第2話見えない気持ち
9月20日
今日は朝から具合が悪い。医者からもらった薬を飲もう。
いつものように、遅刻寸前だ。急ぎながら玄関のドアを開けた先に、葵が立っていた。
「おはよ、昨日どうしたの? 急に帰っちゃうから心配したんだよ〜」
「いや、用事があっただけだよ、お前こそどうした、早くしねえと遅刻するぞ」
「何言ってるの! せっかく待っててあげたのに」
「悪い悪い、早く行こうぜ! 本当に遅刻しちまう」
俺たちは学校まで走った、葵と二人で、少し話をしながら。
自分の体の事なんか忘れて、学校まで走った。
運動などは避けなければいけないのに、走った。
「葵! 先に行け、俺疲れた」
「もう! だらしないな、運動不足なんだよ、部活はいれば?」
「考えとくよ」
「それじゃあ、先に行ってるからね」
……息苦しい、無理しすぎた、もう歩けねえ。
「体力には自信あったんだけどな」
あと少しで学校に着く。いつもならすぐに着くのに、今はすごく長く感じる。
道を歩いてる人にどんどん追い抜かされる。苦しそうにしてる俺を見て変な目をするやつもいる。最悪だ、助けてくれとは言わない、だけど変な目で見る奴らが許せない。
だんだん落ち着いてきた、もう遅刻は確定だろう。でも行こう、今日を無駄にしたくない。
教室の扉をあけた、先生はいなかった。チャンスだ。
高木がいる、あんまり顔をあわせたくないな。
「おはよう祐、昨日はどうしたんだ? 怒ってたんだよ、俺なにか変なこと言ったか?」
「いや、怒ってなんかいないよ、ホントに用事があったんだ」
「……そうなのか? 俺に怒ってる感じしたからさ、よかった」
「そんなことあるかよ、どのくらいからの付き合いだと思ってんだよ」
また俺は高木にウソをついた、だんだん自分に腹がたってきた。
ウソをつく自分、自分の気持ちを隠すウソ、なんか嫌だ。
「どうした祐? 顔が怖いぞ」
「なんでもない、ただ自分が嫌いになっただけだよ」
「なにそれ? 意味わかんねえよ」
「理解してもらう気ないですよ」
普通の授業は受けている。しかし体育の授業まで受けられるほど、体力はなかった。適当な理由をつけて体育だけは休んでいる。授業中に気分が悪くなる事もある。まあ、病気のことがばれない程度にがんばろう。
高木とくだらない事を話ながら放課後を迎えた。
「今日も練習くるんだろ?」
「どうしようか? ヒマだけど……補欠だろ?」
「劇の内容知らないと補欠もできないだろう?」
「……そうだな、行くか」
俺は何がしたいんだろう? 補欠なのに練習に行く必要あるのか?
「どうしたんだ? 早く行こうぜ」
「ああ……そうだな」
「あ! 祐さ、先に行ってくれよ。俺ちょっと持ってきたい物があるんだ」
「持ってきたい物? 早くしろよ? お前が主役なんだから」
そういえばアイツ、主役だったな。
一人で体育館に行った。まだ誰も来ていなかった。俺は一人で舞台に腰を掛けていた。
「……ヒマだな、誰も来てねえよ」
一人でいると色々考えてしまう。
「!?」
物音がした。
演技で使う道具をしまっている体育倉庫から物音がした。
「……誰かいるのか?」
倉庫に入って音の原因を確かようとした。
「ん? 祐か? どうした?」
「凪か? お前こそ何してるんだよ」
斎藤 凪沙、こいつとは小学校からの腐れ縁で、高木や葵とも仲がいい。
「なんでこんなとこにいるんだよ?」
「演劇の練習の準備だよ、祐こそなにしてんの?」
「物音がしたから気になってさ」
「ふ〜ん、そうだ丁度いいから手伝ってよ、重くて一人じゃ持てないんだ」
「みんな集まってからでいいだろう」
「今できる事は今やっとくの!」
「はいはい」
凪が動かそうとしていたのは大きな背景のセットだった。女一人で動かせるものではない。
