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第20話・つまり何も準備するもんはねぇってことだ

第二章はこれで終わりとなります。


ほのぼの回ですがどうぞです。


※現在仕事で多忙中のため、あまり推敲ができておりません。

誤字脱字、表現のおかしい部分が多くあるかと思われますので、「ミスってるアホい(笑)」ぐらいの生暖かい目で読んでください。

 日がさらなる高みへ昇ろうと頑張っているような気がする午前中。

 もし今の太陽を人に例えるなら、筋肉ムキムキのスマイルがやたら素敵なお兄さんが汗をだらだら流して無駄に爽やかな雰囲気で疾走している状態だろう。

 空気も隣にこんな人がいたらこんな感じなんだろうな、というような、気温はそれなりだが風が吹くと寒く感じる状態。


 ……ようするに微妙な気温ということだ。


 そんな暑苦しい……もとい暖かいと涼しいを行ったり来たりするような天気のグリアディア城下町。

 トライとジュリアは鎧姿ではなく、普段着のような格好で大通りを目的もなく並んで歩いていた。


 ジュリアは薄青の生地を使った飾り気の無い膝下まである長めの長袖ワンピースに、腰の上に乗せるようにして大き目のバックルが付いたベルトをしている。

 大分緩ませているようで、左側へ下がるように斜めにして付けているが、服のたるみやすい部分が引き締められてジュリアのスタイルのよさがはっきりとわかるような格好だ。

 ただし、肩から茶色いケープのようなものをかけて胸の前で服の色と似た色をした宝石つきの飾りでとめて隠しているため、胸の大きさは正確に語ることができない。

 非常に残念だ。


 対するトライは、現実世界であっても通用しそうな格好をしている。

 黒いズボン、白いワイシャツ、ボタンをとめずに若干だらしない着方の黒いベスト。

 そのうえに膝ほどまで丈のある、ズボンとは違った色味の無地で黒いロングコート。

 流石は王城に仕えるメイドが用意した服、大人の雰囲気を醸し出すそのファッションセンスは、トライの銀髪という特徴と合わさって貴族のような見た目を作り出していた。


「……ってことがあってだな」


「バカか」


 まあ会話の内容は貴族とはとても思えないようなものではあったが。


 二人は出会ってからそれほど時間がたっているわけではない、ましてや愛の告白をしたわけでもないただの男女だ。

 人によってはその関係を「友人」ですらなく「知り合い」だと言うだろう。


 そんな二人の会話となれば、過去の武勇伝や自分の知識を披露するようなものよりも、もっと最近起こったことに対してとなるのは自然な流れだろう。


 つまり「覗きました☆」という報告を、覗かれた対象にするという暴挙に出ている最中であった。


「はぁ……

 ブライアンも大概だが、トライもどこかで気づいてくれ」


「うむ、まったくわからんかった」


 腕を組んでふんぞりがえって堂々とそう返すトライを見て、ジュリアは再び溜息を吐く。


「城内でそんなことをすれば国王が黙っているわけが無いだろう、まったく」


 実際に黙っていなかったわけだが。

 しかも放たれたのは肉体言語という、一国の王がする会話方法として問題がありすぎるものであったが。


「おぉ、あのおっさんなにもんだ?

 俺の知ってる国王って感じからかけ離れてんぞ」


「公的な場でおっさんなんて言わないでくれよ?

