第二話:半額弁当と、一通の遺書
「栞、今日はもう上がっていいわよ」
冴子さんの言葉に、私は「えっ」と小さく聞き返した。
「色々あって疲れたでしょ。顔色が悪いわよ」
事務所の壁掛け時計に目をやると、17時を少し過ぎたところだった。
「すみません……お言葉に甘えます」
制服を着替え、レジ横で作業をする冴子さんに声をかける。
「今日はご迷惑をおかけしました。お疲れ様です」
「あまり気にしないようにね。ゆっくり休みなさい」
いつもの明るい声。その優しさが、今の私には少しだけ痛かった。
店を出て、うだるような熱気の中に放り出される。
……あ、失敗した。
一刻も早くあの場を離れたくて、夕飯を買わずに店を出てしまったことに気づく。
仕方なく、少し遠回りをしてスーパーに寄った。
惣菜売り場には、ちょうど黄色い「半額シール」が貼られているところだった。
「……ラッキー」
小さく呟いて、弁当とサラダ、それから自分への慰めみたいにビールと発泡酒をカゴに放り込んだ。
帰宅して、シャワーで汗を流す。
部屋着に着替え、小さなテーブルに惣菜を並べた。キッチンのレンジが「チン」と無機質な音を立てる。
温まった弁当を運び、ビールのプルタブを弾いた。
「……いただきます」
何もない人生の、何もない日常。
喉を通るビールの苦味。明日も、明後日も、こうして一人で夜をやり過ごしていく。
そう思おうとした。
けれど、ベッドの脇に放り出したバッグの隙間から、あの茶封筒が覗いている。
警察から手渡された、知らない男の遺書。
視線を逸らしても、網膜の裏側に焼き付いたように離れない。
……まだ、19時にもなっていない。
長い夜が、始まろうとしていた。




