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第17話・つまりズレってのは修正しとかないとこうなるわけだ

あけましておめでとうございます。

これからまたよろしくお願いいたします。

「頼む」


 反射盾リフレクターのデモンストレーションが終わり、ジュリアが恐怖体験の恨みをトライにぶつけている時だった。


 デモのあとは何かを考えるようにして黙っていた店主が、いきなり頭を下げて頼み込んできた。

 その内容は、ある意味当然とも言えるものだった。


「この技術を俺にくれ!

 なんとしてでも、何をしてでもこいつを一級品に仕上げてみせる!

 だから頼む!」


 店主の頼みは至って単純なもの。

 今しがた実演してみせた反射盾リフレクターの技術を教えてほしいというものだった。


 鍛冶に限った話では無いが、技術や知識といったものは秘匿されやすい傾向にある。

 特に金銭や名誉が関わってくるものはそれが顕著に現れるものだ。

 鍛冶の技術などは特にその傾向が強く、複数の鍛冶を営むものがいればその傾向はさらに強まる。

 そんな中にあって、この画期的と言っていいほどの技術。

 店主としては簡単に教えてもらえるような技術でもなく、しかも先程までの態度もあったせいですぐに頷いてもらえるとは思わなかったようだ。


 しかしそれを考えても、この技術は店主にとって素晴らしいものだったようだ。

 ここで変なプライドでつっぱねてしまえば、何か重大なミスをしてしまうような、そんな気配を店主は感じ取っていた。

 そういった類の気配を感じ取れるからこそ、この店主はこの首都で店を構え続けていられるのだと本人は気づいていないのだが。


 だから店主は言葉を続ける。

 潔く、自らの間違いを認めて、情けない姿を晒すことになったとしても。

 それでも、この技術を、このチャンスを逃してはいけないと感じているから、しっかりと謝るのだ。


「さっきまでの態度のことは謝る。

 馬鹿にしちまって悪かった。

 だが俺も職人だ、この技術がすげえってことはよーくわかる。

 だから頼む、俺にこいつを作り上げさせてくれ、このとおりだ!」


 そこまで一気に言い切った店主は、頭を下げた。

 垂直に伸ばした足腰と、腰から上を綺麗に折り曲げて、お手本のような頭の下げ方をしている。


「お、おう」


 逆にそこまでされてしまって恐縮してしまっているトライだった。



――――――――――



「ふんふん、なるほどな。

 つまり今までは損傷しちまってたから全部の効果が発揮されてなかったってことだな」


「その辺はわかんねぇけどよ。

 ようするにこうやって間に布とかゴムみてぇなやつを挟んでだな……」


「ゴムってなんじゃい?」


「あーえっとマッスルモンキーの毛皮みてーなヤツ?」


 そして現在。


 秘匿するなんてことをトライが考え付くはずもなかったので、あっさりと了承して技術伝達中である。

 とはいえ、トライは盾を使えないのでゲーム時代に友人が使っていたものの構造をざっくりと伝えているだけであるが。

 しかしそこから的確に情報を抽出してくる店主はやはりというか、技術力が素晴らしく高いようであった。


「おーい……城に呼ばれてるんだぞー……はぁ……」


 完全に蚊帳の外状態になってしまったジュリアだけが、空しい時間を過ごしているのであった。



――――――――――



「うむ、いい仕事したな」


 そしてやっと、トライとジュリアは王城へと向かう通りを歩いているのだった。

 トライはかいてもいない汗を拭うふりをして、無駄に爽やかな笑顔を浮かべて空を眺めている。


「こんな簡単な任務でこんなに疲れるとは思わなかったよ……」


 はぁと溜息を吐くジュリア。

 溜息を吐くと幸せが逃げるというが、トライと出会ってから彼女の幸せは遠ざかるばかりのようだ。


「まぁいいじゃねーか、出来上がったら無料タダでくれるってんだしよ」


「それはまぁそうなんだが」


 店主とはその後、使い勝手を確かめるという名目で試作品を無償提供するという約束までされていた。

 しかしながら、トライのメイン武器は両手剣であるため、ゲーム時代から盾を使ったことがなかった。

 それはこちらに来てからも意識が変わることは無いようで、「いや俺は盾つかわねーし」という一言でばっさりと断ってしまっていたのであった。

 結果的にジュリアが受け取ることになったのだが、ジュリアとしては何もしていないのに優良装備が手に入りそうということで気持ちがすっきりしていないようだ。


「しかしリフレクターにあんな使い方があったとは、な。

 トライのいた国では一般的なことなのか?」


「さぁ? 俺が知ってるくれーだしみんな知ってたんじゃねーの?」


「何故だろう、すごく納得できる」


 ちなみにwikiにもばっちり乗ってる優良装備である。

 知らない人は初心者かトライのようなバカ頭脳搭載型プレイヤーのみである。


「とりあえず、それは一旦置いておこう」


 実際にはあんな装備品が誰でも知っているような国ともなれば、その国の技術水準の高さは想像したくないレベルだろうと予測できる。

 そのため置いておいたらまずいような話題ではあるのだが、トライは今いるこの場所がイベント用スペースか、それなりに広大だったFGのマップの外側に新規追加されたマップだろうなと思い込んでいたため「こっからは多分死ぬほど遠い」という間違ってはいないが根拠が勘という発言をしていた。

