ぷろろーぐ
ストーリーを大幅に変えて再投稿。拙い文章ですが、目を瞑るかご指摘して頂けると幸いです。
多岐に進化した人類と〝穢れ〟に侵された魔獣が数多く住まう大地、<ワンダル大陸>。
今この地で人と魔族との戦争が終わりを迎えようとしていた。
「…満身、創痍じゃな、勇者よ」
「キミも、だろう?魔王」
美しい緑の丘が見る影もなく荒野と化した戦場で、傷だらけの二人の男女が切っ先を向け合いながら笑う。
「結局、決着はつかんかったのう。口惜しや」
「言葉の割に、満足そうじゃないか」
「互いに全力を出し切ったんじゃ。それで満足せん奴は欲に塗れた銭ゲバぐらいのモンじゃて」
「フフ、そうだね。僕もすっかり空っぽさ。とても清々しい気分だ。」
「カカカッ! 美しき自然を荒れ地・盆地にしておいて、清々しいか。我らはなんと自分本位なんじゃろうなぁ」
黒髪の美しい少女、紅魔王は自嘲気味にからからと笑う。
「皆、自分本位に生きてるさ。魔族も、人族も。…だから、こうして交えたくない剣を交える事にもなる」
「他人の我儘故、か。魔王の肩書をもってしても世はままならぬな。 ---…勇者よ、割に合わぬと思わんか?」
「え?」
「我らは何故、人の欲の為に殺し合わねばならぬ?我らもヒトだ。我欲を、意思を貫き、我儘に生きて良いのではないか?良いはずじゃ!否、良いのだ!儂が決めた!!」
突然、有無を言わせぬ熱弁を始めた魔王に勇者は呆気にとられ、思わず噴き出した。
「…アハハッ!相変らずだね、キミは」
「お主もそう思わんか!?我らばかり人の都合に振り回され、理不尽なのじゃ!我らには自由を得る権利があるはずなのじゃ!」
魔王は長年溜まりに溜まった鬱憤を叩きつける。
勇者も、心のどこかでそう思っていた。
どうにもならないと、思っていた。
しかし、何故だろうか、彼女の言葉に勇気が、希望が湧いてきた。
「そう、なのかな」
「そうなのじゃ!!」
彼は覚悟を決めた。
「--…そうだね。そんなのも、良いかもしれない」
「うむ、よいのじゃ」
紅魔王は満足そうに頷く。
剣を収め、しばらく見つめ合った二人は、どちらともなく歩みを進め、少しづつ距離を詰めていく。
「やれやれ、父上には多大な迷惑をかけるのう。魔王が職務放棄など前代未聞じゃて」
「後でみんなや師匠に謝らなくちゃ… う~、すごく怒られるだろうなぁ…」
「くくく、心配するな。儂も一緒に謝ってやろう」
「…うん、ありがとう!キミと一緒なら、何も怖くないよ」
互いの距離まで十歩、、、、五歩、、、一歩。
そして、手を取り合う。
――閃光
二人の姿は掻き消えた。
そして時は流れ・・・。
~15年後~
― ゴルド帝国南・ヴァイオレット領西部 泉の森 ―
ガサガサ… ガサガサ…
「あっつ~… ここにも無いか~…」
「おいカレ~ン、もう昼だぜ~?諦めて帰ろうぜ~…」 「がう~」
既に日も高い。森に入ってかれこれ4時間ってところか…
「う~ん、おっかしいなぁ…。去年はこの辺りに群生してたんだけど…」
今朝方あたしはママに、幼馴染のジークと二人で泉の森まで薬草を取ってくるよう頼まれた。
その時は、久しぶりに朝の鍛錬をサボれる口実が見つかったんでラッキー!、と思ったんだけど…これだよ。
森の中は湿気が多いし、照りつける太陽がうらめしい。
はぁ、ついてない。
「朝一から探して見つからねぇだから、しゃあねぇだろ~?」
「朝の鍛錬サボってまで来てる手前、手ぶらで帰れないわよ。後で師匠にどんな追加メニュー増やされるか分かったもんじゃないわ」
「薬草なら市場でも買えるじゃねえか、早く帰って飯にしよーぜ」 「が~う~」
