第3話・つまりご都合主義的な登場もテンプレってわけだ
時間ができたので急遽更新~
ちょっとグロ表現ありです。
紋章騎士ジュリア=バーロッツ
才能だけでなく、経験に裏打ちされた実力者のみが選ばれる近衛騎士団、その隊に名を連ねる女性。
そのジュリアは今、非常に焦っていた。
戦火の勢いが激しくなり、彼女たちが属する王国領土の首都「グリアディア」は、混乱まではいかないものの緊張に包まれていた。
足の速い商人は戦火の届かない他国へと移動し、住民も移動に枷の無いものは移動を始めようかとしている。
攻められたら負ける、などというほどの状況では無いものの、戦争に巻き込まれて人が死んでしまうことを嫌がる人間は多い。
死ぬのが自分であるか、自分以外であるか、に関わらず。
ジュリアがここにいる理由は後者。
といってもジュリア自身の理由ではなく、ジュリアが守るべき対象である人物が原因だ。
エルメラルダ=フォン=ビオランティア=オリヴィアスロン=アンティアーナ
親しい者からはエルメラと呼ばれるその人物は、王国の第二王女にあたる人物。
第一王女はすでに他国へと嫁いでいるため、国王の愛情を過保護なまでに受けている王女。
かといって性格が歪んでいるということもなく、王族であるが故なのか見た目も非常に整っている。
深窓の令嬢と言う言葉の代わりに、まるでエルメラ様のようだ、と例えられるほどの箱入り娘な人物であった。
そんな彼女が戦争に巻き込まれることを嫌った国王は、戦火が王国にまで伸びそうだと判断した時点で彼女を逃がすことを決めた。
最悪国が滅びようとも、彼女が、彼女の子孫がいつか国を再興してくれるという算段もあったが、理由のほとんどは彼女を愛するがためだ。
しかしいつ敵国が攻めてくるともわからない現状、あまり多くの戦力を付随させるわけにもいかない。
むしろ多くの戦力が移動をすれば、それだけで敵国に何かを悟られて利用されないとも限らない。
大人数の移動とは、良くも悪くも目立つものだから。
そこで実力のあるものしかなれない近衛騎士団から数名が選ばれし、戦争が落ち着くまで彼女の護衛をし続けることを任命された。
この任務にはつまり、辺境地に逃げたあとで王女の世話をし続けることまで含まれている。
その結果同じ女性ということで、名を連ねはするものの、近衛の中では一般的なジュリアもメンバーに選ばれ、同行することとなった。
女性同士でしかできないこともあるだろうとの配慮をする程度には、選出した人間にセンスがあったようだ。
しかし問題は、その戦力の低さにあった。
この任務はつまり、ほぼ永久的に戦争に参加できる人間が減る、ということに他ならない。
そこに実力者を選定すれば、戦争の結果そのものよりも、王の暗殺などといった部分で致命的な影響がでかねない。
つまり派遣しても大勢に影響が無い、一般的なメンバーしか選ぶことができず、近衛そのものが実力者の集団であるとはいえ、ジュリアにとっては少なからず不安を覚えるメンバーが揃うこととなった。
その結果が、今現在彼女達が遭遇している状況となり、彼女を焦らせる結果となったのである。
――――――――――
王国から離れ、比較的弱いモンスターしか生息していないはずの南側へと進んだ一行。
王族が乗っているとバレないよう専用の馬車ではなく、稼ぎのいい商人が乗るような高級な馬車。
近衛騎士団も全員馬に乗っているが、できるだけ冒険者風の装備にするか、ジュリアのように正規の鎧をフード付のマントで覆うような格好をしていた。
順調に旅は進み、やがて平原から木々が所々に密集して林が何箇所も存在するような地点に差し掛かった時、その状況は訪れた。
ジュリアが偶然、森の中に魔法を扱うときの独特の気配を感じ取り、第六感がこれはまずいと判断して飛ぶように下馬する。
バシュッという何かが切られたような音がし、ジュリアの乗っていた馬の首が飛んだ。
「敵襲!」
ジュリアが叫び、全員が戦闘態勢をとると同時に、ジュリアは馬車へと急いだ。
敵に魔法使いがいる。
