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第18話・つまり結果的に予定通りというわけだ

冷え切った空気はどう流れていくのか……


それほど山になりませんでした(笑)

気楽にお読みください。

 さて、ここでもう一度この世界の金銭価値を確認しておこう。


 この世界の単位は主に「ジェニー」と「ジュニー」が使われている。

 1ジェニーは銀貨1枚で、100枚で金貨1枚分の価値となる。

 つまり金貨1枚は100ジェニーという計算になるということだ。

 さらに日本円で言えば五百円玉のようなサイズの硬貨に穴があいた円貨と、その穴が無くなった大貨がそれぞれの貨幣に存在する。

 円貨は1枚で10枚分の、大貨は50枚分の価値がある硬貨ということになっている。


 そして今回、トライが渡された硬貨は「大金貨」が10枚。

 金貨の大貨になるので、1枚で金貨50枚分の価値がある貨幣が10枚、つまり金貨500枚分のお金を渡されたということである。


 1ジェニーが銀貨1枚、ということは単純にこの500枚を100倍すればジェニーという単位で表示されることになるので、今回トライが受け取った報酬は5万ジェニーということになる。

 1ジェニーあたりを日本円に換算すると約10円程度になるわけなのだが、5万ジェニーという金額は日本円に治すと約50万円相当の報酬を受け取ったわけである。


 王族の命、それも直系の娘を助けた謝礼としてはいささか安い金額かもしれないが、それでも一般人が手に入れる金額としてはかなりの高額だ。

 もちろん冒険者やモンスターを相手に命がけの戦闘を繰り返す人種からして見れば、一生安泰などとは程遠い金額でしかない。

 しかしそれを考慮に入れたとしても、決して無視できるような安い額では無いのだ。


 さて、ここでもう1つ確認しておかなければならないことがある。


 それはトライがバカ……という当然の事実ではなく、トライの金銭感覚もバカというある意味必然の事実に関してである。

 10ジェニーと言われて金貨10枚を出すトライ、そしてFG時代は日本人の感覚に合わせて、金額は全て日本での物価に近い形で金額設定されていたという事実、それが間違っているということに気付いて指摘してくれる人物がいなかったという悲劇、そして何よりも、大貨の見た目は単純に大きくなっただけで模様はほとんど変わらないという目の前の現実。


 そう、つまりトライの目に映っている大金貨10枚は――――


(10ジェニーって安すぎだろ)


 ――――彼にとっては道中で買った焼き鳥一本分の値段としか見えていない。


 トライが持つ必殺「空気←なぜか読めない」が全力で発動し、周囲の凍えるほどに冷え切った空気は全く伝わらないのであった……



 ――――――――――



『やっぱそう思う!? だよね! そうだよね!

 いやーほんとは国の全財産渡してもいいかなーってくらい感謝してたんだよ!

 中々話がわかるじゃんキミキミィッ! (はぁと)』


 ……なんてバカなことを言い出したいんだろうなぁと、体が若干プルプル震えている国王をチラ見していた補佐官は考えていた。

 本当に言い出しかねないから困った国王である。

 もちろんそんなことを知らない一般兵や、同席しているだけで大して国には関わっていない端っこのほうに立っている貴族連中には――――


(((ヤ、ヤバイ!? 国王がキレかけてる!!!)))


