第12話・つまり最新の技術は再現率が半端ねぇってことだ
戦闘回です。
毎回言ってますが私の描写力じゃこのくらいが限界です。
※18禁です、エロではないほうの意味で18禁です。つまりグロいです。
そういうのが苦手な方は今すぐブラウザバックを推奨します。一応読まなくても大丈夫なようにするつもりです。
「いーよいしょっ、とぉ」
気合の全く感じられない掛け声をトライが発すると、周囲に6本の剣が出現する。
スキルの効果によって他人にはリビングウェポンにしか見えない自動で動く剣。
相変わらずなぜか出るようになった黒い渦のようなものが、その光景を本物の悪魔と錯覚させるような効果を与えていた。
「……」
周囲にいる男達は、その光景に僅かばかり目を見開いたものの、声を出すことは一切しなかった。
それだけでも彼らがどのような訓練を受けているのかわかるというものだ。
「かかってきな」
獣のような笑みを兜の奥に隠し、戦闘の準備を終える。
その時を待っていたかのように、全員が一斉に構え、動き出した。
「『スラッシュウェイブ』」
トライの後方にいた男が、斬撃を飛ばすスキルを発動し、それと合わせるように数人がトライに飛び掛る。
スラッシュウェイブは前衛系の共通スキルに存在するスキルで、前衛系には珍しい中距離から攻撃できる便利なスキルだ。
ゲーム時代もタゲ取りのために1だけスキルポイントを振って取得されることも多く、スキルレベルがあがればそれなりに実用的な効果も持てる人気スキルだった。
しかし所詮は共通スキルであり、基本と言ってもいいそのスキルに大した威力は期待できない。
同レベル帯か相手のレベルが低ければそれなりに有効な手段ではあるのだが、今回のように相手がレベルカンストしたプレイヤー相手だとどうなるか。
「チッ、馬鹿が」
それを冷静に理解していたのは、行動を起こした本人ではなく、トライと直接会話をした正面の男だった。
彼がその言葉を吐いた一瞬の後、トライはすぐに動く。
「うらっ!」
なんとトライは背を向けたまま、衝撃波に向かって飛んだ。
当然彼の背中には衝撃波がぶつかるが、たかが共通スキルが、圧倒的防御力を誇る装備品とレベルカンストという肉体的能力から来る壁には微々たるダメージしか与えることができない。
衝撃波をつきぬけ、スキルを放った男の目の前に後ろ向きのままトライは着地する。
そのまま両手に構えたベルセルクブレードを握りなおし、左足を1歩下げ、トライから見て左側に大きく回転しながら男を薙ぎ払った。
「……っ!?」
斬られた男は声をあげる暇さえ許されず、上半身と下半身がお別れを告げたまま、激しく回転して斬られた方向に飛んでいった。
(うぇ……ちっとは慣れたけど、あんま見たくねぇなぁ……)
早くこの機能オフにしてぇなぁ、と心の中で呟くトライ。
思いながらも、体の動きを止めることはなく、そのまま攻撃を続行する。
狙いは目標が予想外の行動に出たせいで、何もない空間を切りつけるだけになった数人の男達。
自分にぴったりとくっついてきていた宙に浮かぶ6本の剣、それを1本右手に掴んだ。
「どぅらしゃっ!」
野球のピッチングのように、左足を前に出して上段から大きく振りかぶって投げる、重心の関係で右足を上げておくことも忘れない。
投げた結果を確認もせず、左手に持っていたベルセルクブレードを地面に突き刺し、今度は両手に1本づつさらに持つ。
「ふんっ、ふんんっ!」
今度は水平に回転するように、ブーメランを投げる感じで左右から1本ずつ投げる。
どこに投げたか、など確認していないが、彼の場合はする必要が無かったからしなかっただけである。
2本投げた後で、すぐに顔を上げて最初に投げた1本目を見る。
狙いの場所から人間3人分ほどの距離しか空いていないが、このままではトライがいた場所を通り抜けるだけであろうという軌道を描いていた。
(曲がれっ!)
しかしトライが確認しなかった理由がここにある。
魔力操作、というスキルを持つトライは、魔力を使用してある程度までなら物体を自由に操作することができるのだ、要はサイコキネシス。
突然1本目はカクンと擬音が聞こえそうな勢いで急に角度を変え、その急激な挙動の変化に対応が遅れた男を肩口から切り裂き、そのまま通り抜けていった。
(右、左!)