ジュリア達も魔法を使うからよくわかる。
一度放たれた魔法は、防ぐことが困難だ。
対策はあるし、避けることも軽減させることはできる。
しかし魔法そのものを弾いたり、切り裂くということは、空気を切ると言っているようなものだ。
できる人間もいるのであろうが、それはもう達人などの域に達した人物だけであろう。
近衛騎士団の中でも、団長や副団長クラスになれば可能なのであるかもしれないが、少なくともここにいるメンバーにできる芸当では無い。
だから、馬車を直接狙われた場合、彼女達はどうすることもできない。
身を挺して守ったところで、自分ごと馬車に押し付けられてしまえば結果は変わらない。
自分たちの任務はあくまでも中にいる「王女」を守ることであり、殲滅することが目的ではない。
馬車の中にいる彼女が死んでしまえば、彼女達は存在意義が無いのだ。
だから走る。
馬車の中にいるエルメラを守るために。
エルメラを逃がし、命を守るために。
馬車の側面に取り付けられたドアを荒く開け、中の人物とその侍女が無事であることを確認して叫ぶ。
「エルメラ様! ご無事ですか?」
ビクッと一瞬震えた王女と侍女に言葉が強すぎたかと思案したものの、今はそれどころではないと無礼を謝らずに続ける。
「敵襲です、敵に魔法使いがいます。
この場は我々に任せてお逃げください」
「わ、わかりました。
行きましょう」
侍女が反対側のドアに手をかけ、開いた瞬間。
サクッ
まるでリンゴに爪楊枝を刺したような軽い音が響き、侍女は動きを止めた。
よく見れば彼女の頭から、矢のようなものが3分の1ほど飛び出している。
「っ!?」
動きを止めた侍女を構いもせず、押しのけるようにして反対側のドアへと手を伸ばし、すぐに閉めるジュリア。
彼女は敵襲に気をとられて忘れていた。
この場所がどこであったか。
移動先までの距離を少しでも短くするため、危うくはあるが近衛騎士団なら問題ないであろうと言われて進むことになったこの場所のことを。
人間にとって脅威と呼べるモンスターが、この場所には生息していたことを……
「あ、あ……」
「エルメラ様、見てはいけません」
矢が頭に刺さり、馬車の中に倒れ血を流している侍女。
その生々しい死の光景は、箱入り娘であったエルメラには恐怖以外の何者でも無かった。
少しでも見ないでいられるようにとジュリアがエルメラを抱きしめ、落ち着かせようとする。
「おい、馬車を動かすぞ!
王女様を守れ!」
突然ガクンと揺れた馬車は、そのまま勢いよくどこかに向けて走り出した。
どうやら仲間の一人がこの場所で戦うのは不利と判断したらしく、危険を顧みずに馬車ごと移動することにしたようである。
移動しはじめる馬車に合わせ、近衛騎士団も周囲を警戒しながらそれについていった。
――――――――――
馬車の中にあって、再び嫌な気配を感じたジュリア。
馬車の移動はいつの間にかゆっくりになっており、周囲から剣と剣をぶつけ合うような音が聞こえ始めてきた。
王女を抱きしめたまま、チラリと馬車のドアについた窓を見る。
「まずいっ」
窓の外に見えたのは、今にも魔法を放とうとしているフードを深く被った人物。
今からでは何をやっても防げない、と判断したジュリアは反対側のドアを開けて、王女を抱えたまま馬車から飛び出す。
飛び出した直後、ズガンッと破砕音がジュリアの後方から響いた。
エルメラに衝撃を与えないようにできるだけ気を使って着地はできたが、震える彼女を励ますよりもまずは状況確認だ。
そう思って回りを見てみれば、それは絶望的とも言える状況になっていた。
魔法の衝撃によってゆっくりと倒れていく馬車。
御者台に乗っていたはずの仲間は、心臓の辺りに矢が突き刺さって死んでいる。
馬車が先か馬が先かはわからないが、馬の首はいつのまにか切り落とされ、馬車が倒れるのに引きずられるようにして倒れていく。
それだけなら、移動の早い足を失っただけ。
時間こそかかるがなんとかなるだろう、そう思える事態ではあった。
