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第38話・つまり思ってたよりも大事になりそうってことだ

 王国の城壁の外側、遠くに森を眺めることのできる平野の一画にて、統一性の無い人間達が集まっていた。

 貴族のような格好をしたものや、役人のようなきっちりとした格好をしたもの、騎士の鎧をまとったもの魔法使いらしき姿のもの、職人らしきツナギを着たものまでいる。

 まあその騎士らしきもの達の中に例の悪魔騎士ことトライがいるので、ろくなことをしているわけではないのが容易に想像できる。


 そんな中、唐突に発生する衝撃音。

 大太鼓を思い切り叩いたような音が二度、連続して叩いたように聞こえた。

 一度目の音はトライ達のいる場所から、二度目の音は遠くに見える森から。

 森のほうをよく見れば、粉塵が舞い上がり木々がいくつもへし折られているのが見える。


「おー、生で見るとやっぱ迫力がちげぇな。

 なんかこう、男の憧れって感じでイカスぜ!」


「お偉いさんの前だ、あまり軽々しい発言はするんじゃない」


 トライの素直な感想を嗜めるジュリア、相変わらず苦労しているようだ。

 肝心のお偉いさん達はそれどころではないようだが。


「……こ、これほど、ですか」


 トライ達が何をしていたか、それは実験だ。

 トライの知識から開発された『反射大砲リフレクター・キャノン』の試験運用がされているのがこの場だった。

 実験の結果は周囲を大いに驚かせ、王国の武器管理・製造の部門に所属している役人が搾り出すように感想を述べていた。

 ちなみにその上官らしき人物は先ほどから興奮しっぱなしである。


「き、キミ!

 これは量産できるのかね!? 生産にかかる費用は!? 生産にかかる日数は!?」


「お、おお落ち着きたまへ。

 まままだ実用段階ではないないななないだろう。

 キミ! 実用化までどれくらいかかかかかるとおおおおお思っているのだね?」


 ちなみにいつ戦争に投入されるかわからない、という立場の貴族も興奮しっぱなしである。


 今しがた行ったリフレクター・キャノンの実験では、現実世界で言うところの200メートル以上先にある木々を破壊した。

 これは魔法使いが放つ一般的な威力を重視した単体攻撃魔法とほぼ同じ射程距離であり、もたらす破壊能力も似たようなものである。

 見習いの魔法使いが放つような攻撃魔法のレベルよりは遥かに上等であり、しかもそれを魔法が使えない人間でも扱える、となればその秘めた性能は計り知れないものがあるだろう。

 実際問題、魔法使いの格好をした人物達はその威力と射程距離に渋い顔をしている。

 その表情からも判るとおり、これが実践に投入されれば魔法使いの立場はかなり危ういこととなるだろう。


「オッス……いえ、はい、実用化も量産もまだまだ先の話ッス……いや、です」


 だが、開発元であるテッドの表情は優れない。

 威力の確認は工房ですでに行っているので驚くことではない、ということもあるが、それ以外の部分で不満に感じている部分が多いようだ。


「まず弾丸の再装填に時間がかかるッス、いやかかります。

 慣れてない人がやると魔法と同じくらいかかる、かかります。

 しかも再装填中に暴発する危険性があって、暴発した場合は装填作業中の人がかなり高い確率で大怪我するッス、しますです」


 テッドは職人であり、商売人ではない。

 ここでいう商売人とは現代にあたる各企業の営業のような人物達のことを言っているが、彼らであればメリットのみを伝え、デメリットは言わずに金儲けの話だけをしたであろう。

