表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拝啓 深山栞様〜遺書から始まるラブストーリー〜  作者: autofocus


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/25

潮風の街と、懐かしい声(2)

肩がビクッと跳ねた。

 聞き覚えのある、けれど、二度と聞きたくなかった声。

 恐る恐る振り返ると、そこにはあの頃と変わらない、どこか冷ややかな光を宿した瞳があった。


「やっぱり、栞ちゃんだ! 久しぶり〜!」

 水瀬みなせ なぎ。小学校の頃、いつも中心にいた同級生。

 彼女は私の戸惑いなどお構いなしに、遠慮なく抱きついてきた。

「元気だった? あれから全然連絡くれないんだもん。みんなで『栞ちゃん、どうしてるかな』って噂してたんだよ?」

「あ……うん。元気……だよ」

 

 大袈裟な身振り、全く心のこもっていない声。そして、それが相手に見透かされていることに微塵も気づかない傲慢さ。

 ……ああ、やっぱり苦手だ。

 喉の奥が引き攣り、呼吸が浅くなっていくのがわかる。


「今日はどうしたの? 観光?」

 凪は私の隣に無理やり腰を下ろすと、自分が卒業してから今日までに起きた出来事を、洪水のように話し始めた。

 誰が結婚した、誰がどこに就職した――。

 私には縁の切れた世界のニュースが、頭の中を素通りしていく。ひとしきり話して満足したのか、彼女は「で、栞ちゃんは何してたの?」と首を傾げた。


 私は、母と町を出てからのことを、感情を殺して簡潔に話した。

 大学を卒業し、今はコンビニでバイトをしていること。それだけを伝えた。遺書のことも、ここに来た本当の理由も、彼女に話すつもりはない。


「へぇー、コンビニかぁ。大変そうだね」

 凪は興味なさそうに爪を眺め、ふと思いついたように顔を上げた。

「転校していった子といえば……誰だっけ。名前忘れちゃったな。……あ、れんだ! 瀬尾漣!」


 心臓が、跳ねた。


「あいつ、どうしたんだろうね。確かお父さんが時計職人で、あちこち転々としてるって言ってたよね。……あはは、思い出した! あいつ、栞ちゃんのこと好きだったんじゃなかったっけ?」

 凪はゲラゲラと下品に笑い、私の肩を叩いた。

「毎日同じシャツ着てさ、暗い顔して。……栞ちゃんも迷惑だったでしょ? 貧乏くさいやつにつきまとわれてさ」


 その瞬間。

 バラバラだった記憶の破片が、音を立てて組み合わさっていくのを感じた。

 

 ――埃っぽい教室の隅。

 ――汚れの目立つシャツを着て、俯いていた少年。

 ――そして、私の手から滑り落ち、アスファルトの上で無残に砕け散った、父の大切な腕時計。

 

 あの日、泣きじゃくる私の前に跪き、その破片を一つひとつ拾い集めていたのは、あいつだったのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