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第22話・つまり騎士ってのはすげぇわけだ

最近トライのバカっぷりがあまり描写できない。

しかしこの辺を出しておかないと……っ!


意外なあの人が相手です(笑)


というわけでどうぞ。

「我が防御の前に」


 ビシッという擬音が聞こえそうなほど機敏な動きで、戦隊もののようなポーズをとる。


「オーガの一撃など児戯にも等しい!」


 国王の魔力を含んだ鉄でさえ貫通するパンチに比べれば。


「魔法の炎など火遊び同然!」


 国王が口から出す破壊光線(※マジで出ます)に比べれば。


「巨大な肉体など脅しにすぎん!」


 国王の巨大化するパンチ(※マジで巨大化します)に比べれば。


「鍛え上げられた我が肉体と防御! 例え竜が来ようとも防いでみせる!」


 主に国王に殴られ、蹴られ、破壊光線を浴びて鍛え上げられた肉体。

 少しでも被害を減らすため、磨き上げた独自の防御技術。

 それをほぼ毎日やり続けた結果――――


「王国の盾!

 近衛騎士団が紋章騎士!

 ブライアン=イジスター、ここに見・参!」


 ――――非常に残念な精鋭が生まれてしまったのだった。


 日付が変わったものの、昨日と同じ訓練場。

 そこに流れている空気は、騎士団長と戦った時とは違った意味で寒い空気が漂っている。


「おい、ジュリア」


 額に青筋を浮かべ、頬を引きつらせるトライ。


「何も言うな、私だって不本意なんだ」


 トライとブライアンから目を逸らし、地面を虚ろな瞳で見つめるジュリア。

 ドヨーンという擬音がしっくりきそうな影が、彼女の背景に見えるのは気のせいだろう。


「フッ、安心しろ同志よ。

 ジュリアさんの願いとあらば、例え悪魔だろうが魔神だろうが相手になるぞ。

 むしろやらせて下さい、お願いします」


 自分の評価アップするから、という理由である。

 評価があがり、会話する機会が増え、仲良くなれば覗きも許される。

 彼の頭の中では、どうあっても覗きは確定のようだ。


 例え誰かと恋仲になったとしても覗きはする、とは彼が過去に放った言葉。

 周囲にいた「まとも」な男と女性全員にドン引きされ、一部の男から尊敬の眼差しを集めた「ブライアン宣言」は、城勤めの者なら知らぬ者はいない有名な話。


 ちなみに彼の中でトライは未だに同志のまま。

 そのためトライに対して恐怖は特に感じていないようだ。

 変な先入観はもっているようだが。


「実力だけは保証する。

 ブライアンなら恐らくトライの攻撃も捌けるハズだ。

 実力だけは本物だからな」


 やたらと「だけ」という部分を強調するあたり、ジュリアの評価がわかるというものだ。

 恐らく現在は最底辺なのだろう。

 きっとその理由は、彼女も何度か被害にあっているから、という予測は簡単にできる。


「やってみればわかる」


 凄く残念そうな表情で話すジュリアに促され、とりあえず二人は訓練を開始するのであった。



 ――――――――――



「さあ来い!