 という風に見えているわけだが。


 今は公的な場ということでかなり頑張って抑えているようであるが、こんなことをさらっと言ってしまうこの傭兵を放置してはまずいと思える状況だ。

 また何か言ってしまう前に、こちらで流れをコントロールしたほうがよさそうだと判断した補佐官が口を開く。


「ほう、貴様。

 国王からの、ひいては国からの褒美を不服と申すか」


 まずは先制攻撃、というか自分が話すぞということを傭兵にも周りにもアピールしておく。

 ついでに相当失礼なこと言ってるんだよキミ、ということを暗に伝えているのだが、恐らくこの男は気付かないだろうなと思っている。

 気付いてくれたらラッキーくらいにしか考えていないようだ。


「も、申し訳ございま……」


 むしろトライよりも先にジュリアが気付いてしまった。

 恐縮して速攻で謝ろうとする彼女を手で制し、きつめの言葉を続ける。


「黙っておれ」


 言葉はきついのだが、目はそれほどきつい形はしていなかった。

 傭兵の男と違って、ジュリアならばその目の意味は察してくれるだろうと思っているようだ。


「は、はいっ」


 そしてやはり気付いたようで、一瞬目を見開いたあとで大人しくなるジュリア。

 この傭兵か国王かどっちかがこのくらいまともに空気を読んでくれたらなぁ、と心の中で思う補佐官だった。


「いや、不服っつーか……」


 ジュリアが黙ったことで自分が話す番かと思ったトライが口を開きかける。

 しかし「というか」で話が続くあたり、この後何が続くかはよくわからないがとりあえずなんかまずい気がする、という気配を補佐官は感じ取った。

 もちろんジュリアも感じ取ったが、補佐官がトライの言葉を遮るようにして話し始めたため、そのまま大人しくしている。

 ただし嫌な汗が服の下で大量発生しているようではあるが。


「不服であるというのならば、何が貴様の望みだ?

 確かに傭兵などしておれば金に不自由は無いかもしれんが、お主には手に入れられぬ褒美を用意してやることなど造作も無い。

 言うだけ言ってみるがいい」


 不服であるかどうか、という点を無理矢理不服と感じているという方向に持っていきつつ、傭兵だったら確かに金銭感覚が違うこともあるよね、とトライにではなく周囲の人間にアピールしておく。

 ついでに言えばこの男の褒美の基準がお金ではなかっただけで、自分たちの国が舐めた目で見られるようなことは無いから安心してね、という意図も含まれている。

 こういった細かい言葉選びができるあたり、国王の補佐官という立場は伊達ではないのだろう。

 さらにはトライがどんな褒美を望んでいるのか、というところを聞き出す流れにすることで、このトライという男の価値観を判断しようとしているのだった。


「褒美……褒美ねぇ。

 物じゃなくてもいいんかね? あぁ、いやいいんスかね?

 あれ? いいんでございやがりま……違った、いいんでございますか?」


 一瞬素になってしまって無理矢理敬語を使おうとしてなんとか直してみるトライ。

 とっさに普段のくせで敬語ケンカ口調を使おうとしてしまったのはきっと彼がバカだからに違いない。

 普段からきちんと言葉を選んでいないとこうなるといういい例だ、補佐官とは真逆である。


「言ってみるがいい」


 一瞬何か爆弾発言が出てきそうな気がした補佐官とジュリアだったが。

 価値観を測るためにはまず一度聞いてみようと補佐官は判断したようだ、ジュリアはそろそろ諦めの境地に片足をつっこんでいるが。


 少し考えるようにして、何も無い上のほうへと顔を向けるトライ。

 彼としてはどこまで言っていいものなのかさっぱりなので、ここまで何かフラグが無かったかと探している状態だ。


 そしてある会話を思い出し、「ああ」と短く呟いた後で要求を切り出した。


「剣術」


「剣術?」


「そうでござる……なんか違うな。

 そうでございます?」


 どこの武士だ、とツッコミを入れてくれる現代日本人はこの場にいなかった。

 直した言葉もなぜか疑問系になってしまうあたり、どれだけ敬語を使い慣れていないのかわかるというものであろう。

 ちなみにそろそろ言葉使いがダメなヤツなんだな、という空気を感じ取られている。

 最初こそイラだったような顔をしていた兵士や貴族連中も、もはや無理矢理言葉使いを直そうとする姿勢に失笑気味だ。


 しかしトライの口から出た言葉の内容は爆弾発言とは程遠い、むしろ「そんなもんでいいの?」と言ってしまいたくなるようなものだった。


 トライとしてはフラグを探してみた結果、ここに来るまでのジュリアとの会話を思い出していた。


『騎士団仕込みのちゃんとした剣術を学んでいたら、私ではどうしようも無かっただろうな』


 それに対してちゃんと学んでみたい、と言った時の彼女達の反応が、それを望んでいるかのような態度であった気がする。

 話してから数時間も経過してしまっているので、もはやうろ覚えになりつつあるが。

 そのおかげでその後に話した「騎士団に入る」という会話は綺麗さっぱり忘れてしまっている。


「それでしたらっ!」


 突然、今まで黙ってニコニコしていただけの(ちなみに「安い」発言中もずっとニコニコしていた)エルメラが口を開く。

 その言葉を待っていましたと言わんばかりの早さに、補佐官も対応が出遅れてしまった。

 むしろ国王が自分を睨みつけてきて、「娘の話に割り込むんじゃねぇぞゴルァ」と言い出しそうな般若の表情をしているような気がする、もちろん実際には睨んでいるだけだが。


「騎士団に入っていただいてはいかがでしょう?