 ……国王のことについては、私に聞くなとしか、私が聞きたいくらいだ」


 国王をおっさん呼ばわりはともかく、国王が普通のそれのイメージとかけ離れているのはトライに限った話ではなかったようだ。


「まあ、そんなわけだからよ。

 装備なんかより普段着のが欲しいわけよ。

 できれば多めに」


 二度とあんな行為はしたくない、という意味も含めてそう言う。

 トライであればその気はなしに再びやりそうだから、わりと切実な問題だ。


 しかし装備より普段着、という発言にジュリアは眉を顰める。

 相手にしようとしているのは騎士団長という立場の人物だ。

 騎士団長という立場は戦闘能力があればなれる、なんて単純な話ではないため騎士団長=国内最強では無い。

 しかし戦闘能力の無いものがなれるような立場でも無いため、騎士団長という立場にいるだけでもかなりの実力者と考えられるのが騎士団というものだ。


 そして現在の騎士団長は、歴代の同じ立場にいた人物達と比べても非常に優秀だった。

 1つの組織の長としての能力も十分に備わっているが、それ以上に戦闘能力が圧倒的であった。

 国内では知らぬものがいないほどの人物なのだ。


 余談だが、悲しいことに今の時代には彼以上に強く・若く・自由な存在が多くいる。

 そのため国内はともかく、国外になるといまいち認知度が低いという残念な環境になってしまっている……


 閑話休題


 そんな相手と戦う前だというのに緊張するどころか普段着とまで言い出すトライに、色々と諦めたはずのジュリアでさえ、わずかにムッとするのだった。


「相手は国内有数の強者(つわもの)なんだぞ。

 ちゃんと準備をしてだな……」


 ここはいつものバカだからなんだろうと、失敗する前にちゃんと忠告する必要があるとジュリアは話し始める。


「つってもな、別に勝つ必要はねぇんだろ?」


「む……」


 しかしちゃんと言う前に、トライの的確な発言が出てくる。


「普段の俺を見てぇって話だろ?

 だったら余計なことなんかいらん、普通に戦うだけだ」


 そう、今回は必ずしも勝敗がつく必要は無い。

 あくまでもトライの人となりを戦いを通じて知ることが目的であって、勝負でも試合でも、ましてや「死合」などという物騒なものでもない。

 むしろこの状況では、変に装備や道具を使えば印象を悪くしてしまうことさえ考えられるのだ。


 もちろんトライがそんなことまで理解しているわけは無いのだが、ジュリアであればこの少ない言葉からそこまで思い至るくらいは可能だ。

 そしてやはりそこまで考えたジュリアは、準備の大切さを伝える言葉が止まってしまうのだった。


「し、しかしだな……」


 それでもやはり、普段からあまり準備というものをやらなそうなトライには言っておくべきだろうと、今回はともかくとして説明しようと話し続けようとして――――


「あぶろぶるあぁっ!?」


 ――――中断させられた。


 二人の前方にあった店の中から、ツナギのようなものを着た若い男が派手な音と共に非常に独創的なやり方で道路横断したからだ。

 まるで何かに思い切り突き飛ばされたかのような、良い子は真似してはいけない! などと注意することが必要そうなやり方だったので、さすがの二人も意識が全てもっていかれてしまったようだ。


「あー、んー、えーっと……」


「うん、うん、いや、なんというか……」


 二人は完全に思考停止している。

 口から出るのは意味のない音が漏れるだけだ。

 周囲にいた人達も似たような反応で動けないでいる。


 どうしたものかと、というか何がどうなってこうなったのかと考えていると、店の中から二人に聞き覚えのある野太い声が聞こえてきた。


「テッドー!

 こいつぁ失敗だ! 作り直すぞ!