「ボブル草は魔獣の多いここらにしか生えてない希少品種よ?そうそう出回らないわ」
「あちー!暇ー!腹減ったー!」 「がー!うー!がー!」
「ええい、うっとおしい!そんなに暇ならジークも薬草探し手伝いなさい!」
「だって俺薬草の種類とかよくわかんねぇし」 「がう~」
「分かんなくても良いから手伝いな……あー、そうだった、あんたにモノ頼むと碌な事にはならないんだったわ」
あまりの暑さに忘れてたわ。
こいつは絶対何かをやらかす《・・・・》奴だ。
前に手伝わせた時なんか、草と間違えて〝樹竜〟のしっぽを思い切り引っ張っちゃって怒らせたんだったっけ。
もう二度とあんな目に会うのは御免だ。
「ぬ!失敬な!俺がまるでトラブルメーカーみたいじゃねえか!」 「がう!」
「事実そうでしょうが。・・・で、それ、何?」
…さっきから気にはなっていた。
ジークが乗っている物体が。
ただ確証を得るのが嫌だったから、敢えて聞かなかった。
でも聞いとかないと、命にかかわる気がした。
「? さっき拾った」 「がう。」
「……拾った?」
赤い艶やかな鱗、
背中でぴょこぴょこ動く小さな羽根、
くりっとした大きな眼に鋭い牙。
わぁ、なんて可愛らしい火竜の赤ちゃん♪
『ギャオオオ-------ゥン!!!!!』
森中に凄まじい怒りに満ちた魔獣の咆哮が響き渡る。
「お前は何やっとんじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
今回はうっかり火竜の子供誘拐っちゃいました☆ってパターンかぁぁ!!
「こいつが勝手について来たんだよ」 「がう~♪(すりすり)」
既にかなり懐いてしまっている。
これはマズイ。
「いいから!親に気付かれる前に返してきなさい…!?」
突如嵐のような風が吹き荒れ、目を開けて立っていられなくなった。
ほどなく風が和らぎ、頭上を飛ぶ影を見上げると、そこには眼を血走らせて明らかに怒り心頭プッツンな、巨大火竜の姿があった。
手遅れ、なんですね…
つくづく、己の不幸を呪う。つーかジーク《コイツ》の所為だが。
「うおーっ!でっけぇ! カレン!あれ乗って帰ろう!」
「乗るかぁ!!どう見てもやっこさん敵意ムキ出しでしょうが!」
「え~・・・んじゃ、〝ミケ〟に乗って帰るか」
ジークは火龍の子供をつんつんと指差す。
「(何で赤一色なのにミケ…)もれなく怒り狂った親の火竜もついてくるわぁ!!」
「お~い!お前も一緒に帰るか~?」
『ギャオオオオオオン!!!』
「話聞けぇ!! あんなの村に連れ帰ったら火の海になるわ!この森の中で撒くわよ!」
『グァオオオオ−−ン!!!』
火竜は空から此方目掛けて突っ込んできた!
あたしはジークの襟首を掴み、茂みに飛び込むようにしてこの場から猛ダッシュで離脱した。
「あーもー!毎度毎度、何であたしがこんな目に…!」
どっすどっすどっすどっす・・・・
「ん!?」
背後から聞こえる重い足音に振り返ると、すぐ後ろに小さな羽をパタつかせながら走るミケがいた。
「がう~♪」
「ちょ!? あんたはついて来なくて良いの~!!」
すっかり懐いてしまったジークを追いかけて、ミケまでついて来てしまった。
そして当然、
『グギャオオオオオオオオオ!!!!!』
子どもを返せ!と親御さんも付いてくる。
「いやぁあああああああああ!!こっちくんなぁー!!」
「がうがうー♪」
『ギャオオオオゥン!!!』
チキショー!どうしてこうなった!?
元はと言えばジーク《こいつ》の魔獣の子どもに好かれる体質が原因だ。
何じゃそのふざけた体質!巻き込まれるこっちは溜まったもんじゃない!
これ以上、愛する故郷に厄介事を持って帰ってたまるか!
