第4話・つまり最近のゲームは再現率が半端ねぇってことだ
戦闘回です、相変わらずこんな描写しかできませんが……
※グロ注意、前回よりもあれです。言うほどひどいわけではないと思いますが、イメージしちゃったりしたら大変ですので気をつけてください。
悪魔が降りてきた。
詩のような、伝説として語り継がれるお伽噺のような、そんな言葉がジュリアの頭の中にすんなりと浮かんだ。
彼女の目の前に現れたのは、赤黒い金属のような見た目をした悪魔。
ジュリア自身は見たことが無いが、まるで大量の血を代償に召喚されると言われている悪魔「クリムゾンデーモン」のようだ。
もしかしたら殺された仲間の血が、何かの拍子に儀式化してしまったのかもしれない。
だとしたら、もしかしたら話を聞いてもらえるかもしれない。
そこまで考えたところで、先に口を開いたのは悪魔のほうだった。
「どういう状況だ?」
悪魔の声は思っていたよりもずっと穏やかだった。
それさえも代償を支払わせる易くするための要素かもしれないが、少なくとも話を聞いてくれる相手ではあるようだとわかった。
交渉できるかもしれない、とジュリアは気づく。
「……ハッ!
す、すまないが手を貸してくれ!」
よく見れば悪魔のような鎧を着ているように見えなくもない。
相手が人間であっても代償を求めてくる存在はいるが、この状況を切り抜けられるのであればどちらでも構わない。
目の前にいる存在が何であろうと、ジュリアは自分でこの状況をどうにかできない以上、この存在を頼るしかできることが無い。
例えその代償がとんでもない内容だったとしても、王女さえ無事で済むならどんなものでも支払う。
そのくらいの覚悟を持って、彼女は「悪魔の取引」を行おうとしていた。
「なるほど、つまり助けるのがイベントってわけだな?」
意味がわからない単語が出てきてジュリアは焦る。
もしその言葉の意味が命や魔界等に連れていかれるようなものであったなら、もし自分にしがみつくようにして震える王女を差し出すような意味であったなら。
オーガではなく、悪魔が相手になっただけで結果は変わらない。
「い……いべんと?」
だから意味を知るために、取引を続けるために確認をしてみる。
恐る恐る口から出した言葉は、自分でも情けないと感じるような細いものだった。
「こっちの話だ」
悪魔はそう言い、二人に背を向ける。
その行動に、ジュリアはますます焦る。
言葉の意味も知らないのかと呆れられたのかもしれない、代償を払うつもりが無いと思われたのかもしれない、見捨てられたのかもしれない。
この状況で見捨てられてしまえば、待っているのは死か、死よりも辛い苦痛だけしかない。
彼女は、藁にもすがる思いで言葉を続ける。
「す、すまない!
礼なら必ずする! だから今は助けてくれないか!」
例え体を求められたとしても、自分だけであれば差し出すつもりでジュリアは言う。
王家に誓った忠誠が、彼女にその判断を迷わせることはない。
「少し黙ってろ」
だがそれさえも、悪魔の怒りを買っただけにしか見えない状況となってしまった。
王女もそれをわかっているのか、先程からずっと震えが止まらない。
終わった。
もうこの存在は、自分達を救ってはくれない。
自分の交渉が失敗したせいだ、ジュリアにはそう思えた。
絶望という単語が彼女の頭に浮かぶ。
だから、悪魔が背を向けたまま、こちらを見ようともしない本当の理由に気づくのは、彼が動いた後だった。
「さぁ、イベントスタートだ」
彼女は知る、悪魔が、悪魔では無かったことに。
その存在は、悪魔でさえ笑いながら殺してしまうような、悪魔以上の存在であったことに……
――――――――――
スキル「ダンシングウェポン」を起動し、このスキル専用アイテム「破壊の杖」を6本出現させるトライ。
六角系の細長い盾のようで、その縁が全て刃になっている不思議な武器。
上端から3分の1ほどのところに丸い穴が空いており、その中に柄のような棒がある。
普通に使う分には非常に扱いずらそうな、かろうじて剣と呼べるその物体。
その物体がトライを守るように両脇に1本ずつ、背中に1本の計3本。
他の3本はジュリアとエルメラを守るように、刃先を外側に向けて三角形になるように展開する。
「こ、これはっ!?」
守るための配置なのだが、ジュリアとしてはたまったものではない。
何せこの武器は全部が刃になっているため、剣先が手前なのか奥なのかわからない、それが周囲を囲んでいるのだ。
先ほどまでの態度もあって、逃げないように脅しているような気さえしてくる。
意思の疎通はかなり難しいようだ。
「『いけ』」
呟くと同時に、トライの周囲にあった3本が高速で飛び出す。
一番近くにいた3体に向かったそれぞれの剣は、1本がオーガの頭に突き刺さり、1本は別のオーガの心臓当たりを突き刺した。
どちらも即死したようだ。
最後の1本は、対象のオーガがやや後方にいたためなのか、咄嗟に持ち上げた木の板を丸くしたような盾で軌道を逸らされ、滑るようにしてオーガの後方へと抜ける。
パカッ
突然その盾は真っ二つに割れ、盾を持っていた腕から血が吹き出す。
(オーガの盾が割れた!?)