 不思議なもので情報というものはメリットだけを集めて提示すると、最高の一品であるかのように錯覚してしまうということがある、もちろんその逆も然り。

 もちろん職人であるテッドは問題点を正確に把握し、現実に運用した場合のことのみを考えているためそんなことはしないが。

 魔法使いの面々や役人達は、テッドのその態度に一旦落ち着いたようで、テッドの言葉をきちんと聞こうとする態度に変わった。


「機構もでかいんで持ち運びは簡単じゃない……ですし、重量も馬鹿にできない、ません。

 製造も細かくて頑丈な部品を多く使う必要があって、1個作るだけで費用も時間もかなり必要ッス、です。

 さらに本体とは別に発射物、トライさんの話だと『弾丸』と言う部品が必要ッス、いや、ですが、この弾丸にもある程度以上の品質が必要になるでッス」


 画期的な開発ではあるものの、その特徴のみを捉え他を軽視する、等という愚行はしない。

 それがテッドという人物に職人の道を叩き込んだ親方の生き方なのだろう。

 特徴を捉えつつもその問題点、実用上の課題等といった「現場」を見据え、それを提示することで解決策を検討する。

 それをしてきたからこそ、リフレクターにおいて王国で上位である、と自信を持っていたのだろう。


「うむ、言われてみれば確かにそうだな。

 機構の改善はもちろんだが、生産性に関しては今までに無い武器だ、当然といえば当然だが……」


 役人達もそういった点では非常に優秀なようだ。

 テッドの言いたいことを理解し、実用にはまだまだだということを瞬時に悟ったのだろう。

 実際問題として、現段階で戦線に投入したとしても単発魔法が使える魔法使いが一人増えた程度の変化しか生まれないだろうし、戦争でその程度の差がどの程度の影響になるかわからないほど戦をわからない彼らではない。

 この場にいる中にはわかっていない者も数名いるようだが、彼らに悪印象を与えて自分達がどう不利になるかわからないわけではないようで、そういった人物達は特に口を出さない。


「テッド君、と言ったかね?」


 不意に開発局の偉い人、テッドにとっては偉いらしい人が声をかけてくる。


「うっす、あ、いえ申し訳ないッス、いやないです。

 えっと、なんでございましょうか」


 一般兵士に納品程度のことをすれど、偉い人と話をしたこともないテッドは当然しどろもどろ。

 必死に言葉使いをなんとかしようとする姿は初々しい。

 偉い人もその姿勢は気に入ったようだ。


「言葉使いは気にしなくてもいい、追々慣れていってくれたまえ。

 それよりも……キミはこの武器の理想的な形を、すでに考えているのかね?」


 ちなみにこの発言でトライが「お、ラッキー、俺も適当に話そ」と思ったのだが、心を読んだかのようにジュリアから「お前はちゃんとやれ」と釘をさされている。


「……実用的な形、なら考えてるッス、ます」


 じっとリフレクター・キャノンを見つめるテッド。

 そしてその理想的な形を語り始める姿は、まさに職人のそれである。


「理想は、弾丸の再装填なしで連続発射できること。

 牽制・直撃・トドメの3連発くらいはできるようにしたいと思って、います。

 性能の向上も必要ッス、対人間であれば現状でも十分ッスけど、対魔物相手となると普通の弾丸じゃ効かない相手も多いッス、です。

 再装填もできれば安全に、かつ簡単に、しかも個人で射撃から運搬、再装填まで完結できるような構造が望ましいッス」


「なるほど、ね」


 つまり理想はとんでもなく高い、と公言してしまった。

 これは裏を返せば、その全てとは言わずともその辺が改善できるようにならないと実用性が低い、と言っているようなものだ。

 画期的なアイディアの武器であるだけに、役人や貴族連中にはその改善案がさっぱり思い浮かばない。

 そのため実用化は相当先の話になるだろう、という漠然としたイメージだけが彼らによぎる。


 彼らの希望としては、トライによって深手を負わされた炎魔将軍ロンドが復活する前に出来るだけ早く実用化してほしいのが本音ではある。

 それでなくても強力な武器、もはや兵器にも近いこれは、実用化が早ければ早いほどいい。

 実戦配備となれば戦争のあり方そのものが変わってしまいかねないほどのポテンシャルを秘めているが故に、運用の仕方には細心の注意が必要ではあるが。


「それに、何かの手違いで他国にこの武器が強奪されでもしたら大変なことッス。

 正直、大量生産はしたくない、ってのが自分の本音ッス……あ、すいません、本音です」


 それを理解している、というだけでも役人達は安心できたようだ。


「そりゃ大丈夫だろ、強えヤツならそんくれぇ避けられるし」


「バカやめろお前ほんとそういう発言やめてくれ」


 バカ1名はそんなことも考えていなかったようではあるが。

 ジュリアが本音をがっつり漏らしているあたり苦労はまだまだしそうである。


 ちなみにその発言を受けて面白がった貴族の挑発をガッツリ受け止め、トライVSリフレクター・キャノンが3回ほど実施された。

 結果は回避・剣で粉砕・真正面から受け止めて無傷、という「こいつ本当に人間か!?」という噂を加速させることとなった。


 余談だが、トライの「多分ジュリアでも避けられる」という発言によりジュリアも対戦カードを組まれる事態になった。

 ギリギリではあるが実際に避けられてしまったので、紋章騎士クラスの強さがあれば対応できないわけではない、という結果も付与されることになったため、テッドがさらなる改良を目指すことになったとか。


