半額弁当と、一通の遺書(3)
カバンから封筒を取り出すと、中から重みのある何かが滑り落ちた。
畳の上に転がったそれを拾い上げ、まじまじと見つめる。
――古びた銀色の腕時計。
無意識に裏返した私の指先に、ざらりとした不自然な「傷」が触れた。
それは、夜空のどこにもない、歪な星のような形をしていた。
私は、震える手で封筒から遺書を広げた。
そこに並んでいたのは、驚くほど几帳面で美しい文字。
会ったこともない「瀬尾漣」という人物の、静かな性格が滲み出ているようだった。
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拝啓 深山栞様
あなたがこの手紙を読んでいるころ、僕はこの世界にはいないでしょう。
突然このような形で驚かせてしまうことを、どうか許してください。
僕は長い間、あなたにあるものを返したいと思っていました。
それは、あの日、バラバラに壊れてしまった「時間」です。
自分の勝手な願いだとは分かっています。
けれど、もし許されるのなら、この時計を受け取ってはもらえないでしょうか。
今度はもう、止まることはありません。
あなたが今、どんな空の下で、どんな日々を過ごしているのか。
それを知る術を僕は持っていませんが、
あなたの歩む道の先が、少しでも明るいものであることを願っています。
さようなら。
忘れてしまった、あの日の僕より。
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読み終えて、私は手紙を丁寧に折り畳み、封筒へ戻した。
ベッドの背もたれに体を預け、もう一度腕時計を見る。
裏面の傷を、何度も、何度もなぞる。
喉の奥に何かが詰まったような、ひりつく感覚。何かを思い出しそうで、どうしても形にならない。
ぬるくなった発泡酒を胃に流し込み、私はそのまま、深い海へ沈むようにベッドへと倒れ込んだ。
天井を見つめる。
耳元で、カチッ、カチッ、と。
止まっていたはずの私の時間が、彼の遺した秒針に急かされるように、音を立て始めた。




