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第16話・つまり失敗は成功の基なわけだ

なぜだ、話が進まない。

そして説明が多くなってしまいました。


斜め読みで十分かもしれません。

「だっかっらぁっ!」


 首都の大通りが全て重なる、中央広場とも呼ばれる場所。

 様々な人が通り、時には足を止め、もしくは足を止めてもらえるようにと声をかけ、人の流れと停滞が不規則に入り乱れるその場所。

 そこで整いすぎた顔つきとは裏腹に、声を荒げて店主らしき人物に迫る男がいた。


 言うまでもないがトライである。


「なんでリフレクターをこんな使い方してんだよ! こんなんすぐ壊れちまうだろうがっ!」


 その店は建物の前に簡易テントのようなものをたて、そこに布を被せて日よけ代わりにしているだけの露店のような店だった。

 この中央広場では建物内にきちんとした店を構えるものも多いが、街の外側に近い場所に自分の店や工房を持つものたちがこうして露店を開くことは珍しくない。

 中には商品のリストが書かれた紙のようなものだけを持っているものもいるが、それができるのは有名な店だからなのだろう。

 普通であれば、トライが脅している……もとい声をかけている店のように、実際に作られたものを持って並べているのが普通だ。


「フンッ! 若造に鍛冶の何がわかるってんだ!

 こいつぁ立派に今まで作られてきた伝統あるもんだ! てめぇみてぇなのが首つっこんでくる領域じゃねぇんだよ!」


 放っていない殺気さえ感じ取れそうなほどキツイ目つきのトライに睨まれても、店主はそれを気にした様子もなく反論をしてくる。

 ドワーフのような小柄な体に、グレーというか白い髪の毛が灰で汚れてしまったかのような色合いのオールバックの髪と豊かな髭。

 顔に刻まれている皺と、身長とは不釣合いなほどについた全身の筋肉、それがこの人物を職人であることを証明するかのようなオーラを放っていた。


「こっちはこの道50年やってきてんだ!

 てめぇみてぇな優男にどうこう言われる筋合いはねぇんだよっ!」


 ちなみに今現在、トライは兜をはずしているので、エルメラが天使と間違えるほどに整った容姿をしている。

 目つきの鋭さは確かに気にはなるが、それを無視できるくらいに肝の据わった人物であれば「優男」という評価がギリギリできるような見た目なのだ。

 もちろん戦を主とする立場の人物であれば、戦う者だけが放つ独特の気配を機敏に察し、装備しているものと相まって顔だけの男ではないと判断はできる。

 しかしこの店主はあくまでも製造する立場であって、戦いに身をおくわけではない。

 さらには自分が自信を持って並べていたのであろう商品にケチをつけられたこともあって、トライの評価を「顔だけの優男が中途半端な知識で批判してきた」という形にしてしまったようだ。