 実力と人柄に関しては私とジュリアが保障いたしますわ」


 より一層ニコニコ顔を深めたエルメラがそう切り出した。

 眩しいくらいの笑顔に国王はもはやメロメロで骨抜き状態である。

 二つ返事で「おk」と答えようと口を開いたが、そこから音が出る前に別のところから言葉がかかる。


「お待ちください」


 国王はとっさに声のした方向を睨む、見たのではなく睨んだ。

 ここが公的な場でなければ「何エルメラの提案に待ったかけてんじゃこのボケが」とでも言い出しそうな表情をしている。

 石化の特殊能力さえ付いていそうなキツイ睨みを向けられた先にいるのは、騎士団長であった。


 余談だが、彼はその睨みに耐え切れず、国王の顔を避けるようにしてエルメラを見ていることを追記しておこう。


 しかし彼としては口を挟まずにいられる問題ではない。

 剣術を教えるだけならまだしも、騎士になるということはこの爆弾野郎もといどこの誰とも知れぬ得体の知れない男を城に仕えさせるということだ。

 実力はともかくとして、人柄を王女と近衛騎士が保障するとはいっても演技に騙されている可能性が無いわけではない。

 なんとなくタダのバカだろうなとは思っているが、それは一旦保留にしているようだ。


 王を、つまりは国を守る立場の頭にいる人間として、わずかでもスパイや暗殺者である可能性があるのであれば、それを無視してただ命令を受け入れる、ということをするわけにはいかないのだ。

 守るのは王ではなく国、国を守るために王を守る、それが彼の信条であり信念でもある。

 そしてそれを教えてくれたのは、他ならぬ国王その人だ。

 だからこそ、国王でさえそれが悪いことであると判断できれば意見をし、そして意見することを許されている。

 それがこの国のあり方であり、この国が上手く治まっている理由の1つでもある。


 だから今回も、彼は口を開く。

 開かなければならない。


 国王の睨みを避けながらという困難なミッションではあるが……


 一応彼の名誉のために言っておくと、決して彼が情けない性格というわけではない。

 一度戦場に出れば、実力はもとより戦術の運用の仕方から国内・外を問わず、剛将として名が通ったほどの人物である。

 その実力は非常に高く、本気でやればこの国では間違いなくトップクラスの実力を持ち、人望も厚いというまさに戦士だ。

 ただし国内、主に城内、それもエルメラ絡みの話になると異常に強くなる国王には未だ勝てないという事実があるのだが……


 ちなみに同じ条件で国王に勝てた人物は誰もいない。

 他国の凄腕暗殺者を含めても、と言えば彼が国王の視線を避ける理由も察してもらえるかと思う。


「お言葉ではありますが、全て演技で国内に取り入るための策という可能性もあります」


「あら、私の人を見る目を疑っていらっしゃるのですか?」


 頑張ってまだ可能性の話だよ、という感じで伝えてみた騎士団長、彼なりに言葉選びを頑張ったようだ。

 しかしニコニコ顔を崩さないままのエルメラがちょっと危険な発言をしてしまう、天然で。

 この言葉の瞬間に国王から一気に殺気が吹き出しているわけで、殺気に敏感な一部の人間達は顔を青くしている。


 トライは当たり前のように空気が読めていないので気付いていないが。


「あくまで、可能性の、話でございます。

 騎士団を預かる立場として、そういった可能性を、見過ごすわけには、いかないのです、お許しください」


 一言一言に気を使い、考えながらやっとそこまで言う騎士団長。

 ちなみに段々と国王の殺気が全体に拡散させるような方向から、騎士団長一人に収束され始めている。

 気の弱い人間だったらそろそろ気絶できそうな殺気の中で、汗がだらだら流れつつも未だに立っているあたり、彼は実力者であることの証明になっている。

 非常に情けない証明の仕方ではあるが。


「そうですわね。

 ごめんなさい、私ったらあなたの立場のことを考えていませんでしたわ。

 でもどうしましょう、そうなると彼の入団は難しいのかしら?」


 ちなみにここまでエルメラの表情は変化していない。

 ごめんなさいと言った時はさすがに少し申し訳なさそうな表情にはなったものの、どうしようか真剣に悩んでいる様子は皆無だ。

 騎士団長がこの後何を言いたいかを完全に気付いているようだ。


「今回の功績は確かに何物にも代えがたいものです、それを無碍にするわけにもいきません。 (←国王のご機嫌取り)