「お前は何なんだ、私を殺したいのか!?」


「いや俺は事実を言っただけおげふぅっ」(※思いっきりビンタされました)



――――――――――



「……」


 リフレクター・キャノンの公開試験が終わり、報告のために王城へと向かう馬車の中。

 開発・製造部門の偉い人は、今後のことに関して部下と相談していた。


「構造や性能の向上に関しては開発元に任せるしかないでしょうね、他の職人に手出しができるとは思いませんし」


「そうだろうな、例の悪魔騎士と仲が良いようだし、何気ない一言から飛躍的に開発が進むこともあろう。

 我々としても参考になる部分も多いであろうし、連絡役も必要だ、勉強という意味も含めて誰か派遣しておいたほうがいいだろう。

 担当の選定はまかせる」


「ではそのように。

 しかし実用化は早いとお考えのようですが、生産性に関してはどうしましょう」


「いっそのこと国側からの要請ということにして複数の工房に分業させたほうがいいかもしれん。

 弾丸だけを作る工房、特定の部品だけを作る工房、あの工房は組み立てのみを行うといった具合にな」


「しかしその場合情報漏洩の危険性が高くなりますが……」


「ある程度は止むを得ないだろう、多少の構造がわかったからといってすぐに真似できるようなものでも無いしな。

 本当に重要な部分に関してはテッド君の工房に任せれば良い。

 最近はどこの工房や武具店も似たような品揃えが多くなっているとの話だし、これを機に各工房が品質で競争してくれれば装備の品質もあがる、我々にとってはありがたい話だろう」


 偉い人の発言に、部下は不意に表情を緩める。

 その顔にある感情は、嬉しいような不思議なものを見たかのような、なんともいえないものだ。


「……」


「……どうした?」


 それに気がつかないほどの人間では、開発・製造という部門の偉い立場にはつけない。


「いえ、なんと言いますか。

 たかが1つの武器の話が、国全体の鍛冶屋に影響するかもしれない、と思うと……」


「フッ」


 大きな話になりそうでビビッている、そう聞こえそうな話に対し、偉い人は最後まで聞かずに言葉を返す。

 体だけはほとんど動かさず、馬車から見える窓の外に視線を移して。

 その窓から見える景色は、大通りの人が賑わう地域に到達していた。


「我々がいるのは、そういう部門だ。

 それに鍛冶屋どころの話ではないぞ?」


「……と、言いますと?」


「まず分業制にすれば、それぞれの鍛冶屋が品質や金額で競争を始めるだろう。

 あるものは技術を向上させ、あるものは原価を下げてくる。

 原価を下げれば大量に売る必要が出てくる、そのためには大量に仕入れをしなくてはならない、商人に大量の注文をすれば値下げしてくれるかもしれんな。

 そして商人は大量の注文に答えるために、大量の材料を仕入れる必要が出てくる、依頼先は炭鉱主や冒険者等だろう。

 冒険者に依頼するならば冒険者ギルドを通すため、冒険者ギルドも儲かるし冒険者も金になるなら喜んで受注するだろう。

 炭鉱主もまあ金になるなら協力するだろう、そうして得た資金を使って冒険者は技術の向上した工房から良質な武具を揃えるだろうな。

 炭鉱主は働く人間の賃金を増やすか、私腹を肥やすにしても絵画や宝石等を購入するだろうからそういった商売人が資金を得る。

 そうして金が回り始めれば商人達は金の匂いに敏感だ、続々とこの国に他国の珍しい商品を持った者たちが集まり……」


 ズドドドドという効果音が聞こえてきそうなほどのマシンガントークに部下が呆気にとられている、ということにやっと気づいた偉い人。

 この辺でまとめを入れておこうということで結論をポンと出す。


「まあ今のは例でしかないが、そんな風に金が回るということだ。

 我々の決定1つでそんな風になることもありえる、というのが我々の仕事なんだよ」


「ハハハ、なんだか凄い部署にいたんですね、私」


 自分の立場を再確認した部下は、自分の仕事の重圧に冷や汗を書きながら王城へと向かうのだった。

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