同様に後から飛ばした2本も操作し、あわてて距離をとろうとした他の2人にも剣が襲い掛かった。
まるで自分を追ってくるかのような軌道の変化に男達は対応することができず、トライ自身が倒した男のように上半身と下半身が分断されて死んでいった。
当たったことを確認し、トライは気持ち悪くなりそうな状態を気合でなんとか押さえ込みつつ、減った3本の剣を補充するかのように出現させた。
男達の目は、今度はわずかどころではなく、大きく見開かれていた。
それでも声だけは出さないところはさすがと言うべきなのだろうが、逆に驚きすぎで声が出なかっただけなのかもしれない。
彼らは精鋭だ。
何の精鋭かとは明かせない立場ではあるが、精鋭なのだ。
今までこの連携で、数を数えるのも手間なほどに色んな人間を葬ってきた。
抵抗されることはあっても、防がれることはあっても、少なくないダメージを与えることに成功してきたのだ。
これで全て、というほど甘い集団ではないが、それでもこの行動を完全に防がれたのは今回が初めてだった。
防がれたのも初めてならば、反撃をされたのも、この一手を行った結果、四人もの仲間を失うことになったのも初めてだった。
たった一手、ほんの数十秒の行動。
それだけで、今までと全く逆の結果が生まれてしまったのだった。
リビングウェポンのような武器が出現したときでさえ全く動じなかった男達の瞳に、このとき初めて不安と焦りの混じった感情が映し出される。
ただ一人を除いて。
「落ち着け。
スキルは出来るだけ使うな、隙を晒すだけだ。
人数ではこちらのほうが上だ、落ち着いて行動しろ」
最初の男だけはやはり、冷静なままだった。
淡々とした口調で、仲間の死を何とも思っていないかのように命令を下す。
その言葉ですぐに元に戻る他の男達もかなり訓練されているようだが、この男だけはやはり別格なようだ。
今更だが、トライがスキルを使った男を最初に狙った理由と、この男が「スキルを使うな」と言ったのは同じ理由から来るものだ。
ゲーム時代、スキルを使用すると必ずどこかで「スキル後硬直」というものが発生していた。
これはスキルによって違うのだが、共通するのは必ずどこかで「動けない」瞬間が発生するというものだ。
スキルによってはアイテムや通常行動でキャンセルできたり、別のスキルを使うことでその瞬間を無くしたりできるものもあるが、そういったものは数えたほうが早い程度にしか存在しない。
つまりスキルを使えば、ほとんどの場合使った後に動けなくなる時間が発生するのだ。
トライはこのことを感覚で理解していたため、物理的に動けなくなっているスキルを使った男を最初に狙った、というわけだった。
そして男は、トライが理解しているということを理解したため、スキル攻撃は危険だと判断したということだ。
ちなみにトライが剣を投げたのは「シュート」というスキルで、動きを変えたのは「魔力操作」というスキルを使っている。
シュートは数少ないスキル後硬直が無いタイプのスキル、魔力操作は操作中が動けないという特殊な硬直を持つスキルである。
彼は序盤この2つをメインに戦っていたため、このスキル後硬直に気づいたのは相当後になってからだったらしい……
閑話休題
(数は向こうのが上、ってこた最低でもあと7人以上はいんだろうな)
変なところで冷静なトライが、男の言葉を分析する。
トライの視界に入っていたのは、死んだ四人と会話した男を含めても八人ほど。
視界に入っていなかったり、まだ隠れていたりするものが最低でもあと3人以上いるということになる。
(……まぁ大丈夫か)
しかし普通の戦うであんな死に方をするあたり、相手のレベルはそう高くないと判断できる。
人数が20人も30人もいるようならさすがに考えるが、いくらなんでもそれは無いだろうと楽観的に考えるトライ、間違ってはいないがあくまで勘だ。
「やれ」
最初の男が号令をかける。
今度は誰もスキルを使わず、左右から一人ずつ、後方の建物の影から一人飛び出してきて、三人で突撃してくる。
「俺に」
トライは地面に突き刺さっていたベルセルクブレードを引き抜き、背負い投げのようにして突然後方に振り返り、振り下ろす。
「攻撃を」
建物の影から飛び出してきた男は、気づかれていないと思っていたせいで避けることはできない。