 実際問題として、並べられている品々はこの世界の人にとっては一級品と言っていい品揃えだった。

 もちろん一般的に店に並ぶ商品のレベルとしては、という意味でだが。


「伝統とか知らねぇし、ってかこいつは単体で使うもんじゃねぇだろうが!」


 こちらはこちらで引っ込みがつかなくなっているのか、大人しく「ごめんなさい」を言う気配のないトライ。

 実際問題としては、彼としては親切心で言ったつもりがなぜか自分が悪いことをしたような状況になってしまったのが納得いかないという理由のようだ。


「はぁ……」


 そしてそれをただ眺めるしか無いジュリアであった。

 王命を「そんなこと」と言われてしまい、すぐさまこんな感じの口論が始まってしまった。

 実際この口喧嘩に割って入るのは中々骨が折れそうだ。


「とりあえず、何の話をしているのかだけ教えてもらえないか?」


 なんとか睨み合って言葉が途切れた瞬間を狙い、その言葉だけを伝えることには成功した。


「あぁ、ソレだよソレ」


 そういってトライが指差した先にあったのは、商品の1つであろうバックラーのような円形の盾らしきものだった。

 いや、実際にこれは盾なのであろう。

 円形の表面と、裏側に持ち手がつけられていることからそれは恐らく間違いない。

 しかし普通のバックラーと決定的に違うのは、その表面が黄色の石のような材質で、複雑すぎて迷路のようにも見えるほど刻み込まれた不思議な模様であった。

 もちろん迷路ゲームをやるために刻み込まれた模様などではない。


「なんだ、ただの反射盾リフレクターじゃないか。

 これがどうかしたのか?」


 別段不思議なことでもない、といった風に答えるジュリア。

 その返答に店主は満足そうな、トライは意外なものを見たかのような表情で返事をする。


「ほーれ見ろ、騎士団の……あー、近衛か、こりゃ失礼。

 近衛騎士団の方がこう言ってんだ、若造がしゃしゃりでてくんじゃねぇよ」


 にま~っと勝ち誇ったかのような顔をするドワーフのような店主であった。


 ちなみにこの反射盾リフレクターと呼ばれる盾は、ゲーム時代から存在している。

 名前の由来でもあるリフレクターという石を使い、そこに複雑な模様を刻むことで作られる、という設定の防具の一種だ。

 ゲーム時代の効果は単純明快で、「触れた存在を弾き飛ばす」というものだった。

 モンスターにぶつかるようにして当てれば一定の距離を空けられ、攻撃や魔法に使えば確立ではあるが明後日の方向に弾く、というものであった。

 ただしそれなりに重量があるうえ、効果は使い切りで一度効果が現れると必ず壊れる消耗品、しかも装備していないと効果を発揮しないという使いづらいものだった。

 素材さえあればそれなりに簡単に作れるし、値段は自分で作るより遥かに高くなるがNPCからも購入できるものだった。

 しかしある理由によって、このアイテムは非常に需要が高かった。

 そしてその理由こそが、トライが店主につっかかっている理由だ。


「だーっ! だからリフレクターは単体じゃなくて普通の盾と重ねて使うんだって!

 なんでお前らそんな発想が無えんだよっ!?」


 そう、リフレクターには正しい使い方があった。

 プレイヤーが作る防具の中には、このリフレクターを素材として使用するものがあったのだ。

 それも低レベルから高レベルまで数種類が存在していた。

 正しい使い方をした装備品は消耗品では無くなり、ゲーム的な説明をするなら「ダメージの一部を反射ダメージとして与える」という効果だった。

 この一部というのが幅広く、低レベルの装備では「物理攻撃限定で数%の確立で上限1000まで」のようなものだったが、高レベルの装備になると「100%の確率で強化値×10%」などという壊れ性能のものまであった。

 その分基本性能こそ低いものの、むしろ高ダメージをもらったほうがいいような装備であったため利点になってしまっている。

 特に一撃が重い高ステータスを誇る高レベルモンスターのいるマップや、ボス戦などではどこまでも活躍できる優良装備へと変化するのである。

 ものによっては反射した分のダメージはプレイヤーに入らない仕様になっているものまであり、攻撃は最大の防御とは真逆の防御こそ最大の攻撃という言葉が生まれるほどであった。