 同士の想い、このブライアンが受け取ってやろう!」


 うざったい発言をするブライアンに若干引き気味のトライではあったが、ブライアンから感じる気迫の前に意識を戦闘用に切り替える。

 ただのうざい発言をする男にしては、ブライアンから感じるそれは強すぎる。

 野生の勘にも近いトライの感覚は、目の前にいるのがただのスケベ男ではなく、れっきとした「強者」であることを感じ取っていた。


「いくぜ」


 言葉と同時に、トライは駆け出した。


 数メートルあった距離を一瞬にして縮め、ブライアンの真正面で止まる。

 勢いのまま、ベルセルクブレードを上段から思い切り振り下ろす。


 それは常人であったなら、目で追うことはできても体が反応できるかは微妙なところ。

 例え騎士であったとしても、体をずらすなどのワンアクションができればいいほう。

 そのくらいの速さでトライは動き、そして振り下ろす剣に込められた力は、手加減こそしているものの怪我では済まないほど。

 普通であれば弱いものイジメになってしまいそうなほどの動きであったが、その行動は正解だった。


「(国王に比べたら)遅いっ!」


 片手に構えていたジュリアが持つものと同じ、三角錐を平べったくしたような小さめの盾。

 カイトシールドという分類になるのであろうそれを、ブライアンは剣の側面に押し付けるようにしてぶつける。

 力の流れに逆らうのではなく、方向を変えてやることによってあっさりと剣の軌道がズレる。


 この時点でトライの正面はがら空き。

 反対側の手に持った剣で、トライを攻撃するチャンスが発生するのが普通だ。

 実際に、ブライアンはすでに突きを放つために剣先をトライに向けている。


 しかしトライは普通ではない。


 騎士団長のときと同じように、攻撃用の意識を持って行動していたトライ。

 つまりここでの行動は、相手が攻撃してくるのも気にせず、さらに攻撃を加えようとするという行為だ。


 剣から片手を離し、やはり騎士団長のときと同じように頭を掴もうとする。

 その行動が正解と言えるほどに二人の距離は近い、それやってくるということを意識していなければ、誰もがその腕に捕まっていただろう。


 だが、普通ではないのは、トライだけではなかった。


「(国王に比べたら)バレバレなんだよ!」


 突きをする予定であった腕を握り締め、剣先をトライから空の方向へと向けなおす。

 いや、正確に言うならば、剣を使っての攻撃から拳を使っての攻撃に切り替えたのだ。

 攻撃する先は、トライの体ではなく、今ブライアンの頭をめがけて伸びてきている腕へと。


「うおりゃあっ!」


 トライの腕をアッパー気味に下から打ち上げ、その軌道を確実にずらす。

 それでも高レベルの影響なのか、ただ立っていただけでは掴まれるような軌道を描いてトライの腕が伸びきった。

 姿勢を低くして腕を避けつつ、さらなる攻撃チャンスが生まれた瞬間だ。


 これがジュリアであったなら、騎士団長であったなら。

 彼らは攻撃のチャンスを逃すようなことはしない。


 だが、ブライアンは違う。


 彼の肉体を鍛え上げた相手は、傷をつけてはいけない相手である国王だ。

 つまりブライアンは、攻撃のチャンスを見つける必要がそもそもなかった。

 下手に攻撃して傷でもつけようものなら、その瞬間にクビどころか物理的に首が飛ぶ可能性がある。

 だから彼は、一般兵でも攻撃できるようなタイミングが生まれない限り、絶対に攻撃をしない。


 だから、見えた。


 トライが腕を殴られた瞬間に、剣を持っている側の半身を若干引いていることに。

 手に持っている剣が、剣として十分な威力を発揮できるだけの間が生まれていることに。

 ここで攻撃すれば、当てた瞬間に真横からその攻撃を食らうということに。


「おおおらっ!」


 ブライアンの予想と寸分違わず、真横に振るようにして攻撃が来る。

 姿勢を低くしていることも理解しているのだろう、さらに姿勢を低くして潜って避けることができないような高さで迫ってきている。


 ブライアンでなければ、この状況はピンチでしかない。

 しかし彼は知っている、ピンチのあとには、チャンスが待っていることを。

 この攻撃を避けた瞬間に、自分と相手の立ち位置がどんな状況になるのかを、予想している。

 その状況になるためには、どんな避け方をすればいいのかを、彼はわかっている。


「フンッ!」


 最初と同じように、盾を上から叩きつけるようにして剣の側面に当てる。

 ただしそれは、飛び上がりながら。

 飛び上がるのは、空中側転のように横へと回転しながら。

 盾を剣にぶつけたのは、そこを力の支点にするためだ。


「なんっ……!?」


 アクロバットを決め、見事なまでにブライアンは攻撃を避けた。

 ピンチを避けた後の状況は、チャンスへと変わる。


 ブライアンはトライの側面に立っている。

 一般人が見れば、それだけだ。


 だが、片方は剣を振り切り、上半身はもはや背を向けているのと同じ。

 反対側の手は、自分の剣を持つ手と体が邪魔で動かしようがない。


 もう片方は、完全にニュートラルな状態。

 手でも足でも、自由に動かすことができる。

 もちろんそれは、余裕を持って寸止めができるくらいに有利な状況であった。


 剣先をトライの頭に突きつけ、ブライアンはニヤリと笑う。


「……俺の勝ちだ」


 ぐうの音も出ないほど一瞬でついた勝負に、トライは素直に負けを認めるのであった。



 ――――――――――



「だーっ!

 全っ然勝てねぇっ!」


 その後何度も模擬戦を行ったが、結局トライがブライアンに勝つことは一度も出来なかった。

 防御を捨てて攻撃しつづけるトライに対し、防御だけをしつづけるブライアン。

 相性の問題もあるのであろうが、単純な技術と経験で明確な差が生まれていたのだった。


「(国王に比べれば)まだまだだなっ!」


 実際問題として、ブライアンはトライの攻撃を全て避けている。

 それはトライの攻撃が大振りで、攻撃されても怯まずにカウンターを決めようとする攻撃スタイルが理由だ。

 カウンターである以上、相手が攻撃をするというある意味最も隙だらけな行動がなくては成立しない。

 ブライアンは攻撃したくなるような瞬間にあっても、攻撃をしない。

 それはトライが狙っているカウンターでさえも、その行動を体の動きから予測できているということに他ならない。

 その結果、トライの行動は全て避けられ、流され、ブライアンが有利な状況になった瞬間に負けるというパターンになってしまっていた。


 実はこのブライアンという人物、近衛騎士団の中でも結構凄い人物である。


 近衛騎士団の中では、近衛騎士団長と副団長を除いて、精霊騎士4名、紋章騎士10名、魔導騎士30名、その他一般近衛騎士という順で階級が分けられている。

 単純な強さだけで階級分けされているわけではないが、精霊騎士・紋章騎士レベルになると何かしらの武勲がなければなることはできない。

 つまり上位14名は、戦争なりなんなりで何かしらの活躍をした人物であり、かなりの実力者であるということになる。

 その紋章騎士10名の中でもブライアンは上位と言われており、条件さえ揃えば精霊騎士になっていてもおかしくない人物なのだ。


 上位と言われている理由は、「王国の盾」とまで呼ばれるその圧倒的な防御能力。

 自称ではなく、本当にそう呼ばれている。

 騎士団長・近衛騎士団長さえ上回ると評判のその能力は、戦場で最も厄介な男として知られ、どんなモンスターが相手でもブライアンの後ろにいれば大丈夫とさえ言われている。


 噂ではあるモンスターの討伐に失敗したとき、「俺が抑える、お前らは国にこのことを知らせろ!」という死亡フラグ満載の台詞を言っておいて、国から応援が来るまで3日3晩戦い続けて結局生き残った、なんてものもあったりする。