「重! 重いぞこれ、二人じゃキツイよ」
「男だろ! がんばれよ」
疲れた、やっと倉庫からセットを出し終えた。
「……凪さ、演劇やってんの?」
「舞台裏だけ、あと台本書いたの私」
「ウソ? すげえな、お前」
「祐は? 役者じゃないよな。役決めるときいなかったし」
「途中から入ったんだ、補欠だけどな」
「ふ〜ん、祐はさ、高木に葵とられてもいいの?」
「……いきなりなんだよ、俺は関係ないだろ」
「ウソつき」
「なんだよ……だいいち台本書いたのお前なんだろ?」
「葵が役者やるなんてしらなかったもん」
……沈黙。二人しかいない体育館は、静かで、広すぎた。
「凪、どうして俺が葵の心配しなきゃなんねえんだ?」
「……葵のこと、好きじゃないの?」
「……わかんねぇ、自分の気持ちがバラバラなんだ」
「祐さ、葵の病気知ってる?」
「病気? なんだよ、それ」
「葵ね、あと一年しか生きられないんだよ」
「……冗談だろ?」
「高木も知らない、葵の両親と私しか知らないことだよ」
「本当なのか?」
凪はただうなずくだけだった。俺に聞こえてきたのは自分の心音だけだった。
「葵が明日からいなくなったらどうする?」
「そんなの嫌だ」
「明日から入院するからみんなでお見舞いに行こう?」
「……嫌だ、俺は認めねえぞ」
「葵の葬式をする、幹事を頼みたい」
「ふざけんな! 誰がそんなもんやるか!」
「……まだわかんない?」
「……」
知らない間に、頬を暖かいものが流れていた。
「その涙は友達として?」
「……」
「違うでしょ?」
「……葵は、ホントに死ぬのか?」
「あ! それはウソ」
「……は?」
「ウソに決まってんじゃん! あんなに元気なのに」
「ふざけんなよ! クソ! ウソかよ」
涙を拭きながら裏返る声で凪を怒鳴った。実際かなり情けないな。
「ありがとう、凪のおかげで気付いたよ」
「どういたしまして、でも主役交代は出来ませんから」
「わかってるよ」
安心した。心のそこから。葵が病気じゃない事を、俺が葵を好きだったことを。
だんだん人も集まってきて、高木も葵も体育館にきた。みんな集まったと言う事で、舞台の練習が始まった。俺は昨日と同じく見ているだけだったが葵の演技を、見ていたいと思う様になった。
「そう言えば高木さ、なに取りに戻ったんだ?」
「ん? ビデオカメラさ、オヤジに買ってもらったんだ。折角の学園祭だぜ? ビデオに思い出詰め込んでおこうと思ってさ」
「おい、なに撮ってんだよ、やめろって! 恥ずかしいだろう?」
「いいじゃんよ、お前が俺の思い出の最初の出演者だぜ?」
悪い気はしなかった。高木の回すビデオカメラに映ることは。成人して一緒に観れればいいんだけどな。
「葵〜、凪〜、ちょっと来いよ〜」
その後も高木はビデオを撮っていた。
今日も遅くまで練習をしていた。周りはもう暗い、他のみんなも帰り支度をはじめている。
だいたい俺たち4人は帰る方向も同じだから一緒にいることが多い。
「祐くんさ〜、明日の休みに遊園地行かない?」
「遊園地?」
「そう、凪ちゃんも高木くんも一緒に行かない?」
「お! いいね〜、遊園地か、久し振りだな」
「そうね、全然行ってないわね」
「二人とも行ける?」
「もち」
「私も行けるよ」
「じゃあ決定ね、祐くんも来れるでしょ」
「ああ、行こうぜ」
家に帰った後も気分がよかった。きっと明日も大丈夫だろう。そう思って俺は約束をした。今日も疲れた。精一杯今日を生きたつもりだ。早く寝よう、明日が楽しみだ。
俺はそんな子供みたいな事を考えながらベットに入った。
こんにちは、聖司です。
なかなか書けませんでした。
更新速度が遅くてなんていったらいいやら。
学校の方も文化祭ちかくてホントまいってます。