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第19話・つまり着替えと風呂は大事ってことだ

今までの流れを完全に無視してます。

ぶっちゃけ閑話に近い(笑)


気楽にお読みください。

 石造りの質素な部屋の中。

 飾り気など欠片も無い部屋の中を、困ったような表情で8の字を描くようにうろうろとするトライの姿があった。


 彼は今、深刻な問題を抱えているのだ。


「やべぇ、代えの服がねぇ……」


 そう、服が無いのだ。

 無いことに気付いた時点ですでに手遅れという典型的なパターンだ。

 すでに外は暗い。

 明かりに関する文明レベルがどれほどなのかはわからないが、窓から見える景色は都会の夜と比べるとひどく暗い。

 ゲーム時代に昼夜という概念は無かったし、夜という設定や暗闇が広がるマップはモンスターの出現するバトルマップばかりだ。

 それがなくとも、かつてトラブルメーカーの幼馴染が理由で夜襲されるという中々貴重な経験があるトライとしては、出来るだけ夜道の一人歩きは避けたい行動であった。


 アイテムインベントリをどれだけ探そうとも、出てくるのは装備品かスキル用の武器ばかり。

 これから寝ようとするのに、適しているとはとてもではないが言えるものではない。

 裸で寝れないことも無いのではあろうが、ひんやりとしている部屋の空気から考えて、恐らく朝はそれなりに冷えるのだろう。


 なにより裸で寝るなんてトラブルの予感しかしない。

 女性が起こしに来て裸を見つけてキャーなんていうどこの幼馴染だとツッコミをいれたくなるような光景が、トライの脳内に鮮明に映し出される。

 ただし映像の中で裸になっているのはイケメン幼馴染であり、イメージというより過去の実例なのだが。


「うーむ、ジュリアに聞いてもなぁ……」


 誰にでもなく一人呟くトライ。

 流石に女性に男物の服をどうにか用意できるとは思わなかったようだ。


 とはいえ、他に頼れる人物の心当たりがあるわけでも無い。

 仕方ないと諦めの溜息を吐きつつ、ジュリアの着替え遭遇イベントなんていうベタなものが発生しませんように、と祈りながら部屋を出ようとする。


 その祈りはトライにとっては運良く、大多数の人間にとっては運悪く叶えられることになった。



 ――――――――――



「いないぞ」


「マジか」


 そしてやってきた近衛騎士団用の宿舎。

 まるで貴族の屋敷のようなその建物の入り口には門番が立っていた。

 彼らもジュリアと似たような装備をしていることから、どうやら近衛騎士団の一員なのだろう。


 トライはジュリアがこの建物にいることはわかっていても、部屋番号などの情報は何一つ持っていなかったため、門番の彼らに呼び出してもらおうとしたのだ。

 ジュリアの名前を出した瞬間に、門番の二人が殺気のようなものを放ったことは完全な余談だ。


 しかし仕事はきっちりとこなすらしく、門番として出入りの管理は怠っていなかったようだ。

 嫌がらせとかではなく本当にいないということをトライに知らせてくれた。


「どこ行ったんかね?」


「この時間なら城内の大浴場だろうな、恐らくは」


 ちなみにこの世界には普通に風呂という文化がある。

 一般家庭全てに普及しているというほどではないが、公衆浴場等も存在していたりするので、特に富裕層の特権というわけではない。

 それでも金持ちと一般人の境目を決める基準の1つに、自宅に風呂場があるかどうかが材料の1つになってくるのは確かではあるが。


 そしてこのグリアディア城では、一般兵用宿舎・近衛用宿舎にも大浴場が一応設置されている。

 しかし男女別に分かれているわけではなく、時間で男女分けしているという状態なのだ。

 同じ屋敷に男女が生活している、となれば当然出るわけである、覗きが。


 これはさすがにイカン、けしからん、たまらん! ということで、女性陣から苦情が殺到していた。

 それを耳にしたエルメラが、だったら王族用の風呂を開放しようという提案をしたのだ。


 この王族用の風呂というのが、どういう技術が使われているのか不明だが高所にある。

 出入り口は1つしか無く、覗きを実行できるような窓は地上から遠く離れている。

 結果、特に理由が無い限り女性兵士は全員こちらを使うようになり、そして兵士に開放されているのが今の時間というわけだった。


「風呂場か……」


 イヤな予感しかしてこないトライではあったが、ここまで来たのであればもういっそのこと何かイベントを起こしたほうが早いのでは無いかとさえ思えてくる。

 風呂場まで行って入り口で待っていればきっと大丈夫だろうとヤケクソ気味に決断し、門番に場所を聞いてみることにした。