 ちなみに精霊騎士になる条件は色々あるのだが、そのうちの1つに「国王が認めること」という項目がある。

 ここが最大のネックになっているため、ブライアンが精霊騎士になれることはないだろうと近衛騎士団の中で言われている。

 本人も別になりたいとは思っていないようだが。


 とりあえず、ただの覗きかと思いきや結構凄い人物だったのである。


「基本がなっとらん。

 ジュリアさんを見てみろ」


 そういってブライアンは演習場の端っこのほう、木が植えられているあたりに移動していたジュリアを指差す。

 結構な時間を戦っていたため、ジュリアは途中から自分の訓練を開始していたようだ。


「ありゃあ鞭剣か?」


 ジュリアは、例のベルトのように使える鞭剣を剣状態にして、何かを狙っているのか時折振り回していた。


「なんだあの達人みてーな練習は……」


 よく見れば、ジュリアは確かに狙っているものがあった。

 近くにある木から、ときおり木の葉がひらひらと舞い落ちる。

 それを空中にあるうちに切りつけ、1枚の葉が2枚になって地に落ちていく。


「ジュリアさんの強みはあれだ。

 あの急所を正確に狙える剣捌き、彼女の前じゃ鎧なんて意味がない」


 ジュリアも紋章騎士である。

 それは当然、実力者であることを意味していた。

 正確に鎧の隙間を切りつけ、鎧という防御を無視して攻撃をしてくる。

 女であるが故のパワー不足を技術でカバーする、という言うのは簡単で実践は難しいことを実際にやっている人間なのだ。


「実践になればあれに魔法も使ってくるんだ。

 正直に言えば、彼女と戦って勝てる自信が無いよ」


 負ける気もない、ということは思っても言わないブライアン。

 二人が戦えば、恐らくそういう戦いになるのだろう。

 迂闊に手を出せないブライアンと、パワー不足を補うために常に有利な状況であろうとするジュリア。

 きっと二人の勝負は、長期戦になる。

 長期戦になれば、不確定要素はどんどん増えていく。

 不確定要素が多ければ多いほど、勝負の結果がどうなるかはわからなくなっていくものだ。


 また、木の葉が一枚落ちる。


 ただしそれは、木を挟んで反対側。

 ジュリアがただ剣を振っただけでは、届かない位置にある。


 それでも、ジュリアは剣を振った。


 剣の形に固定されていた刃を、解除して振った。

 鞭剣は、剣ではなく鞭として機能し、円弧を描いたまま木の葉へと近づいていく。

 しかし形状を変化した際に魔力が解除されており、今はただの金属だ。

 つまり刃がついていない。


 当てるだけの練習かとトライが考えた瞬間だった。


 ジュリアの握る持ち手にはめられた宝石が赤く煌く。

 それは魔力を通したときの反応、組み込まれた魔法が刃を出現させるための輝き。


 時間にすればほんの1秒ほど、木の葉と鞭剣が触れ合い、別れを告げるまでのわずかな時間。

 赤い刃が一瞬だけ、先端の部分にだけ出現して木の葉を2つに切り裂いて消えた。


「……騎士って、すげぇんだな」


 手のひらに隠れてしまうような小さな的に当てる。

 そこにあるのは高いステータスでも、性能のいい装備品でもない。

 それは単純な技術と、長い間訓練を続けることでしか手に入らないもの。


 決して、昨日今日で身につくようなものではない。

 それができる、というだけで、どれだけの訓練をしてきたのかがわかる。

 例えゲームであっても、そういう設定で作られているのだとしても。

 トライはその技術から、確かに歴史を感じることができた。


 おっさんの言っていた、現実だと思えという言葉が頭をよぎる。


 どこかで、ゲームだと思っていた。

 目の前にいるのは、NPCだと思っていた。

 誰かと話をするのも、戦うのも、イベントだと思っていた。


「今更気づいたか?」


 隣で笑っているこの男も、そういう設定のイベントキャラクターだと思っていた。


 今は、何か違う気がする。


 現実だと考えるなら、きっとこの男にも歴史がある。

 軽く話せないようなことも、きっとたくさんある。

 辛いことも、苦しいことも、色んなことを抱えている。

 それでも、この男は笑っているし……覗きもする。


 現実だと思ってという言葉。




 トライは、その意味をやっと理解しはじめていた。

ブ、ブライアンがこんな再登場の仕方をっ!?


ただの覗きじゃなかったんです。

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