Offstage・Ⅰ 火竜王の災難
ぷろろーぐと#1の合間の話です。
――大陸南・赤き山脈/火竜の里
「――との事でして、今月の出産予定者は一名となっております」
「うーむ…。わかった。下がっていいぞ」
「ははっ」
俺様の名は火竜王。この世の全ての火竜の頂点に立つ漢だ。
〝劫火の化身〟と恐れられる俺様だが、一つ重大な悩みを抱えている。。
火竜の少子化だ。
元々竜は出生率の低い魔獣ではあるが、近年は特にひどく、何カ月も子どもが産まれてないなんてことはザラにある。
番いの数は決して少なくないはずなのだが…
俺様としても何か手を打ちたいのだが、未だ全く原因が分からず現状を見ている事しか出来ない。
ああ、くそう!!じっとしてるなんて俺様の性分じゃねえぜ!
……はぁ。
…とはいえ俺様一人が足掻いてどうこうなる問題じゃないか。
とっとと目の前の事務処理をしてしまおう。
『…!……、……!』
『……、………』
…ん?なんか廊下が騒がしいな…
『・・・ですから、急に来られても困ります!』
『気にするな、すぐに終わる用じゃ。茶菓子は要らん』
『いえ、そういうことではなく…!』
……この声は…まさか…
カツカツと響く靴音がこの部屋へと近づいてきた。
そして扉の前で音が止まる。
ドガァァァァァァン!!!!
「おう、久しいのう火竜王」
やっぱこいつかぁ!!
「テメェ、イース!来るたんびに扉ぶっ壊して入ってくんじゃねぇよ!!」
「儂はノックをしただけじゃ。脆い扉が悪いんじゃ」
「オリハルコン製にでもしろってのかおい!?」
「んで今日来た理由なんじゃが、お主に話しておきたい事があっての」
「マイペースだなーテメェは!!」
「明日、倅を世に出すことにした」
「何だそんなこと言う為に此処まで来たのか!?帰れ帰れ!俺様は忙しいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!?」
「相変らず良いリアクションするのう、お主」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待て!!お前の倅って、アレクとの子だろう!!?」
「無論じゃ。儂はアレク以外の男になど興味は無い」
「…! テメェ、自分が何言ってるかわかってんのか!?お前らのガキなんざ世に出してみろ!人魔戦争推進派の貴族どもが騒ぎ出すぞ!いや、それ所じゃねぇ。この大陸の覇権を狙うあぶねぇ奴らがこぞって動き出すぞ!!」
「だ〜いじょぶじゃて〜(ほじほじ)」
「なんで呑気に耳掃除してんのお前!!?その余裕分けて!言い値で買うから!」
「儂とて息子をむざむざアホどもに利用させはせんよ。じゃが儂が手を下すまでも無く、邪な思惑は外れるじゃろうて。 …お、でかい」
「…何でそう言い切れる?」
俺様の問いにイースはにやりと笑い、言い放った。
「魔王と勇者の二人掛りでも手を焼いた奴を、一体誰が扱えるというんじゃ?」
「!!」
…すげぇ説得力だ。
てか、こいつらの倅どんだけヤンチャなんだよ!?
むしろ率先して戦乱を引き起こす、なんてことはねーだろうな…
「…はぁ。とりあえず人間はそれで良いとしよう。良かねぇけど。だが竜族はそんな危険因子、放っておかねぇぜ?黒竜王の野郎が聞いたら直ぐに排除しにかかるだろうよ」
「ま、なんとかなるじゃろ」
おいおい…
「はぁ…どうせお前の事だから止めたところで聞かねぇだろうな」
「カッカッカッ、よく分かっておるではないか!ま、それはそれとしてじゃ。実はもう一つ用件があるのじゃ」
「今度は何だよ…」
なんかもう、凄い疲れたんだが。
早く済ませて帰ってくれ。
「ちょっと火竜の子を一匹預かりたい」
「…火竜の子?何でまた」
「実は今日、倅が泉の森へ行った時に火竜の赤子に大層懐かれよってのう。これも何かの縁と思って鍛えてやろうかと思ったのじゃ」
泉の森…イジュール夫妻の縄張りだな。てことはそいつらの子か?
「う〜む、俺様は別に構わねえが…お前が態々鍛えるってんなら、何かしら理由が有るんだろ?」
「さぁのう?ヒュ〜ヒュ〜」
すっとぼけた顔で口笛吹いてやがる…。吹けてねぇけど。
「…はぁ、しょうがねぇなあ。俺様から話はつけといてやるよ」
「うむ、頼んだ」
面倒なことにならなきゃいいが…
いや、こいつと関わった以上面倒事は必然か。
「はぁ…」
俺様は、この日何度目かわからない溜息をついた。
「おお、そうじゃ、一つ忘れとったわい」
「何だよ、まだあんのか?」
「ボブル草、寄越せ♪」
「…てめぇ、年寄りからカツアゲして恥ずかしくないのか?」
伏線回収は何時になる事やら…