「その風呂場ってどこにあんだ?」


「……貴様」


 瞬間、門番の視線が厳しいものに変化する。

 敵意は無いようだったが、まるで品定めするかのような視線を遠慮なくぶつけてくる。

 一般人であればビクついてしまいそうなほどの視線であったが、半ばヤケクソになっているトライはその視線を真正面から受け止めた。


 そして、門番の顔がにへらっと急に緩む。


「同士か!」


「……は?」


 そして意味のわからない納得をいきなりしてくれて、急に柔らかいというか馴れ馴れしい態度に変化する。


「いいんだいいんだ、わかってるって。

 こんなこと口に出したらまずいってことくらいよ~くわかってるって。

 もう少ししたら交代だから案内してやるよ!」


 大げさな身振り手振り、さらに「みなまで言うな」とばかりに顔を左右に振る。

 彼の中で何かが決まったようだ。


「お、おう」


 嫌な予感というか、何か勘違いしているような気がしてはいるのだが、彼の態度があまりに嬉しそうで口を挟めないトライであった。



 ――――――――――



「俺はブライアンっつーんだ、よろしくな傭兵さんよ」


 そして現在、ブライアンと名乗った門番と共に、城内の浴場に向かって城壁と城の間にある芝生の上を歩いていた。

 王族用の風呂が開放されることになった経緯をレクチャーされながら、である。


「おう、トライだ。

 わざわざ案内してもらっちまって悪ぃな」


 トライとしては仕事明けで休みたいであろう状態になっているはずのブライアンに悪いと思っているようだ。


「なぁに、気にすんなって。

 俺も目的は一緒だからよ」


 茶髪に平々凡々な容姿と顔をニヤけさせ、先導するようにトライの一歩先を歩くブライアン。

 さきほどのトライにぶつけた真剣な視線はなんだったのかと疑いたくなるような表情だ。

 そうやって歩き続けるうちに、やや広くなっている場所に出る。


「着いたぞ」


「着いたって……どこだよ」


 そしてたどり着いた場所は、恐らく城の3階であろう場所から連絡通路が繋がっている塔のような建物があるだけで、周囲にはそれ以外が何も無い場所だった。


「あれだよ、あれ」


 ブライアンはそう言って塔の上のほうを指差す。

 その方向をトライが見てみれば、確かに窓のようなものがいくつも並び、そこから明かりと湯気がこぼれている場所が上方にあった。


「あそこが……」


「そうさ、あれこそが我らが目的。

 即ち浴場だ! ジュリアさんは今頃あそこにいるはず……」


 再び真剣な表情をするブライアン。

 その顔からはキリッという擬音が聞こえてきそうだ。


「だがっ!

 見ての通りだ、あそこに行くためにはこの高い壁を超えねばならないっ!

 この壁をどうやって攻略したものか、俺は毎日考えているんだが未だに攻略できずにいるんだ」


「ふ~ん?」


 普通であったらこの辺でブライアンがどういう人物で、今何を考えているのか気づきそうなものだ。

 というかよほどで無い限りは気づく。

 しかしトライのバカ思考が思いついたのは、全く違う方向の考えだった。


(元々王族用つってたっけな?

 ってこた使うヤツだけが知ってる入り方でもあんのかねぇ?)


 なんとここが正規の入り口だと信じて疑っていなかった。

 連絡通路が目に入らないのかと誰かツッコミを入れてあげるべきだろう。

 その誰かが周りにいないのが非常に残念だが。


「剣でもぶっさしてみっか」


 とりあえず方法を知らない以上、持っているものでなんとかしてみようと考えたようだ。

 そしてトライは、スキル「ダンシングウェポン」を起動させる。


「うおっ!?」


 黒い渦を伴って現れた6本の剣に驚くブライアン。

 しかし魔法があるこの世界では、急に物質が出現することは珍しいが無いわけではない。

 すぐに冷静さを取り戻した彼は、トライのやろうとしていることに気づいて喜びの声をあげた。


「いける……いけるかもしれんぞ、今日こそ!」



 ――――――――――



「なぁ……」


「なんだ、今大事なところなんだから話しかけるな」


「なんでこんな隠れるみてーな態度なんだ?」


 そしてその後、トライはスキルで呼び出した剣を壁に突き刺し、最後尾の剣がまた先頭に来るという操作を繰り返して階段のように上り始めた。

 ブライアンは当たり前だといわんばかりにその後を着いてきている。


 そして窓のところに頭1つ分だけ出せるような所まで来たところで、二人は中を盗み見るようにしてそ~っと覗く。


「なんかこれ覗きみてーじゃねーか……?」


 みたいではなく覗きである。

 どこからどうみても覗きだ。


「何を言っているんだ同士よ。

 これは覗きなどという無粋なものではないっ!