押しつぶすようにして使われる大剣は、まさにその役目をこなし、その男を押しつぶすようにして息の根を止めた。
「当ててぇなら」
背を向けたトライに、チャンスと判断した正面の二人は加速する。
片方は跳び上がり、背中を突き刺そうと。片方は身を屈め、足を傷つけようと。
「人数が」
しかしそれらの攻撃は、トライの周囲に出現していた剣が阻む。
跳んだ男は逆手に持っていたナイフを腕ごと切り落とされ、胸と腹に剣が突き刺さって空中に縫い止められた。
屈んだ男は背中に剣が突き刺さり、首を切り落とされ、肩から腕を切り飛ばされた。
二人とも即死だ。
しかしそれさえも予想の範囲内だったのか、民家の屋根から一人男が飛び掛ってくる。
三人は陽動で、こちらが本命だったようだ。
トライは背を向け、6本の剣はそれぞれが動けない状態。
普通であればチャンスであった、そう、普通であれば。
「足りねぇんだよ!」
トライは右側に体を捻り、右足を1歩引いて重心をそちらに傾かせる。地面をひきずるようにしてベルセルクブレードを引き、そのまま飛び掛ってきた男に向けて斬り上げた。
バズン
剣で人を斬った、そんな音だとはとても信じられない音が響き渡り、飛び掛ってきた男は腹から胸にかけて両断された。
勢いに引っ張られ、空中で両断された2つの体が反対方向に回転して地面に向かって飛んでいく。
血が飛び散るが、内臓までは飛び散らなかったのがせめてもの救いだったかもしれない、トライのグロ耐性的な意味でだが。
「倍の人数で来な、残ってんならな」
ベルセルクブレードを大きく一度振り、剣身についた血を振り払う動作をするトライ。
血が飛び散るビチャビチャという音が響き、その音が周囲の男達にに少なくない恐怖を植えつけた。
(こ、こんな音まで再現すんのかよ……)
トライには進歩した技術の恐ろしさを植えつけた。
いい加減気づいてもよさそうなものである。
「……退くぞ」
たった2手、それだけで八人もの仲間を失った。
古来より暗殺を生業とする組織は多くあった。
しかしそのどれもが、少数精鋭による集団であったとされている。
たったの八人、戦争における死者などと比べれば、そう言えてしまうほどの損失でしか無い。
しかし彼らにとっては、その八人は八百人の一般兵を失ったに等しい人数だった。
暗殺ができないとは思わない、彼らはできるできないではなく、やるやらないで物事を判断するのだから。
例えばここに彼らの上司がいて、その人物が「全滅してでもやれ」と言えば本当に彼らは実行するだろう。
しかし今回はそんな命令は受けてはいない。
これ以上はただの損失にしかならない、それも一般兵百人分もの価値がある精鋭が、一瞬で死んでいくのだ。
彼にとって、ではなく、彼の上司にとってそれは望ましくないことだろう。
最初の男はそう判断し、撤退の命令を下した。
「今回は退かせてもらう」
「退くってんなら追わねーよ」
追うのがめんどくさいから、とは思っても言わないトライ。
「次が無いことを願いたいな」
そこに来て初めて、男は感情らしい感情を出した。
本当に少しだけ、呆れのような感情だったが。
「俺もできりゃぁ勘弁してもらいてぇわ」
こんなグロい光景は、と続けなければならないのだが、話しているうちに忘れてしまうトライ。
「……フッ」
薄く鼻で笑った男は、現れた時と同じように闇の中へと消えていった。
気がつけば周りにいた男達も姿を消している。
いつの間にか死んだ男達まで消え去っており、周囲には血の海と回収しきれなかった内臓の一部らしきものが転がっているだけになっていた。
「……しんどいな」
内臓の一部だけでも気持ち悪くなれそうだと判断したトライは、早々にその場を立ち去るのだった。
キャラステはそのうち書きますが、彼らはこの世界では強いほうです。
一般人は1桁、兵士は10前後、騎士になると20~30くらい。
一般的な冒険者は30前後が平均ですがピンキリです。
ちなみに彼らは60~70くらい。
ジュリアは彼らより強いですが、リーダーの彼とは同じくらいです。
あくまでレベル的には、ですが。
※2012/10/22
細かい部分を修正
1本だったり一本だったり1歩が一歩だったりを修正
背負い投げののようにして→背負い投げのようにして