 ですので、彼に試験をさせていただきたいと思っております」


「うげ、試験かよ……」


 試験、と聞いて高校生であったトライはペーパーテストを思い出してしまう。

 勉強ができないわけでは無かったが、それでも試験が好きという高校生はレアケースだろう。


「彼も戦場に身を置く者であるならば、言葉以上に戦い方が彼の性格を語ってくれるでしょう。

 同じ戦場に向かうものとして、彼と戦い、彼の人となりを知りたいと思っております。

 いかがでしょうか?」


 目は口ほどにものを語る、という言葉があるが、一流の戦士にとってそれは戦い方にも同じことが言えるようだ。

 そして騎士団長は、その一流に分類されるだけの実力を持っている。

 下手に言葉で語り合うよりも、よっぽど多くのことを知ることができると考えての提案のようだ。


「私はそれで構いませんわ。

 お父様もそれでよろしいですか?」


「うむ、良いだろう。

 トライよ、騎士団長の試験を見事乗り越えたならば、お主が騎士として仕えることを認めよう。

 なんなら副団長くらいの立場を……ゴホンッ!」


 最後のほうで本音がちょっと漏れてしまった国王であった。

 もう彼の中ではトライが騎士になるのは確定のようだ、エルメラが言ってるから。


「では準備もあるでしょうし、試験は明日の夕方ということでよろしいですか?」


 ちなみに現在はすでに日が沈みかけており、山際が少し赤く見えるくらいだ。

 もう外はほとんど暗くなっており、今からでは準備を整えるにも店が開いていないかもしれないという時間になっていた。

 もちろん冒険者や傭兵などはこのくらいの時間に街に戻ってくるということも多いため、探せばいくらでも見つかるのではあろうが、昨日今日来たばかりの男が準備を整えるには少しばかり時間が遅くなってしまっている。


「問題ございません」


「おう、いいぜ」


 もはや無理矢理敬語を使うことさえ諦めたトライの言葉が、微妙に空気を冷やすのを感じられた人物は少なかっただろう……



 ――――――――――



「別に騎士にはならんでもいいんだけどな」


「まぁいいじゃないか、どうせしばらくはいるんだろう?」


 謁見が終わり、兵用の宿舎を借りれるということでジュリアに案内してもらっている途中でトライが呟いた。

 ちなみにジュリアは国内に実家があるが、何も無い限り近衛用の宿舎に寝泊りしているようで、案内半分、帰宅半分なようだ。

 気を張った様子は全くなく、ずいぶんとリラックスして歩いている。


「おう、戻れるアテも今んとこねーしな」


 おっさん達が早くバグ復旧してくれないと、というところまでは声に出さないでおく。

 どうせ言ってもわからないだろうし、説明するにしてもトライでは上手く説明できるはずがない。


「そういや準備つっても何を準備すりゃいいんだ?」


 そういってトライは国王から結局受け取ることになった大金貨10枚を取り出した。

 もちろん例の黒い渦を伴ってではあるが、見慣れてきたジュリアは特に何も言わない。

 それよりも言っておかなければならないことがあったために、そちらを優先したというのもあるが。


「まぁその辺は明日一緒に見に行けばいいだろう、休暇ももらったことだしな。

 それよりも、だ……」


「ん? なんかあんのか?」


「いや、なんというか……

 5万ジェニーを安いと言えるなんて、トライはどれだけ金を持っているんだ?」


「え?」


「ん?」


「5万ジェニーって何?」


「いや、今手に持ってるだろ?」


「え、これ10ジェニーだろ?」


「え?」


「え?」




 ………………



 …………



 ……




 この瞬間、トライはやっと自分の金銭感覚のズレに気付き、先ほど自分が何をやらかしたのかに気付いたのであった……




「マジか……」


「なんだろう、もう泣きたい」


 その日、OTZの形になって項垂れるトライとジュリアの姿が廊下で目撃されたらしいのは余談である。

第二章も残すところあと2話。

次回はバトル……っ! にはなりません(笑)

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