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第11話・つまり首都って言っても色んな部分があるわけだ

お待たせしました。

第二章スタートです。

「おぉ、こいつぁ……」


 トライ達は開閉に5分ほどかかるはずの巨大な城門を無理矢理こじ開け、南門から首都グリアディアへと入国していた。

 身体検査などは一応形式的なものはあったが、王族とその親衛隊である近衛騎士団、さらにはその両名が信用する人間ということもあり、簡単なボディーチェックと「悪いことする気ある?」というやる気を疑いたくなるような質疑応答のみで終了となった。


 そして現在三人は城門を潜り、そこから見える街並みを初めて目にしたトライが感想を述べようと声をあげたのだった。


「こいつぁ……」


 そのあまりの光景に目を奪われたらしく、中々表現をする言葉が思いつかない様子のトライ。

 変に飾った言葉を使えば嫌味と捉えられるかもしれないし、逆に素直にそのまま言うのも味気ない。

 しかしそんな絶妙な言葉遣いをできるほど言葉を知らないトライは、味気なかろうがなんであろうが素直に言うしかないと決めたようだ。


「……寂れてんな」


 そう、寂れているのだと。

 南門はすなわち、城から真反対の位置にある門となる。

 それはつまり、この都市の構造上から最も治安が悪い地域に属するということになる。

 最低限の警備はあるとはいえ、内情を知っている人間なら商人でさえ避けて通るこの門付近は非常に寂れていた。


 ひゅ~と、どこからか風が吹きそうな気配さえしてくるこの一帯。

 家屋は木製の板を組み合わせたような構造で一階建ての一軒家が並んでいるが、そのどれもがどこかしらは破壊されている。

 窓ガラスなんて上等なものがあるはずもなく、中世でよくあった木板をつっかえ棒で支えるようなものさえ無い、ただ厚手の布が窓枠らしき穴を内側から塞いでいるだけだ。

 店らしきものもかろうじていくつか存在しているが、看板は傾いていないものは無いし、夕方だというのに明かりが灯る気配すら無い。中に人がいるかどうかさえ怪しいレベルだ。