 そのためすぐにどうこうなるような問題ではないだろうとジュリアは思っている。

 なので今解決すべき問題は、そんな技術力を持った国があることよりも、トライを無事に王城へと連れて行くことであった。


 なんといっても分かれてすぐに「クリムゾンデーモン」と勘違いされるような行動をとるトライだ。

 目を離せばすぐにトラブル化しそうな予感がして気が気ではない、というのがジュリアの心情だった。

 そして何より、城に着いたら着いたで何かしらトラブルを引き起こしそうな気がして仕方が無いので、今のうちに色々と釘を刺しておく必要があるのだった。


「これから恐らく国王に謁見することになると思う。

 国王のことだから正式なものをやるはずだから、失礼の無いように気をつけてくれ」


「うぇ~い」


「……き、気をつけるんだぞ?

 ……ほんと気をつけてくれよ? ほんと頼むぞ?」


「うぇ~い、まかせろ~い」


「……不安だ」


 どこまでも不安しか感じないトライの態度に心の中で泣きながら、しっかりと要点だけは伝えて流れを説明するジュリアであった。



――――――――――



「面を上げよ」


 場所は変わり、王城の謁見の間。

 扇状に広がる階段をあがり、重厚な木製の扉の向こう側にトライ達はいた。


 グレーの石材ブロックを無数に積み上げて組まれた広間は、王城の敷地面積からすると意外なまでに狭い。

 狭いとはいえ、一般的な学校の教室程度の広さはあるが、それでもやはり狭いだろう。

 普通この謁見という行為は、実際に行動を行う人物が後先を考えない限り、最も暗殺しやすい場所だ。

 そのためターゲットになりやすい国王と謁見する人間との間にはできるだけ距離をあけ、何かあっても対応できるようにと無駄と言えるほどに大きく作るのが普通になっている。

 王の座る玉座までに階段を設けたりする場合もあるが、これも王のほうが格上であることを意識させるため、だけではない。

 例えば暗殺を目論む人物がいたとして、その人物は階段を上る、という一手間があることでわずかながら行動が遅れることになる。

 そのわずかな間を稼げるかどうか、というのは暗殺において明暗を分けることが多いのだ。

 大きく、かつ段差を設けること。それが謁見の間という空間を構成するための一要素として欠かせない構造なのであった。


 もちろんこの場所も、その流れに沿って階段が設置され、玉座は高い位置に設置されている。

 床には金の細かな刺繍が編み込まれた真っ赤な絨毯が敷かれ、壁にもやはり同じ刺繍をされた真っ赤な垂れ幕が飾られている。

 所々に置かれた調度品は職人の技術を感じさせる見事なものばかりで、それ1つで相当なお値段がするのがすぐにわかるほどだ。

 もしこの部屋を上から眺めることができたならば、凸型になっていることがわかっただろう。


「(立ち上がっていいぞ)」


 王の言葉に反応し、スッと立ち上がるジュリア。

 立ち上がる直前に、ジュリアの隣で片膝をついて頭を下げていたトライに声をかける。

 その言葉に反応し、絨毯のシミを探すという無駄な行動をしていたトライが立ち上がった。


 そしてトライの視界に移った光景。

 半円のような形で広がる階段と、その上にある玉座に座った国王。

 トライから見て右側にはエルメラが控え、反対側にはエルメラを大人にしたような恐らく王妃であろう人物が控えている。

 そして踏み面が広くとられた階段には、数段置きに兵士らしき人物が構えていた。

 王に最も近い左右には、それぞれ戦士の気配を全身から放つ壮年の男性と、魔法使いですと主張が激しいローブを纏った老人が控えていた。


 そしてこの配置こそが、謁見の間が狭い理由の1つ。

 代々このグリアディア王国では、正式な謁見を行う場合は騎士団長1名・魔法師団長1名が必ず同席することが決まっているのだ。

 これはつまり、暗殺などさせる気も起こさせないという意思を見せつけるためと、できるものならやってみろという挑発にも似た理由からだ。

 なにより、謁見時に不手際があればそれはその場にいた兵士達の責任が非常に大きくなる。

 そのため同席する兵士達は緊張感を強いられることになり、この緊張感が良い方向に働くことで兵士達への士気にも繋がっているのだった。


 余談だがグリアディア王国では、謁見の間で殺害された国王は存在しない。

 この配置がどれほど暗殺者にとってやりづらいかを示しているかのようであった。


(謁見するイベントなんて無かったからなぁ。

 なんか新鮮な感じがするぜ)