 実際ゲーム時代の仕様をリアルに反映したかのように、この世界のリフレクターも基本は使い捨てだ。

 それは素材そのものがあまり強くなく、しかも刻まれた模様が少しでも欠けるとその効果が無くなってしまうことが原因となっている。

 つまり戦闘時に与えられる衝撃に耐えられるような強度が無く、ただの斬撃だろうが打撃だろうが、一撃で損壊してしまうのである。

 ゲーム時代はどういう構造でその辺が解消されて高級装備品になっていたのかをトライは知らないが、少なくとも単独で扱うものではないという知識だけは持っている。

 ちなみにトライ自身は盾を持ったことが無いので作り方も実際の使い勝手もよく知らない。


「ふむ?」


「へっ、素人の浅知恵で職人に口出ししてくんじゃねぇっ!」


 どこか気になった様子のジュリアと、頑なに自分の作品に拘りを持って聞く耳持たずと言った様子の店主が同時に声を出した。


「店主、試しにやってみてくれないだろうか?」


 トライが嘘を言うような性格、というか言えるような性格では無いだろうなと思っているジュリアは、ものは試しとばかりに店主に話しかけてみる。

 それを聞いた店主は一度驚いたような表情をしたが、すぐに普通の顔に戻ってさらに不機嫌そうな顔になって話し始めた。


「いやしかしな、いくら近衛の人たぁ言え……」


 店主としては、自分の商品に自信が無いわけではない。

 むしろ自信を持って良品だと言えるくらいの技術は持っているのであろう。

 しかしそれが根本から間違っているなどと言われて、しかもそれが鍛冶の経験も無さそうな冒険者の若い男からの指摘である、

 彼の鍛冶人生の中はリフレクターだけをずっと作ってきたわけでは無いのであろうが、それでも今まで丹精込めて作り続けてきたというプライドがある。

 人は変わることを望むが、変わらないことも同時に望むという不思議な心を持つ存在だ。

 そして今、彼の心を占めているのは、今までの経験の意味が無かったと言われる可能性を嫌い、変わらないことを望んでいる状態なのだった。


「ではこうしよう」


 ジュリアは腰につけていたポーチのようなものに手を突っ込み、そこから金貨を10枚ほど取り出す。


 ちなみにだが、これは日本円で計算すると1万円相当になる。

 この世界では基本的に貨幣タイプの金銭が使われており、一般的に使われるものとして銅貨・銀貨・金貨がある。

 さらにその上に水晶のような見た目の晶貨、特殊な魔力を帯びた金属で作られる黒貨、紙面上でしか扱われず実際には存在しない白貨がある。

 それぞれ100枚で銅貨→銀貨→金貨→晶貨→黒貨→白貨となっていき、10枚分の価値の一回り大きくなり中心に穴の開いた円貨、50枚分の穴が無くなった大きい大貨がある。

 ちなみにこれ、黒貨以外は見た目と裏腹にただの鉄で出来ていたりする。

 ここに王族秘伝の特殊魔法をかけることによって金銭としての価値が発生しているのだが、あまりに特殊すぎるうえに厳重な管理体制で製造されているため、偽造がほぼ不可能になっている。

 それぞれの価値としては――――


 1ジュニー =銅貨1枚=0.1円

 10ジュニー =銅貨10枚=1円

 1ジェニー =銀貨1枚=十円

 100ジェニー =金貨1枚=千円

 10000ジェニー =晶貨1枚=十万円

 1000000ジェニー =黒貨1枚=一千万円

 100000000ジェニー =白貨1枚=十億円


 ちなみにトライは1ジェニーが金貨1枚だと思っているので、この世界の人間と認識が2桁ほどズレている。

 この世界の人間もジェニー単位で言っていたり金貨の種類で言っていたりするので、トライがいつ気づくのかは、むしろ気づくことがあるのかさえ不安になるところではある。

 余談だが、ゲーム時代は日本人の金銭価値に合わせるためなのか、1ジェニーがそのまま1円くらいの価値で扱われるように調整されていたのもトライが勘違いしている原因である。


 とりあえずジュリアはその日本円換算で言う1万円ほどを店主に差し出しつつ、言葉をさらに続ける。


「私がそのリフレクターを買おう。

 ついでに何か適当な盾も1つ頼む。

 貴族の娘が冒険者の言葉を真に受けて冗談半分で試してみた、ということでどうだろう?」


 その言葉に店主は少しだけ考える。

 それならば最悪、冒険者の言葉を真に受けた貴族の娘がバカだった、という笑い話にこそなるが、そこから自分の商品の出来が悪いという話にはならないだろう。

 さらには熱くなって否定ばかりしていたが、よくよく考えれば「重ねて使う」ということはリフレクターは必須、つまり需要に繋がる。

 リフレクターを作れる工房は意外と少なく、品質で言えば自分のところが間違いなく一番だと自信を持って言えるくらいの実力はある。

 冷静になって考えてみれば、この若造が言うことが正しければ自分の店の利益になる。

 間違っていたとしても、この状況であれば笑い話が1つできるだけ、ということになっていた。

 近衛騎士が相手であれば、間違っても商品の品質が悪い、なんて噂をされることも無いだろうと思える。


 店主はジュリアの提案を受けることにした。


「はぁ、近衛さんにそこまで言われちゃ仕方ねぇ。

 代金はやってみてからでいいですぜ」


 そう言いながらリフレクターと、店主の後ろにまとめて置いてあった同サイズのバックラーをジュリアに渡す。

 そしてその後ろで――――


「……くっそう、これだから男ってヤツは」


 自分がどれだけ言っても聞く耳さえ持たなかった店主が、美人でバインボインなジュリアが話したら簡単に話が通った(ように見える)現実に両手を地について項垂れる姿があった。