 いつまでも寝てんじゃねぇ!」


 若い男が吹き飛んだ時に壊れたのであろうドアの残骸を跨ぎ、のっそりという表現がピッタリな態度で声の主が現れる。


「お?」


「あ」


「ん?」


 店の中から現れたのは、昨日会ったばかりの店主だった。



 ――――――――――



「こんなもんしかねぇが飲んでくれ」


 木製のカウンターに紫色の液体が入った金属製のコップを置く店主。

 ちなみに中身はぶどうのような果実から作ったジュースだ。


「おう、わりいな」


「気にすんな、どうせ休憩しようと思ってたとこだ」


 ふうと溜息をつきながら、店の奥のほうにある盾の残骸の山を店主は見る。

 そこに転がっているのは、かつては盾であっただろうものが歪み、ひしゃげ、ものによっては完全にバラバラになっているものも転がっていた。


「……うまくいってないようだな」


「まあ、な」


 どうやらトライから伝授された盾をずっと作っていたようだ。

 よく見れば、残骸の山の下のほうは見るも無惨な状態だが、上のほうに近づくにつれて破損がどんどん少なくなっている。

 と言っても、盾としての機能が残っているよいには見えない状態なのだが。


「なんか足りない感じなんだが、何が足りないのかサッパリわからんってとこだ」


 残骸の山から、つい先程試していたものであろう盾を手に取って眺める店主。

 しかしその目に宿る光には、疲れこそ見えるものの諦めのような感情は見ることができない。


「ま、リフレクターそのものは滅多に損傷しなくなったのが救いっちゃあ救いだな。

 思ってたより出費が少なくて助かってる」


「ふーん……?」


 店主が手に持っている盾の残骸を見つめるトライは、何か思うところがあるのか店主の言葉にテキトーな返事をする。

 考え事をしながら会話をする、ということでさえトライの頭脳には高負荷がかかるようだ。


「ま、あんだけの大見得を切ったんだ。

 俺の鍛治師としての誇りにかけて、こいつはなんとかしてみせるさ。

 そうだよなテッド!?」


「オッス! なんとかするッス!」


 店主が店の奥に声をかけると、さっきぶっ飛んでいた若い男がいつの間にか復活しており、元気の良い返事を返してくる。

 どうやら彼らは諦めるつもりなど微塵も無いようだ。


「ところで……」


 若い男の返事に満足したのか、店主は一度口をニヤリとさせた後でトライとジュリアへと視線を移す。

 心なしか口元が、若い男の時とは違う意味でにやけているようにも見える。


「お前ら付き合ってんのか? ん?」


 見えるというか、にやけていた。

 それはもう親戚の子供が街中でデートしているところを目撃してしまい、家で会った時にやたらと馴れ馴れしく話しかけてくるおっさんのように。


「んー」


 現在進行形で脳に高負荷がかかっている状態のトライは、言われた言葉をどうでも良さげに返事する。

 焦ったのは当然ジュリアだ。


「なっ、バッ、バカ!

 店主! 違うぞ! 変な勘違いはするな!

 っていうかニヤけるな!」


「いやいや、ニヤけてなんかいねぇって(ニヤニヤ)

 ほー、へー、いやーあんたらがねぇ……?(ニヤニヤ)」


 だがその焦ったように否定する態度が逆効果になってしまっていた。

 付き合いたてのカップルが咄嗟に否定してしまったかのような、なんとも言えない雰囲気になってしまっている。

 伊達に長年生きたわけではない店主も、その焦りようからあらぬ方向へ勘違いしてしまうのも無理はなかった。


「今日はトライの準備に付き合っているだけだっ!

 そ、そういえば店主! 私もほしいものがあるんだがっ!」


 ちなみにこの間、店主はずっとニヤけっぱなしである。

 大丈夫大丈夫、わかってるってとか言い出しそうなくらいにニヤけている。

 何気にいい性格をしているようだ。


「若いってないいなぁ……、俺もあと10年若ければ」


「違うって……」


 さすがにイジりすぎたのか、ジュリアが涙目になりながら拳を握り締める。

 店主がこれはまずいと気づいた時には、もう手遅れになっていた。


 ジュリアの魔力らしきものと気合らしきものと怒りらしきものとかなんかその辺の色々が、握り締めた右手に凝縮されていく。

 されていく、というかすでにされている、が正しいのだが。

 魔法使いもビックリなほどの精密操作と凝縮速度である。


「ちょっ……まっ……」


 なんとか静止の声を出そうとする店主だが、近衛騎士であるジュリアの動きの前に、声という音速の行動でさえ間に合うことは無かった。


「言ってるだろうがっ!!!」


 放たれるジュリアの右ストレート!

 騎士団仕込の無駄の無い動きから流れるように放たれるそれ。

 店主に反応という行為が許されたのは、握り締めた拳が顔面に吸い込まれるように突き刺さった後だった。

 逆に中途半端に反応できてしまったせいで、突き刺さった拳から圧縮された魔力とかその辺が一気に開放される瞬間を認識できてしまったのが店主の運のつき。


 店主は思う。


(あれ、俺死ぬんじゃね?)


「ぼげらああぁぁぁっ!?!?」


 思うが早いか、魔力等が開放されるのが早いか。

 隣にいたトライがその状況に気づいたのは、店の奥の壁を突き破って地面に突き刺さっている店主を見た後だった。


「……なにやってんだお前ら?」


「な、なんでもないっ!

