未来
16
光と闇の間で、
心は、それぞれの方を向き、
ひとつになろうとしない。
炊ける匂い、輪が縮まり、
不格好な団結が語りだす。
生命の会話、それは、
命の長さを議論する。
にんじんの、じゃがいもの、たまねぎの、
人間の、割れ物の、生活の。
いつの間にか、陽が消えて、
星が流れる。いくつも、
雨のように。
17
潮のにおいが立ち込める。
海が近付いてくるように、
町が小さくなっていく。
昨日は橋が落ち、
今日は道が沈む。
昇り続ける光達。海から、
まだ絶えない、無言の上昇。
見上げている。
人々は皆、見上げている。
光を、空を、太陽を。
星々の間に。
18
うずくまる人々の側に、
そっと佇む光、
そのまま時が終われば、
一枚の絵が、完成していただろう。
だが、巨大な自然の後、
人々は、白いチョークで線を引く。
光をそっと押し返し、
「生きる」と「死ぬ」の、
間を見つめる。
一人一人の話が、
光の中に満ちて、
上昇を再開する。
空へ、空へ、空へ、さあ、
人々は合唱する、
絵になり損ねた、
一瞬の題名を。
19
霧雨、
大地が細かく濡れる。
今日も明日も何も、
変わらない、しかし、
昨日はどうであったか。
眠りの中に、何か、見つけなかったか。
そこで人々は、未来であった。
手を差し伸べてくる未来、
発見、また発見、
発見に埋もれて、目を覚ます者達。
荒野は音もなく、濡れ続ける。
風が混ざり、立ち込めるにおい。
光の中の光、選ぶべきものを、
見つけていく人々。
20
さあ、命の再開、明け方の陽。
転がっている数多の希望。
崩れた家、流れた景色、その跡に、
何も変わらないものが満ちていく。
人々だけが変わる。そして、
手付かずの希望が溢れる。
全く自然のひとつの荒野、
陰鬱な、淀んだ空気、その中を、
子供が走る。生命に満ちて。
その足元から色が付き、
西日が照らす。過ぎ去ったもの、
その距離を。
匂いに、風に、人々は、
懐かしく、黙している。
21
君は私の胸を指差して、
「ほら、そこが家よ」
この汚れた部屋に招けるのは、
何も持たぬ者、
全てを持つ者、
そして君の声を。
うなだれて、新聞を読む者がいる。
足を怪我し、耳をなくし、
彼は、風に新聞をめくらす。そして、
微笑む。
大地の幾多の回転の、
彼の最後が、風を乾かす。
光が昇る。遠く、荒野の向こう、
「大地は荒野だ」と、分かる場所まで。
22
戸惑い、拒絶、
白く、冷たい手を。
どこから来るのか分からない、だが、
どこまでも純粋に、荒野を触り、
ひとつひとつ、確かめている。
「この茶碗は、あなたの」
君は初めて、人々に話しかけた。
戸惑いと、拒絶に、君は、
微笑む。
「ここに置いておくから」
風が流れ、光が動き、人々は、
茶碗の意味を知る。
注がれていた煎液は消え失せ、
茶碗は、今、所有者を明らかにした。
駆けよる。荒野の茶碗に。人々の手が。
23
夜、物音のしない、従順な。
今や「死」が、人々に、
飼いならされている。
だがそれは、本物か。
海の光、上昇する、
生命の根源達。
「死」を知るのは彼らだ。
これら知り得ぬ謎の前に、
はっきりと並べられた確信。君は、
自らそこに並び、たぐりよせる。
これだったのだ。私が、
見つけられなかったもの。
黒塗りのヴェールに隠れていた、
荒野の真の言葉。私は、
君の輪郭をなぞる。大きなもの。
だが、その果てまでの全ては、
私の家に、降り立ってきたのだ。
生命、欠けることない、鮮やかな歓び。