――――――――――



「うしっ、来い」


 そのすぐあと、店主に普通のバックラーのほうの持ち手を外してもらい、ロープで簡易的にリフレクターとバックラーを重ね、間に綿のような布を挟んだものを両手で構えたトライが立っていた。

 それに相対するのは剣を構えたジュリア。

 周囲の人は店のデモンストレーションか何かだと思ったのか、二人と店を囲むように集まってきている。

 ちなみにこういったことは結構あるので、この辺をよく利用するものたちにとっては楽しみの1つにもなっていたりする。


「じゃあ遠慮なく」


 棒立ち状態だったジュリアが右手に持っていた細身の剣を、右肩の上まで腕ごと持ち上げる。

 短く息を吐きながら、一歩でトライの目の前まで迫り、真っ直ぐに盾に向けて剣を振り下ろした。


 剣が盾と触れた瞬間、加えられた力によって盾が押され、綿のような布を挟んで重なっていたリフレクターに触れる。

 発動の条件を満たしたリフレクターは、その身に刻まれた模様の効果を発動した。


 まずは直接触れているもの、綿のような布を弾く。

 そんな布が全ての衝撃を吸収できるはずもなく、弾くために放たれた衝撃は布を貫通して盾にほとんどエネルギーを消失することのないまま伝わる。

 内側から放たれたエネルギーに押され、ただのロープで簡易的に縛り付けただけの鉄の盾は、用意にリフレクターとの間に隙間を空けた。

 隙間を空けただけならなんてことのない、ただそういうことが起こったというだけにすぎない。

 しかしその隙間が「一瞬で空いた」ということになれば話は若干違う。

 それはつまり、何の変哲も無いはずのただの盾でさえ、リフレクターのように触れているもの全てにその衝撃を伝えることに成功したということだ。


 つまり、斬りつけたジュリアの剣に、そのまま真逆の方向へとベクトルが加えられたのである。


「っ!?」


 甲高い金属音が響く。


 ジュリアの手に握られていた剣は、中空を舞っていた。

 その剣が地に落ち、耳障りな金属音が収まるまで、ジュリアを含めた誰もが微動だにできないでいた。


 その理由は簡単だ。

 どういう理屈かはわからないが、その効果がリフレクター単体で使用したときよりも明らかに強くなっていたからだ。

 単体で使えばどんなに性能がいいものでも、弾いたとして剣が吹き飛ぶような効果は出ない。

 それが相手は近衛騎士という実力者であるというのに、握る力を振りほどくほどの圧倒的な勢いで弾かれた。

 知る人が知れば、驚愕するほどの事実だ。


「……あー、やっぱこれじゃダメか」


 誰もが硬直している中で、必殺「空気←なぜか読めない」を発動させたトライが口を開いた。

 その手に持っているのは、衝撃に耐え切れなかったらしい歪んだバックラーと、辛うじて繋がっているだけのボロボロのロープ。

 そして――――


「やっぱちゃんと組まねぇとダメだなぁ、壊れちまった」


 の状態でバックラーの下から現れたリフレクターだった。

 リフレクター、という存在の効果を知っているものは、全てが口を開いたまま呆けた表情でさらに硬直してしまうのだった。


 ただし――――


「こ……」


「こ?」


「こ?」


 一文字だけ、体を震わせながら呟くジュリアの声に、トライと店主が気づく。


「殺す気かっ!?」


 ――――ジュリアだけは、自分の顔の真横を凄まじい勢いで通過して行った剣の恐怖で硬直していたのだった。

駄文だと思った方は挙手!


ハイ!(←自分であげた)


すいません、年末なので色々疲れてるんですOTZ

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