「南側はこんなものだ、治安もあまりよく無い。

 さっさと城を目指して進もう」


 この様子を特に気にした風もなく、すぐに行動しようと歩き出すジュリア。

 それとは対照的に、苦しそうな表情をして俯いているエルメラも、逃げるようにしてジュリアについていく。


「ふ~ん……」


 どこにでもこんな場所はあるものだが、ゲーム内でも再現するなんて凝った設定だな、と考えているトライ。

 未だにゲームであることを信じて疑わないバカであった。


「……まぁいいか」


 顔だけを後ろのほうへと向け、そこらへんに並んでいるものと同じ家屋を1つ、ジッと見つめてみる。

 しかし自分の言った言葉のとおり、特に何をするでもなく先を歩いている二人に追いつくよう小走りで近づくのだった。



――――――――――



「おぉ、こいつぁ街って感じだな」


「うむ、そうだろう!」


 先ほどの一件を無かったことにしたかのように、再度感想を述べるトライとそれに反応するジュリア。

 エルメラだけは少し寂しそうな顔をしたものの、すぐになんでもないかのように表情を戻した。


 場所は街の中心、全ての道が交差する大交差点とでも言うべき位置だ。

 街の中心に相応しいだけの活気に溢れており、戦時中であるという事実などこの場所だけを見れば無関係なように見える。

 建物も石造りの立派なものが多くなり、小規模なマンションのような3~4階建ての建物がひしめき合っている。

 その1階が店舗用のスペースになっていて、2階もお店になっているらしい建物もちらほらと存在していた。

 一般的な中世ヨーロッパのイメージ、というよりも近代ヨーロッパに近い系統の街並みが形成されていた。

 その街を大人も子供も、人間も獣人も、誰も彼も関係なく笑顔で街を歩いている。


 余談ではあるが、魔族と獣人の違いははっきりしている。


 魔族は体の一部が「人間以外」のものではあるが、逆にそれ以外は普通の人間とほぼ同じだ。

 人間以外というのは動物の一部である場合もあるが、そもそも生物であるとは限らない。

 金属のようなものであったり、石のようなものであったり、スライムのような流動的なものであったりと実に様々だ。

 共通しているのは白目と黒目が逆転しているということくらいになる。


 逆に獣人というのは、そもそも進化の系譜が違う。

 かつて動物であった存在が環境の適応をし続けた結果、四足歩行よりも二足歩行のほうが効率的だと判断され、それに伴って両手を扱い、頭脳が進化してきた。

 つまり二足歩行する動物なのである。

 モフモフな獣人もたくさん存在するが、それは体の一部ではなく全身がモフモフ。

 音子のように猫耳だけ生えているような獣人は存在しないのだ、残念。


 ……というのが一般人の認識。

 実はここに人間との混血児が生まれると、獣人の血の濃さによってそのモフモフ具合が変化する。

 例えば獣人と人間のハーフなら体の半分の面積が、ハーフと人間ならさらにその半分の面積がモフモフになるといった具合である。

 理論上は5代目くらいでケモミミ獣人が誕生することになるのだが、そもそも基本が動物であるため人間と相性が悪いらしく、獣人のハーフというのは誕生しずらい。

 そのため世間一般では獣人と人間の結婚というのはあまり歓迎されず、2代目のクォーター獣人でさえもこの世界には滅多に存在しない。


 ちなみにちなみに。

 魔族に獣人と言うと「雑魚・弱者・偽者」という侮辱の言葉になる。

 獣人に魔族と言うと「裏切り者・嘘吐き」という意味を持つ。

 この言葉からわかるように、2種族間の関係は非常に悪い。

 ある意味では人間と魔族以上に悪いとさえ言える。


 ゲーム時代から存在していた関係で、両種族のこの関係が原因で発生するイベントは多数存在した。

 なのでトライもその辺は気をつけることを覚えていたので、獣人に向かって魔族と言ってしまうことだけはすまいと一人心に決めていた。


 閑話休題それはともかく


「しっかし……」


 そこでトライは再び後方に顔を向ける。

 一般人が見れば、そちらのほうにある果物屋を見ているだけにしか見えない。

 すぐにキョロキョロと周囲を見回すことで、おのぼりさんのように田舎者が都会に出てきて周囲を見回しているような行動をすることで、さらにその行動を誤魔化した。


「どうした?」


 その不自然さに気づくのは、さすがというべきかジュリアであった。

 エルメラには何の話か全くわかっておらず、聞いたジュリアを不思議そうな顔で見ているだけだ。


けられてんな」


 周囲の喧騒に紛れ、ジュリアとエルメラにしか届かない音量でトライは話した。


「……いつからだ」


 トライと違って空気が読めるジュリアは、顔に笑顔を貼り付けて気づいていないかのような素振りをする。

 しかしその言葉に含まれた感情には、殺気と言っていいものが含まれている。

 気づいているのはトライだけだが。


「多分、門を通ったあたりからじゃねぇか?」


 トライはかつての現実世界で鍛え上げた尾行察知スキルレベル100(※注:FGにそんなスキルは存在しません)によって、背後から近寄ってくる不審な輩に気づいていた。


 尾行をする存在というのは、ある種の独特な気配を持っているものだ、それがどんな気配かと言われると何とも言いがたいのだが。

 こちらが振り返るのに合わせて立ち止まるなんてわかりやすい例はともかく、振り返った瞬間に目が合った、なんてだけでも尾行だと判断できることもある。

 そもそも誰かが振り返ったからと言って、その人と目が合うことなどどれほどあるだろうか。

 邪魔だなと思ったとして、その人の目を見ることというのは実は稀な例だ。

 こういう場合、普通の人間であればまず体を見て、自分が切り替えるべき方向を確認し、それから通り過ぎざまに相手の顔を見ることもある、というのが人間の行動だ。

 もちろん例外など数え切れないので、これだけで尾行だと断定するにはどう考えても早計ではある。

 しかし尾行かもしれない、そう考えることの重要性を知っているトライは、さきほどからずっと後方に気を配っていたのだった。


 結果として、この人ごみの中でも一定の距離を保ち続けている人間がいる、とトライは気づいていたのだ。


「どうするよ?」


「どうするもこうするも……」


 ジュリアは相変わらず殺気の込められた笑顔を顔に貼り付けながら、城へと向かって一歩踏み出した。

 こちらも相変わらず状況がわかっていないエルメラだが、何か口出ししてはいけないような空気を察してジュリアについてゆく。

 二人が歩き出せば、トライも歩かざるを得ないので三人はゆっくりと城に向けて歩き出した。


「さすがに街中で襲ってくるようなことは無いだろう。

 ここは一旦気づいていない振りをして城まで行こう」


「ふぅん?

 だったら俺は城の外で待ってるか」


「なぜだ?