この世界の物質は、あらゆる存在に宿る魔力という不可視物質を吸収する性質がある。
特に木材というのは吸収しやすい部類である。
吸収した魔力の影響を受けて性質が変化することもよくある現象だ。
そしてオーガの魔力を吸い続けたこの盾は、木製とは思えないほどの強度を誇り、鉄製の剣を易々と弾き返すほどの強度を誇る。
その盾を切り裂いた。
断面は恐ろしいまでにスッパリと切れており、その切れ味の鋭さを物語っている。
血を吹き出して慌てるオーガの後方。
後方に抜けた剣は、唐突に空中で停止した。
さらに他の2体を倒した剣もいつの間にかオーガを離れ、最後の1体を囲むようにして空中で停止している。
その姿はジュリア達を囲む3本と同じように三角形を描き――――
「グギャウッ」
――――そのままオーガを中心として交差するように突き刺さり、一瞬で絶命させた。
「ゴフッ!」
「ゴフーッ!」
仲間を殺された怒りからか、2体がトライの左右から飛び掛る。
相手は所詮人間、自分たちならば勝てる相手であって、その相手に仲間を3体も殺されてしまった。
それがオーガ達の低脳によって無駄に大きくなったプライドを傷つけ、自分と相手との戦力差を冷静に判断することができなかったのであろう。
考えることをせず、感情だけで行動する時、それがどういう結果をもたらすのか。
人間に限らず、動物でも、モンスターでさえも、似たような結果が起こるものだ。
「ふんっ!」
ベルセルクブレードを片手で持ち、地面へと向けていた剣先をそのままに下から持ち上げるようにして斬りあげる。
それだけでトライの右側にいたオーガは、体が斜めに真っ二つとなった。
さらに持ち上げた剣を今度は左手を加えて構えなおし、腰の回転を加えて反対側へともう一度振る。
両手の力と腰の回転という3つの力によって振るわれたベルセルクブレードは、反対側にいたオーガへと吸い込まれるようにぶつかる。
バヅンと一瞬何の音かわからないような音が響いた。
それは破裂するような勢いでオーガが切り裂かれた音。
切断などではなく、まるで爆弾をピンポイントで当てたかのような「破裂」
あまりにも強すぎる力が、あまりにも強く振られすぎた剣が、それに対してあまりにも弱すぎた肉体が、胴体を爆発させるような形で吹き飛ばした。
そんな攻撃を食らったオーガは、自分が死んだことさえも気付くことなく、ただの肉塊となって空中を舞った。
(うおぉ!? グロすぎだろ! どんだけ再現してんだよ!
メンタル弱えヤツはショック死できんぞ!?)
残念なことに、ここに到っても未だゲームであると信じているトライ。
グロ映像もきっとどこかでオフにできると信じているようであるが、やり方がわからないので今は放置と決めているようだ。
「……すごい」
しかしジュリアはそんなことはわからない。
彼女の目に映っているのは、グロ映像にビビっているプレイヤーなどではなく、オーガを一瞬で5体も倒した1つの存在である。
例えば今目の前にいるあの存在と、ジュリアが知る最も強いものと比較したとき、彼女は間違いなくこの悪魔だと答えるであろう。
そのくらいに圧倒的な光景が繰り広げられていた。
「ゴールァーーーッ!!!」
悪魔のような存在にオーガ達が怯み始めたとき、ジュリア達の近くにいたオーガ達が一斉に動き出した。
「ちっ、こっちを優先する気か」
あの悪魔は相手にしてはいけない、ならばせめて女だけでも。
オーガ達がそう考えたのかどうかはわからないが、彼らは狙いをジュリア達に定めたようだ。
近くに浮かぶ剣避けるようにして、彼女たちへと近づこうと走り出す。
「きゃあああっ!」
今まさに飛び掛ろうと、オーガの1体が地を蹴った瞬間。
ザクッ
剣の一本が、オーガの肉の鎧に突き刺さる。
オーガの盾と同じくらいの強度を誇るその肉体を、あっさりと貫く。
「『いけ』」
先ほどと同じ言葉を呟くと、トライの周囲に展開していた3本もそちらへと加わる。
合計6本となった剣の壁。
たった1本でも易々と肉体を貫き、しかもその動きは明らかにオーガ達よりも早い。
むしろこの剣が、彼女たちを「守っている」からこそ、彼らは生きているのだ。
頭ではなく、本能でそれを理解してしまったオーガ達は、悔しい思いをトライへと向けながらも逃げるためにジリジリと後退を始める。
「『ウィンドブラスト』」
トライとジュリアの延長線上、木々が生い茂る林の中から、そんな言葉が聞こえた。
林の中のある地点から、薄緑色をした空気の塊のようなものが飛び出してくる。
(まずいっ! エルメラ様がっ!)