しかし絶望的と言える状況の理由は別にある。
「オーガが、こんなに……」
オーガ
それはゴブリンと呼ばれる小さな人型のモンスターの上位種。
体を洗うという文化が無いためなのか、筋肉質の肉体は常に汚らしい茶色に染まっている。
しかし一般的なモンスターと呼ばれる存在にしては知能がある程度存在する種族で、衣類はもとより武器や防具もある程度独自のものを扱う。
中には人間から奪い取ったものを使う固体もいたりして、非常に厄介な存在である。
何より、その強靭な肉体が1つの武器だ。
人間を圧倒する強力なパワー、ただの筋肉に見えるがモンスター特有の金属のような特徴を持つ鎧。
その3つの要素が重なったオーガは、個人で相手をすべきではない強力なモンスターとしてジュリアは理解していた。
近衛騎士団であれば1対1とは言わないまでも、2対1か3対1程度ならなんとか相手ができるようなモンスターだ。
普段であれば問題は無い、知能があるとはいえ低脳と言っていいほどのものだ。
だが先ほどから飛んできている矢を考える限り、弓を使う固体が混じっている。
弓を使う固体は珍しく、オーガ5体に1体混じっているかどうかといったところが普通だ。
つまりオーガが5体以上いれば、どこかにはいるであろうと予測がたつので、何人かはそちらに向かわせる必要がある。
では現在、ジュリア達がどれほどのオーガに囲まれているのかと言えば――――
「10体はいそうだな……」
オーガが集団で行動する、という行為は無いわけではない。
しかしそれは彼らが彼らの集落にいる限り、と条件付けをする必要がある。
彼らは集団行動をとることはできても、それはせいぜい2~3体が限界なのだ。
その2~3体がたまたま同じ目標を狙うことで、一時的に集団行動のようなことをすることにはなっても、それは集団行動とは呼べないだろう。
そのたまたまが今回であったとしても、これは異常な事態であっただろう。
仲間の近衛騎士団は普段とは逆、2対1をするべき相手から1対2という状況をしかけられ、相手をすることもできずに死んでいく。
なんとか生き残っていた一人は、木の陰から飛んできた矢に腹を貫かれ、そのスキをついてオーガに殺された。
これほどのオーガがいれば、弓を扱う個体は2~3体いてもおかしくは無い。
ただ状況確認をしているだけで、ぼうっと立っているだけだったジュリアとエルメラが殺されなかったのは幸運だったかもしれない。
(いや、これは幸運じゃない。体を狙われているんだ)
オーガの繁殖は、同種族間だけではなく他種族間でも可能なことで有名だ。
彼らの美的センスがどうなっているかはわからないが、女性が彼らと戦って死なずに負けるということは、ある意味では死以上の苦痛を味わうこととなる。
そのことをわかって「生き残った」のではなく「生かされた」という事実がジュリアを焦らせた。
(私はともかく、エルメラ様だけはなんとか逃がさないと……どうする、どうする?)
自分の足でしっかりと立っているエルメラだが、その体はガクガクと震え、しがみつくようにしてジュリアに捕まっている。
人生で初めて味わう死の恐怖、彼女が耐えられているだけまだマシかもしれない。
「ゴフーッ」
これから起こることを想像でもしているのか、ニヤけたように見える表情でジリジリと近寄ってくるオーガ達。
どうすればいいのか、どうしようもないのか、苦痛を味わう前に自害するべきなのか、どんな屈辱を受けても助けがくると信じて耐えるべきなのか。
答えの出ない思考を振り払うかのように、腰に挿した剣を引き抜くジュリア。
せめて抵抗の意思があると見せ付けることで、少しでも考える時間を稼ごうとする。
どうしようもない。
ジュリアの思考がその一点に固まりそうになった瞬間だった。
「大人しくしろっ!」
彼女の目の前に、空から悪魔が降りてきた。
第一部を知ってる人ならニヤりとできた場面をこんな使い方してすいません。
今後ともよろしくお願いいたします。
※2012/9/18
誤字を修正
味あわないうちに→味わう前に