 一緒に中に入ったほうが安全だぞ」


「安全だけどよ、それじゃ何もわかんねぇだろ。

 お前さんらが城ん中入ってヤツらが消えれば狙いはお前さんらだ。

 逆に、それでも残ってれば……」


「なるほど、狙いはトライということになる……というわけか。

 トライってバカだが頭の回転はいいんだな」


 悪魔のような兜の奥で、トライはニヤリと悪人スマイルを決めた。

 誰も見えなかったのが残念だが。


「狙いが俺だったらどっかに誘導して一人くれー捕まえてぇとこだな。

 お前さんらだったら、まぁ気をつけろとしか」


「それは大丈夫だろう、城の中でそんなことをすれば国王がすっ飛んでくるからな」


 ちなみにこれ比喩でも例えでもなくマジである。

 城内にいる限り、エルメラが危険な「気がする」レベルで全ての仕事を放り出して飛んでくる国王なのだが、その「気がする」が外れた試しが無い。

 こっそり忍び込んで告白しようと勇気を振り絞った男の気配でさえ察知して飛んでくるのだから、ある意味で絶対防御である。


「ま、それならいいけどよ」


 結局その方向で話が決まり、三人はやや速度をあげて城へと向かうのだった。



――――――――――



 そして時間は流れ、30分ほど経過する。


 トライはこれぞ城!というほどの巨大で一般的な城のイメージそのままな城を前に、ジュリア達と別れ、再び南側へと戻ってきていた。

 特にどこへ向かうというわけでもなく、くねくねとした裏道や脇道を不規則に曲がり、適当な場所を見つけるまでひたすら歩いた。

 その結果、まるで家が一軒丸々なくなったような空き地へと到着し、アイテムインベントリからなぜか出るようになった黒い渦を伴ってベルセルクブレードを取り出した。


「……狙いは俺のほうか」


 誰に言うでもなく、一人呟くトライ。

 しかし確かにその言葉を聞いた存在は、トライの後方、通路の暗がりから音も無く姿を見せた。


「……」


 姿を見せた存在は、男だった。

 顔は目深に被ったフードでよく見えず、口元には黒いマフラーを巻きつけている。

 服装こそ街中にいた一般人が着ているようなものと同じだが、その下に鎖帷子くさりかたびらのようなものがチラりと見える。


 男は腰の後ろ側につけていた刃渡り30センチほどのナイフを抜き、逆手に持って構えた。


「構えたってこた、死ぬ覚悟はできてんだろうな」


 首だけを動かし、横顔でギラリと瞳を光らせ、かつての現実世界であれば誰もが怯むような殺気を放つトライ。

 しかし相対する男は微塵も動揺を見せることは無かった。

 冷静に、淡々とした口調で少しだけ言葉を話す。


「……お前は危険だ、死んでくれ」


「上等ぉ」


 仮面の中で獣のような獰猛な笑顔を浮かべ、体ごと男へと振り返るトライ。


「よっと」


 振り返った瞬間、体半分ほど横に動く。

 その次の瞬間には、トライの体があった位置を男が持っているものと同じナイフが通り抜けていった。


 そのままナイフは男へと真っ直ぐに飛んでいき、一般人であればそのまま突き刺さるような状況になった。

 しかし男は至極あっさりと飛んできたナイフを掴み、両手に一本づつナイフを構えて再び語り始めた。


「やはり、この程度では殺せないか」


「当たり前だバカヤロー、何人かいることくれー最初から気づいてんだよコノヤローが」


 その態度から何かを悟ったらしい男は、小細工は無用と判断したようだ。

 周囲に視線を向け、一度コクンと頷く。

 すると周囲の影になっている部分、死角になっている部分から男と全く同じ格好、同じ背丈をした男たちが複数出現した。


「一つ聞きたい」


「んだよ?」


 イベントのバトルステップが始まる前に、相変わらず淡々とした言葉遣いで男が質問をしてきた。


「なぜ、飛んでくるナイフがわかった。

 完全な死角からの攻撃だったはずだ」


 この男達の言葉もなく意思疎通を行う動き、それは明らかに素人やゴロツキの集団では無い。

 そんな存在が放った死角からの攻撃はまさに一撃必殺、彼等もそうだと思っていた。

 さすがに倒せるとは思っていなかったとはいえ、あっさりと避けられてしまったことはさすがに気になったようだ。


「んなの簡単だろ」


 トライとしてはもちろん理由がある。

 複数人いるのはわかっているのに、姿を現したのは一人だけ。

 ということは他の人間は隙を狙って奇襲してくるはずだということは予想していた。

 しかし視界にそれらしい存在がいないということは、死角に入っているということになる。

 で、あれば、逆に死角になっている部分から攻撃が来ると予想するのは簡単だ。

 さらに男が後方から現れたことから、そちらを振り向かせたいという意図が存在したはず、ならば振り向いた瞬間が相手にとって最も攻撃のチャンスとなる。

 左右はステータスにものを言わせればどうとでもなると判断し、後方の攻撃のみに気を使った結果があの避け方だったというわけだ。


 ……と、言葉になればこうなる。


 残念なのは、そう、非常に残念なのは――――


「勘だ」


 ――――彼は、それを言葉にできるだけの頭が無かった。

次回はバトル!

果たして私に描写しきれるのかっ!?

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