな速い突きは、体を半身にしつつジュリアから見て左側へと動かれることで、なんでもないかのようにあっさりと避けられてしまう。
それもそのはずで、相手はレベル150というゲーム内最高レベルを誇っていたトライだからだ。
かつてトライがトライとして行動していたFGというゲームでは、レベルがあがっただけでもステータスは上昇するタイプのものであった。
それは速さに関係するAGIのステータスも自然と上昇するということで、例え狙って成長させなくともレベルだけでそこそこの強さにはなってしまう。
ゲームをやる前からそれなりの反射神経を持っていたトライに、レベルから来るステータスの恩恵が重なると、近衛騎士団の中でもそれなりの速さを誇るジュリアの突きでさえあっさりと見切れるほどの能力となる。
しかしジュリアもその程度は予想していた、というよりもその程度もできない相手だとは間違っても思っていなかった。
フッと軽く息を吐きながら、一瞬だけトライのいる方向とは逆に腕を曲げ、勢いをつけるための溜めを稼ぐ。
ほんの少しではあるが勢いのついた剣を、トライが避けた方向へと薙ぐようにして斬りつけた。
ひょい
しかしそれも体を後ろへとブリッジをするかのような勢いで傾けることで、トライの体の上を通過するだけとなってしまった。
ならばと振った腕を急停止させ、今度は避けずらいとされる腰から下へと狙いを定めて再び薙ぎ払う。
ここで剣の柄の部分を体の後ろに引っ張るようにして斬る辺り、ジュリアの技術の高さが伺える。
こうすることで自然とジュリアの体制は半身となり、剣とは反対側の手に持っていた盾が相手の目の前にくる形になる。
攻撃をすること自体が、防御姿勢をとるための予備動作になっているのだ。
その分攻撃に関しては効果が減るものの、下手に隙を晒して反撃をもらうよりはマシだろう。
ガッギィーン
誤算があったとすれば、トライは自分の愛剣であるベルセルクブレードを右手で持っていたことだろう。
手をわずかに動かすだけでトライと剣の間に割り込んだベルセルクブレードは、その腹を盾代わりにすることで攻撃を防いだ。
「むんっ」
さらにそのまま手を捻り右手だけで意図返しのように突きを放つトライ。
左足を前に出し、助走がほとんどないがゆえの少ない勢いに、前傾姿勢になることで体重を乗せ、無理矢理に攻撃力を上昇させる。
「っ!?」
構えていた平べったい三角錐のような盾でなんとか左側へと逸らすことに成功するジュリア。
しかしその圧倒的なパワーから来る突きは、逸らしたにも関わらず、体をそのままもっていかれてしまいそうな威力を誇っていた。
ガリガリと盾が削られていく音がしたが、それに気を取られて攻撃のチャンスを逃すわけにもいかない。
何故ならジュリアの左側に剣を逸らしたことにより、右半身は何の障害もなく自由に動かせる状態になっている。
トライは重心を前に傾け、突きを繰り出したことにより腕が伸びきっている。
今からではよほどのことが無い限り、ジュリアの攻撃が決まるのは間違いない。
「もらった……うわっ!?」
突きを繰り出すために剣を構えた瞬間、トライは「よほど」に分類される行動をとった。
なんと突きを繰り出した動きのまま、そのまま反対側の肩でタックルをしてきたのだ。
狙いも何も無いその行動に、ジュリアは咄嗟に盾の真正面をぶつけるようにして防ごうとする。
その一瞬、ジュリアの脳裏に殺されたオーガの映像が映し出される。
あれほどのパワーがぶつかれば、自分の力では踏みとどまれないことは目に見えていた。
このまま吹き飛ばされて仕切り直しになってしまうだけだろう。
ジュリアの盾と、トライの肩がぶつかる瞬間、ジュリアの頭には別の言葉が思い浮かぶ。
『必死んなってやった時が一番成長するもんだろ?』
必死になるとはどういうことか。
例えば今のこの瞬間なら、ジュリアは普段どうしていたか。
恐らく諦めていただろう、あれは仕方が無かったと受け入れていただろう、死にはしないからと足掻くことをやめていただろう。
ほんの少しだけ、トライの言葉がジュリアの心に何かの影響を与えていたのだろう。
この一瞬、ジュリアは足掻くことを諦めなかった。
接触する瞬間に合わせ、ジュリアは盾をタックルの勢いに合わせて引く。
それに合わせて右足を軸にし、体ごと回転させていく。
勢いがほぼ同じとなった盾とタックルは、ジュリアの回転を加速させる結果となり、ジュリアは一瞬にしてタックルを避けつつトライの背後へと回ることに成功した。
さらにそのまま回転によって生まれた勢いを腕にのせ、再びトライへ向けて突きを放った。
(今度こそもらった!)