 ゲーム時代には、国家に関係するイベントはあっても王族と直接接触する類のイベントは存在しなかった。

 そのためトライはこういった場合にどう対応するかわからなかったため、ジュリアに助けてもらいながら探り探り対応していくことになったのだ。

 とりあえずジュリアの言う通りにしていれば大丈夫だろうということで、今のトライは楽観的に構えている。


「まずは此度のこと、王としてではなく親として礼を言おう。

 娘を救ってくれたこと、感謝している」


「お、おう」


「(当然のことをしたまでです)」


「(あ、わりぃ)えーっと、と、当然のことをしたまだだす」


 ジュリアから小声で言われたことをそのまま言うトライであったが、微妙にかんでしまうというカッコ悪い事件が勃発してしまった。

 どこの田舎者だ、と心の中で突っ込んだのは仕方が無いだろう。


「うむ、聞けばお主は傭兵の身であるとのこと。

 此度の礼として、僅かではあるが謝礼として金貨を用意させた」


 その言葉と同時に、トライ達が入ってきた扉の脇に控えていた兵士の一人へと視線を飛ばし、1つ頷く国王。

 それが何かの合図であったらしく、視線が合った兵士は扉を開ける。

 するとそこには台車に小さめの箱を載せたメイドのような格好をした女性が控えていた。

 メイドの女性が歩き始め、トライ達の前に台車をガラガラと進めていく。

 その間にジュリアは次の言葉をトライに指示した。


「(わたくしのような者にそのような行為、身に余る光栄でございます)」


「俺のよ……あ、いや、わたくしのような者にそのような行為、ミニマム後衛でございます」


 身に余る光栄、などという言葉を使ったことが無いトライは、耳に聞こえた言葉をそのまま言ってみるという暴挙に出るのであった。

 その結果、音はなんとなく似ているのだがなんか違うような? という微妙な空気になってしまったのは仕方が無いことだろう。なんといってもバカであるし。


 だがそんな些細なことなど……そう、ここまでの流れを「些細なこと」と言ってしまえるくらいの出来事がこの後起こるのだが、トライはもちろん誰もそんなことはわかっていない。


 台車がトライの目の前に置かれ、一礼をしてメイドの女性が下がっていく。

 女性が完全に扉の外に出て、兵士がその扉を閉めるのを待ってから、国王が再び声をかけた。


「さあ、受け取るが良い。

 ワシからのささやかな礼じゃ、遠慮はいらぬぞ」


 そう言ってトライに視線を合わせ、また1つ頷く国王。

 これが「開けていいよ」という合図なのであろう。


 それを確認したトライは一度だけジュリアのほうを見てみる。

 本当に開けていいのかどうなのか確認するためであろう。


 その視線に気づいたジュリアも、国王と同じように1つ頷いて返してきた。

 つまりこれは「開けていい」ということなのであろう。


 しかしトライとしては若干複雑な気持ちであった。

 それはなぜか、理由としてはとても簡単だ。

 その理由は、これが「イベント報酬」だろう、という考えからだ。


 FGに限った話では無いが、こういったイベントをクリアすることで報酬がもらえるというのは珍しく無い、というかほとんどが何かしらの形でもらえるものだ。

 逆に言ってしまえば、「報酬が貰える」という行為そのものが、そのイベントがそこで何かしら一区切りつくということになる。

 トライとしてみれば、ここまで伏線を張るだけ張っておいて何の回収も無くイベント終了というのが腑に落ちないといったところであった。

 これが歴戦の勇者(ネットゲーマー)であれば、これが連続イベントでここからいくつも続いていくから問題ないという判断に落ち着くのだが、残念ながらトライにそんなことまで思い至る頭脳は搭載されていなかった。

 彼の頭脳で予想できるのは、せいぜい「この箱に何か仕掛けがある」程度のところまでだ。


 実際にクエスト報酬に見せかけて渡された宝箱を開けてみると、中からボスモンスターが出現する、というイベントがあったから予想できたのだが。


 つまりトライがどういう行動をとったかと言えば、降って沸いたような報酬に顔をニヤけさせることもなく、慎重な手つきで恭しく宝箱をゆっくりと開けたように見えるという行動だった。

 要するに、本心からこういった報酬を望んでおらず、尚且つ国王から直接渡された報酬ということで有難く頂戴する、という非常に好感の持てる行動だったのだ。


 蓋をゆっくりと開け、完全に開ききったところで、箱の中身が光に晒される。




 そして、中に入っていたのは、「大金貨が10枚」だった。




「え、安っ」




 ……


 …………


 ………………




 トライの金銭感覚のズレが、謁見の間を凍りつかせたことは説明する必要も無いだろう。


 ひゅ~と、凍りついた謁見の間を通りすぎる風の音がした。

ズレは……早い段階で修正しておかないと後々とんでもないことに……なったことがある作者です。


※2013/1/12

「死ぬほど遠い」のあたりに根拠の説明文を追加

※2013/2/4

ラージエイプ→マッスルモンキーに変更

エイプは尾の無い猿のことらしい

(情報提供ありがとうございます!)

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