狙いは、エルメラに定められていた。
接触するまでは1秒もありはしない。
体を引っぱって避けさせても間に合わない、効果があるかどうかはわからないが、身を挺して庇うしか無い。
ジュリアはそこまで判断して、エルメラを抱くようにして魔法へと背を向け、来るはずの衝撃に備えて体を強張らせる。
「うらっ!」
ボンッと軽い破裂音が響いた。
魔法を食らった音にしては、全く衝撃がこないことにジュリアは違和感を覚える。
恐る恐る後ろを振り返ってみれば――――
「……あ」
――――そこには、悪魔が立っていた。
いつの間に移動したのか、ジュリアには全くわからなかった。
魔法に気をとられていた、それを加えて考えたとしても、まだわからない。
まるで一瞬で移動したとしか思えないほどの速度で、彼はこの場に移動していた。
だが、彼女はさらに信じられない光景を目の当たりにする。
「くそっ、『ウィンドブラスト』」
再び風の塊が飛んでくる。
今度はエルメラというよりも、目の前の悪魔を狙っているようだ。
「無駄だ」
悪魔は短く呟くようにして言い、軽く払うような仕草で真っ黒な両手剣を振るう。
再び響く破裂音。
そしてその破裂音が出る理由が、この悪魔が原因だったとジュリアは理解した。
「魔法を……斬った……?」
スキル「ガードアタック」
攻撃を攻撃することで防御することが可能になるスキル。
物理であろうが魔法であろうが関係なく、「攻撃」同士であるならどんな攻撃にも適用される。
しかしこの世界では、少なくともジュリアが知る限りでは、それが可能であるのは達人と呼ばれるような存在だけだ。
武器と武器であるならともかく、魔法を攻撃できる存在など、ましてやそれを何でもないかのように行う存在など、彼女は知らない。
(やべぇ、さすがに気持ち悪くなってきた)
トライがグロ光景に耐え切れなくなってきていることなど、彼女はもちろん周りの誰も思いつかない。
気持ち悪くなっているために、無駄に話せば出してはいけない何かが出そうな気がして、口数が減っているなどとは考えもしない。
「(早く終わらせてくれ、いやマジデヤバイからそろそろ)吐く……か?」
最後が疑問系になってしまったのは、空中酔いによって気合以外を出さない手段を予習しておいたことにより、もう少しはがんばれそうな気がしたからだ。
ただ気持ち悪い状態になるとわかるのだが、いっそ吐いてしまったほうが楽になる場合というのがある。
その辺で心が揺れ動いた結果、答えを出さないまま言葉にしてしまったことにより疑問系という曖昧な形での発言となってしまった。
しかしその言葉に反応したのは、魔法を使ってきた男のほうだ。
彼にはこの悪魔のような男が、容易に自分を捕まえられると宣言しているように聞こえた。
捕まえた上で、貴様は事実を言うか?と問われていると思ったのだ。
彼は考える。
(ここで吐いたら戻った時には殺される、吐かなければこの場で殺されるっ)
盛大に勘違いをかましてくれた彼は、一瞬で行動を切り替え、逃げの一手に転じる。
森の奥へと消えるように走り出し、消えると同時に白い煙を出現させて逃げ出した。
「あ、待てっ!」
「おめぇーが待て」
追いかけようとしたジュリアの鎧をがっちりと掴み、そのありえないほどの力で無理矢理動きを止めるトライ。
「他にやることあんだろうが」
主に自分の気持ち悪い状態をどうにかしてほしいとか、とは思っても言わないトライ。
彼も低脳の部類であるからして、残念なことに変なところでプライドが高い。
女性の前で吐きそうなほど気持ち悪いんです、助けてくださいなどとは口が裂けても言えない。
吐くなど言語道断だ。
イベントとしては失敗なのかもしれないが、今はそれよりもこの気持ち悪さをどうにかすることのほうがトライにとっては重要事項だった。
「ジュ、ジュリア……」
へなへなと力尽きたように座り込む王女を見て、やっと落ち着きを取り戻すジュリア。
「エ、エルメラ様。
大丈夫でございますか!?」
「とりあえず、だ」
寄り添うようにエルメラの肩に優しく手を添えるジュリアを見て、トライは重要事項を伝えた。
「ここから離れねぇか?」
そう、このグロ光景が広がるこの場から離れるという最優先事項を。
もう一度言うが、女性の前で吐くなどトライにとっては言語道断なのである。
そして気持ち悪いんです、とストレートに伝えることも、彼のプライドが許すことは無かった……
グロ注意はトライに言ってやるべきだったか……
今後ともよろしくお願いします。