なんとしてでも振り切る!と決心して後ろを振り返った瞬間。
『グギャヴ!!!?』
「へ!?」
突然、火竜が地面に叩きつけられるように落ちた。
辺りにビリビリと下へ押さえつける力を感じる。
「これは…重力操作魔法?・・・」
うつ伏せになった状態から身動きが取れないらしく、こちらを睨みつけたまま動かなくなった。
この技は、『重縛』…
〝師匠〟の十八番だ。
「てことは…」
「帰りが遅いと来てみれば、何をやっとるんじゃ…」
馴染みのある声に上を見上げると、空から長い黒髪を靡かせながら一人の美女が舞い降りてきた。
「師匠!?」
「あれ、母ちゃん。なんでここに居るんだ?」
「ジョンの奴が、カレンの帰りがあまりに遅いと騒いでおったのでな。まったく、あ奴の娘バカにも困ったもんじゃ」
あんまり騒ぐんでちょいと〆てから来た、と悪びれる様子も無く言う。
パパェ…
「んで、一体お主ら何を…、成程、大体理解した」
師匠はジークにすり寄る火竜の子どもを見て、事情は大体察したようだ。
「しかしカレンよ。ジークは当然として、主でも火竜一匹ぐらいどうとでもできるじゃろうて。何故態々逃げる?」
「面倒事を起こしたくないんですよ。火竜一族とのイザコザなんて真っ平御免ですから」
あたしは平穏無事に生きたいのだ。
「相変らず事なかれ主義じゃのう…。まぁ、主の言い分も一理ある。儂があ奴を静めてやろう。バカ息子の所為でもあるようじゃしの」
「お願いします」
師匠は睨みっぱなしの火竜の前に行き、落ちつくよう説得を始めた。
『グルルルルル・・・・』
「…じゃから此方に害意は無い。事故のようなものじゃ。冷静に、大人の話し合いで場を収めようぞ」
『ギャオオオオオオオゥ!!!』
「じゃから、とりあえず落ちつけ、話を」
『ギャアォオオオオオオオゥン!!!』
「聞け、話」
『グギャオオオオオオオーゥン!!!』
「聞けと言うとろうがァ!!!」
ズドォン!!!
『グギャン!!?』
「・・・・・。」
・・・・・・・ぶん殴った。
「全く、人が下手に出ておれば付け上がりおって! …あー、コホン、ほれ、静めてやったぞ」
「ええ、地面にも沈めてますが」
大人の話し合いはどこいった。
「まー、細かいことは気にするな弟子二号!カッカッカッカッ!」
顔を地面に突き刺してピクリとも動かない火竜。
空の王者がなんと無様な姿に。
何も子どもの前でやらんでもいいでしょうに…
「ミケ、お手!」
「がう!」
まるで見ちゃいねえ。
少しは親の心配してあげなさいよ。
…まぁ何にせよ、師匠が来てくれて助かった。
「さて、帰るか。ジョンの奴が目を覚ます頃合いじゃし。その様子じゃと薬草は見つからんかったようじゃのう」
「はい、残念ですが」
「ボブル草なら後で火竜王のじじいからカツアゲしておくわい。気にするな」
いや別の意味で気になるんですが…
「母ちゃん、腹減ったー」 「がうー。」
「分かった分かった。昼飯は用意してある。では、帰るか。 〝転移〟』
あたし達は一瞬で村に着いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「カレェーン!!!!」
「うわっパパ!?」
転移した先にいたパパが抱きついて来た。
「良かった無事で!怪我は無いか!?」
「う、うん。あたしは大丈夫だから」
パパは抱きついて中々離してくれない。
ええい、鬱陶しい。
幾らなんでも心配し過ぎでしょう。
あーあ、涙と鼻水でせっかくのナイスミドルが台無しだ。
「はいはいそこまでじゃ。カレンも疲れておるんじゃ。早く休ませてやれ」
ゾクッ!
…なんか、師匠が妙に優しい。
普段ならどんなにボロボロでも無理矢理鍛錬へ直行、なんてザラなのに。
「ん?なんじゃカレン。怪訝な顔して」
「いえ…別に」
「今日はゆっくり休め。夜と明日の鍛錬も無しにする」
ゾクゾクッ!!!
怪しい!絶対何かある!!
「あの、師匠?…もしかして、明日何かあるんですか?」
「ん?あぁ。 明 日 の お 楽 し み じゃ ♪(ニヤリ…)」
その晩、あたしは眠れなかった。
かなり内容に悩みました。
しつこくない程度の文章で伝えるべき事を伝えるって、難しいですね。
<余談>ミケのその後は閑話で出す予定です。