 なんでもないぞ、ハハハハハ!」


「……?」


 結果は見えていても、過程がわからないせいでどうしてこうなっているのかさっぱりわかっていないトライであった。

 幸か不幸か、考え中のバカ頭脳にはあらゆる言葉がスルーされる仕様になっているようだ。



 ――――――――――



「いやーすまん、ちょっと調子のっちまった」


 意外とすぐに復活してきた店主は開口一番そう言ってきた。

 にこやかな顔をしていて、服がホコリで汚れている以外は何も無かったかのようにケロッとしている。


「全く、気をつけてくれ」


 と、殴った本人が言っている。

 どちらが気をつけるべきなのかはつっこんではいけないのだろう。


「う~ん……」


 トライは再び思考の海に頭からダイビングしている。

 目的のものを回収することはいまだにできていないようだが。


「ま、それは置いといて、だな。

 兄ちゃんはともかく、騎士さんのほしいもんって何だ?

 武具関連だったら侘びの意味も兼ねて安くしとくぜ」


「それは助かるな。

 実は暗器というか、隠し剣のようなものを探しているんだが」


「隠し剣?

 なんでまたそんな騎士らしくねーもんを?」


 この世界での隠し剣のイメージは、盗賊や暗殺者などが袖や靴の中に仕込むようなものだ。

 魔物を相手にすることを想定しておらず、あくまでも「人」やそれに近い見た目と知識を持つものに対する手段として認識されている。

 それはそのまま闇に属する家業を生業とするもののイメージへと直結するため、印象は非常に悪い。

 正規を強調する武具店であれば、そういった類のものは1つとして揃えてはいない。

 もちろん表面上は、とつける必要はあるが。


「ちょっと私用でな、パーティドレスを着ていても持っていられるようなものがいいんだが……

 何かいいものは無いだろうか?」


 しかしジュリアのイメージしている隠し剣は若干違うようだった。

 ようはドレスを着ていても太ももに装着しておける小型の剣とか、折りたたみできるような武器のようなものをイメージしているのだろう。


「ドレスねぇ……?

 見た目がそれっぽくなきゃ見えててもいいのかい?」


「それはかまわない。

 武器としての能力も身を守れる程度あればいい」


「ちょーっと待ってな。

 確かなんかあったはずだ。

 テッド! テーーーッド!!」


「オッス!」


 若い男をひきつれ、店の奥のほうへと向かっていく店主。

 よく見るといつの間にか破壊された壁がつぎはぎとはいえ修繕されている。

 若い男がやったのだろうが、仕事が早すぎる気がしなくもない。


「あ、わかった」


 店主達が奥でごそごそやっている最中に、唐突にトライが声をあげた。

 どうやら思考の海から目的の情報をサルベージすることに成功したようだ、珍しい。


「どうした?

 なにがわかったんだ?」


「ああ、バネだよバネ。

 バネがついてたんだ、確か」


「……バネってなんだ?」


「えーっとだな、なんかねぇかな……」


 きょろきょろと周囲を見回し始めるトライ。

 そしてたまたま近くに置いてあった男性の小指ほども太さのある針金のようなものを手に取る。

 そしてそれをぐねぐねと捻り始め、螺旋状になった針金をジャーンと擬音がつきそうな感じでジュリアに見せた。


「こんなん!」


「……すまん、よくわからん」


 それの何がすごいのかさっぱりわからないジュリア。

 どうやらこの世界にはスプリングという概念そのものが存在しないようだ。

 トライがうまく伝えられないなりに説明をしようとしたところで、店主達が戻ってくる。


「悪い、待たせたな。

 こんなんはどうだい?」


 トライは説明しようとしていたが、店主が持ってきたものを見て軽く驚く。

 そこにあったのはトライがゲーム時代に見たことのあるもので、なかなかお目にかかれないレア装備が存在していた。


「おぉ、鞭剣か」


「さすがだな、見た目だけでわかるとは思わなかったぜ」


「鞭剣?」


 そこに置いてあったのは、一見すると不恰好なベルトのようなものだった。

 バックルのような部分は透明な宝石らしきものがついており、周囲には銀色の細工がしてあるが、よく見れば片手で持つのにちょうどいいサイズに調整されて握りやすく若干丸みを帯びている。