 この風呂場で何か事件が起こった時の対処を事前に学んでおくための訓練なのだっ!」


「そ、そうなんか?」


「そうなんだっ!」


 もはやブライアンは何を言っているのか意味不明になっている。

 あまりに熱意のこもった表情に、何を言っているかなど大した理解もせずにとりあえず納得しておくトライであった。


「よし、まずは中に誰がいるか確認からだ。

 湯気で見づらいかもしれんが、よーく観察すれば大丈夫だ」


 そしてブライアンは窓から顔の上半分だけを出し、窓の内側の光景を観測しはじめた。

 つまり覗きを開始した。

 違和感を感じつつも、なんとなく空気に流されてトライも同じように中を覗き込む。


「じーっと見れば誰がいるかわかるはずだ。

 じーっと、じーーーーーーーっと見れば……」


 そしてトライの視界にその光景が映し出される。


 湯気に包まれた室内。

 よくわからないが明かりのようなものが大目に設置されているようで、明るさは十分な光が確保されている。

 中にいるのはどうやら二人のようだが、湯気で暗い影にしか見えない。

 ここは1つ、ブライアンの言いつけに従ってじーっと観察してみる。


 じーーーーーーーっと。


 目が慣れてきたのか、段々と二人の姿がはっきりと見えてくる。

 片方は黄緑色のようで、頭のてっぺんでお団子のようにして髪の毛をまとめているようだ。

 恐らくこちらはトライの探し人であるジュリアで間違いないだろう。

 もう一人はかなり髪の量が多いようだ。

 タオルのような布を頭を覆うようにして巻きつけているため、見える髪の量は少しだが金髪のように見える。

 そしてトライの知る金髪の女性は一人しかいなかった。


「……エルメラ……か?」


「え゛?」


 エルメラという呟きを聞いた瞬間、ジュリアであろう人物に視線が釘付けになっていたブライアンが硬直する。

 湯気のせいで体と顔が見えないため、はっきりとしたことはまだわからない。

 わからないというのに、ブライアンは目に見えて焦ったような表情へと変化した。

 顔中から汗が噴出し、まるで猛獣の檻に放り込まれたかのように体を震わせ始める。


 コー、コー


 どこかでダークサイドに落ちたライトな剣を使う星の戦争的な映画に出てきそうな人物がする呼吸音が聞こえる。


 コー、コー


 トライは気づかなかったが、ブライアンはその呼吸音を敏感に察知し、硬直していた体をさらに硬くさせた。

 もはや震えすら起こらないほどにがっちり硬くなってしまった体を、なんとか首だけ動かして音の発生源へと向ける。


 コー、コー


 未だに気づいていないトライも、ブライアンの様子に気づいたようだ。

 そして同じ方向へと顔を向ける。


 コー、コー


 そう、何も無いはずのへと


 コー、コー


 立ち上る黒いオーラが炎のように揺らめいていた。

 目は光を放っているかのように輝き……否、実際に光を放っている。

 溢れる魔力が目という場所から吹き出しているのだ。

 そしてそれは口からも溢れ、まるでドラゴンがブレスを解き放つ直前のような状態になっている。

 そんな目と口が張り付いた顔には、怒りという感情だけで作ったかのような表情があった。


 そんな状態の人物は、まるでそこが地面であるかのように「壁に仁王立ち」をしており、二人を真上から見下ろしていたのだった。




 ……言うまでも無いが、国王である。




 ニタァ~っと笑う国王だが、その笑顔に込められているのはやはり怒りだけだ。

 視線だけでも人が殺せそうなその顔から、二人へと言葉が投げられる。


「悪いごはいねがぁ~?」


 なんでナマハゲやねんっ!

 とトライが心の中でツッコミを入れた瞬間、隣にいたはずのブライアンと共に国王の姿が「消えた」


「ぴぎゃあっ!?」


 トライが気づいたのは地面の方向から轟音と、ブライアンのものらしき悲鳴が響いてからだ。

 いつの間にかブライアンは地面に叩きつけられ、般若の形相を浮かべる国王に踏みつけられている光景が地上に出現していた。

 トライでさえ認識できないほどの早さで行動した国王に、この人だけは怒らせないようにしようと誓うトライであった……



 ――――――――――



 ちなみにブライアンが全面的に悪いと謎のセンサーによって理解していた国王により、トライはお咎め無し。


 ついでに用件を伝えてみたところ、メイドさんを呼び出して寝巻きから普段着まですぐに一式揃えられた。


 最初からメイドさんに声かければよかったんじゃね? とトライが気づくのはベッドに身を沈めた後のことだった。

国王テラツヨス(笑)

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