完全な背後からの攻撃。
この状態から何かをするのは非常に難しいだろう。
勢いの十分にのった突きをトライが避けることは不可能、少なくともジュリアにはそう判断できた。
しかしやはり、トライは「よほど」に分類されるような存在であったのだ。
ジュリアが背後に回ろうと体を回転させた瞬間、トライもそれに合わせるようにして逆方向へと体を回転させていた。
トライの力が加わった勢いの関係でジュリアのほうが早く回転を終え、一時的にトライの背後をとる形とはなったものの、それはトライの行動における過程の一部でしか無かったのだ。
突きを放った直後、急に反転したとしか思えない速度で振り返るトライ。
背中の中心目掛けて繰り出された突きは、あと数センチという間を空けて虚空を貫く結果となり、チャンスであったはずの瞬間は一瞬でピンチへと変化するのだった。
腕を完全に伸ばしきり、先ほどのトライとは逆の立場になるジュリア。
ほんの少しだけでも足掻いて見せようと一瞬で様々な考えが頭に浮かぶが、その全てが行動に反映される前に決着は着いた。
ブォン、と風がジュリアの顔をなでる。
あまりの勢いに巻き込まれた空気が、風となってジュリアにぶつかってくる。
ベルセルクブレードがジュリアの目の前で寸止めされており、誰が見ても負けだ、とわかる状態で二人は硬直していた。
「~~~っ!!!」
そう、「目の前」で寸止めされていた。
ジュリアとしてはたまったものではない、ただでさえ寸止めが顔の付近に来るのは怖いものだ。
それがもし当たったら爆発するような勢いで吹き飛ばされる攻撃だと知れば、例え当たらないとわかっていたとしても絶対に的にはなりたくないだろう。
これがもし力加減を少しでも間違えていたら、今頃ここには首なしの死体が1つ出来上がっていたところだ。
「こ、殺す気かっ!?」
「おぉ! 悪い、つい熱くなっちまった」
騎士としての恥も何もあったものでは無いと涙目で訴えてくるジュリアであった。
――――――――――
「な、意外と戦えただろ?」
ジュリアがなんとか落ち着き、再び草原を歩きながら三人は先ほどの試合について話し合っていた。
「まぁなんというか、確かに無駄に思える動きは多かった……気がする」
「私にはさっぱりですので、出来れば教えてもらいたいんですが」
あ~、とめんどくさそうな声を出すトライ。
説明はトライの苦手分野であるため、ここはきっぱりと言っておくべきだと判断したようだ。
「任した」
「私かっ!?」
「俺頭悪いから説明とか無理、頼んだ」
頭がいいとか悪いとかの問題では無いような気がするが、ジュリアは多分この男にそんなことを言っても無駄そうだと判断した。
さっきの今で知り合いになったばかりではあるが、色々と残念であることだけははっきりとわかってしまっているようだ。
特に頭の中身が。
「はぁ……
えーとなんと言いますか、動きがその場その場の判断だけでされていると言えば大丈夫でしょうか?」
「できればもう少し詳しくお願い」
あごに指をあて、頭をこてんと傾けながら聞いてくるエルメラ。
王女という立場に役立つ情報だとは思えないのだが、圧倒的な強さを持っているはずのトライが、明らかに格下なはずのジュリアがまともに戦えた理由が純粋に気になっていたのだろう。
「身体能力と反射神経にものをいわせているため、無駄に大きく動いてしまっている、と言いますか……
次の行動を起こすために行動しているという場面がほとんど無い、という印象を私は受けました」
これはジュリアが最初に行った突きからの3連続攻撃や、引きながら斬ることによって防御姿勢をとったような行動が、トライには全く無いということを意味する。
ジュリアは避けられることを前提に突きを出し、結果的に自分が防御姿勢を取るところまでが1つの行動として組み立てられていた。
しかしトライは目の前に迫った攻撃を、単純な反射神経だけで何も考えずに避け、その後の攻撃も場当たり的にその状況で最も正解に近い行動を選び続けただけに過ぎない。
例えば最初の突きも、盾のある方向に避ければあまり強い攻撃はできないと本能で察知したようではあった。
しかしそこで一歩踏み込み、側面へと回ればジュリアは防御以外の選択肢が無くなるため、攻撃のチャンスは1度発生していたはずだった。
例えばトライが繰り出した突きも、牽制程度の強さで放ち、盾と接触した瞬間にそのまま力任せに振り回せば、それだけでジュリアの体勢を崩すことができた。
そういった点がジュリアの目から見てもわかるほどに顕著に現れており、彼女から見れば無駄と言わざるを得ない動きが多く存在したのだ。
「なんというか、街のチンピラがそのまま強くなったような……」
「当たってるぜ」
実際この反射神経と動体視力は、才能があったのかもしれないが喧嘩で鍛え上げたようなものだ。
やってきたことはチンピラと大して変わらない、少なくともトライ自身はそう聞いても不思議だとは思わないようだ。
「騎士団仕込みのちゃんとした剣術を学んでいたら、私ではどうしようも無かっただろうな」
(あ、もしかしてそういうイベントか?)