 帯にあたる部分は1センチ程度の幅しかない青色をした金属的な物質が、10センチ程度の感覚でぶつ切りにされたような状態で並んでいる。

 中を紐でも通してあるのか、その並びはバックルからきちんと順番になっているが、これは剣とはとても呼べるような代物ではない。

 剣はもちろんだが、鞭としての性能があるかと聞かれたらほとんどの人間は無いと答えそうだ。

 結果的に、最初に言ったように不恰好なベルトという見た目にしか見えない。


「こいつは魔力剣さ。

 持ち手にあたる部分に引き金があってな、そいつをひくと……」


 言いながら店主は使い方を実演してくれる。

 バックルの部分を手に持ち、裏側に隠されていたトリガー部分に指をひっかけ、それを引く。


 次の瞬間、だらんと垂れ下がっていた帯部分は、中の紐が引っ張られていきなり剣のような見た目に変化する。

 これで刃が付いていれば、確かに剣と呼んでも差し支えないだろうという状態だ。

 刃は付いていないのだが。


「こうなるわけだ、そんでここで持ち手の宝玉に魔力を込めると……」


 バックルの部分についていた透明な宝石に魔力を込める店主。

 すると宝石は赤みを帯び、刻み込まれた術式に従って魔力を発現させた。


 青い金属の両側面から赤い光が噴出し、まるで物質のように固定される。

 赤く色がついたガラスがくっついたような見た目になっており、ある種の芸術作品のような状態になっていた。


「これは……なかなかすごいな」


「だろ? 自信作だぜ」


(ラ、ライ○セイバー!?)


 一人だけ違うところに反応しているが、とりあえずいいもののようだ。

 若干不恰好とはいえ、普段はベルトとして使えるということもあればジュリアの求めるものとしてはピッタリだろう。


「まぁ威力はたいしたことないんだけどな。

 かかってる費用のわりに護身用ぐらいにしか使い道がねぇから売れ残っちまった。

 いるんなら安くしとくぜ?」


「いただこう」


 どうやらジュリアは気に入ったらしく、1も2もなく頷いた。

 結構なお値段がしたようだが、気前よくジュリアは支払いを済ませ、さっそく今つけているベルトのように身に着ける。

 大事なことなのでもう一度言うが、どうやら気に入ったらしい。


「♪~」


 ……気に入ったようだ。



 ――――――――――



「毎度あり~」


 そのまま店を出る二人を見送って、店主は軽くため息をつきながら振り返る。

 溜息の原因は、残骸となって山になっている失敗作達。


 正直に言えば、行き詰まっている感覚がする。

 技術や能力ではない、根本的な部分で何かが足りないような感覚。

 そしてそれが何かわからない自分への苛立ち。


 諦めるつもりなんて少しも無いが、このまま続けても恐らく成功しないだろうという経験からくる勘。

 どうしたものかと少しの間立ち止まって考えていると、ふいにカウンターの上におかれた不可思議な物質に目がとまった。


「なんじゃこりゃ?」


 螺旋状に捻られた太い針金。

 子供のおもちゃのようにも見えるそれは、そういえばトライが戻ってきたときにいじっていた気がするものだった。


「あいつは子供みてぇだな……」


 手にとろうとしたが、どうやら疲れていたらしい店主は手を滑らせてしまう。


「おっと」


 おもちゃに手がぶつかり、カウンターの下へと落下してしまう。

 落下したおもちゃは、バネ面が垂直に地面へぶつかるように落下する。


「……っ!?」


 バネが、地面とぶつかった。


 そしてぶつかれば、バネは「跳ねる」


 ずいぶんと綺麗な落ち方をしたようで、そのバネは落としたときと同じくらい高く飛び上がった。


「こいつぁ……。

 ハ、ハハハ、あの野郎……」


 店主の瞳に、再び熱がこもる。

 ギラギラとした視線が、職人としての強い心を表しているかのようだった。


「テッド! テーーーーーーーーッド!」




 その日、この工房から響く鉄を打つ音は、夜遅くまで響き続けたという……

これにて第二章は終了。

結局トライ君は異世界だと気づかないまま終わってしまった(笑)


誤字脱字、表現がおかしい、設定がおかしいなどは報告いただけると助かります。

今後ともよろしくお願いします。


※2012/2/4

俺もあと10年早ければ

俺もあと10年若ければ

に修正。

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