なんとなく話の流れでそうなっただけではあるが、ご都合主義を疑えるようなレベルのこの展開に、トライは彼なりの違和感を覚えたようだ。
この方向に話を誘導されたような感覚がするだけに、恐らくそうであろうと思って言葉にしてみる。
「ちゃんとしたの学んでみてーとは思ってんだけどな」
「そ、そうなのか?」
トライとしてはこのイベントはつまり、騎士団タイプの正式な剣術を学ばせてもらえるイベントではないのかと思っているようだ。
これによってスキルやステータスではカバーしきれないプレイヤー自身の能力をあげることとなり、その結果さらにスキルなども取得できるようになるかもしれないとの考えも浮かんでいる。
ただ頼れる頭脳担当の友人がいないため、様子を伺いながら探り探りの発言になってしまっているのが若干情けなくはあるが。
「それでしたら騎士団に入団してみませんか?
今回のことを報告すれば入団だけなら難しくはありませんし、騎士団なら私もジュリアも簡単に会えるようになりますわ」
「そ、そうだな、できれば私も色々と教えてもらいたいこともあるしな。
どうだろう? 悪い話では無いと思うのだが?」
(びっくりするくれー簡単に話が進んだってことは、やっぱそういうイベントなんだな。
つまり騎士団入って剣術学んでスキルもらって終了、ってことでいいんだよな……あー俺だけじゃわかんねぇ)
これが彼の友人なら様々な可能性や、ここからさらに情報を引き出してどんな内容が展開されていくのか予想がたつのであろうが、残念ながらトライにそんな頭脳は存在しない。
せいぜい言葉の意味を正確に捉えることが限界で、この先にどんな事態が起こるかなどの予想が全くできない。
スキルをもらったから、そのスキルを使わないと倒せないボスが出現するかもとか、この国と関わったことで、この国自体に影響を与えるようなイベントに発展していくかもしれない、ということまで考え付かないのだ。
(ま、いっか、とりあえずやりゃわかるだろ)
つまり結局のところ、やってみればいいという結論を出すしかないのであった。
「まぁいいんじゃね?」
「そうか! じゃあさっそく手続きのためにだな……」
「ジュリア、とりあえずそういったことは帰ってからにしましょう」
失礼しました、と若干焦った口調で返事をするジュリアは、エルメラの向こう側に見える景色を見つけて穏やかな表情へと変化する。
「見えてきたぞ、あれが我らが首都グリアディアだ」
「おう?」
草原の向こう側に生い茂る森、その中心にぽっかりと開いた道路。
その道路の果てには薄っすらと城壁のようなものが見え、そこから先は人の領域だと示すかのように不思議な威厳を晒しだしていた。
エルメラが小走りでトライの少し前に出て、満面の笑顔でトライに向けて話しかける。
「ようこそ、グリアディアへ」
彼女の笑顔、それは自らの国に誇りを持つものだけが浮かべることのできる、心の底から歓迎をしている笑顔であった。
つっこみありまくり不自然ありまくりだと思いますが……
すいませんOTZ
※2012/10/1
誤字修正
「な、以外と戦えただろ?」→「な、意外と戦えただろ?」