表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拝啓 深山栞様〜遺書から始まるラブストーリー〜  作者: autofocus


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/25

最終話:刻みはじめた時間、再会の汽笛

駅のホームに立ち、電車を待つ。

 左手に馴染んだ銀色の腕時計で時間を確認する。秒針は迷いなく、一秒一秒を刻んでいた。

「……もう少しだ」

 

 潮風が心地よく私の頬を撫でる。やがて到着を告げるベルが鳴り、二両編成の電車がゆっくりとホームに滑り込んできた。

 乗り込んで、海の見える四人掛けの席に腰を下ろす。車内には老人が一人と、若い女性が一人。閑散とした車内に、ガタンと心地よい振動が伝わり、電車が動き出した。

 

 遠ざかっていく岬町の海を見つめながら、心の中でつぶやく。

(……また来るよ)

 

 電車に揺られ、この数日間の出来事を思い返していた。長いようで、一瞬だった。

 目を閉じれば、凪や拓海、瑞穂の笑い声が聞こえる。結衣や冴子さん、太陽君の顔も浮かぶ。

 世界を拒絶し、「私は孤独だ」と嘆いていたのは、他ならぬ自分自身だった。私は、自分で自分の時間を止めていただけだったのだ。

 

 ふと、ある人の顔が浮かんだ。高校を卒業してから一度も連絡をしていない人。

 大学時代、バイトを掛け持ちして必死に生活費を工面していた時も、「絶対に会いたくない」「絶対に世話になりたくない」と頑なに拒んできた、あの人の顔。

 

 今なら、思える。

 母もまた、たった一人で戦っていたのだ。夫に裏切られ、娘に拒絶され、逃げ場のない孤独の中で。

 手の甲に、ぽつりと涙が落ちた。私は自分の痛みしか見ていなかった。誰も助けてくれないと世界を恨んでいたけれど、本当は母こそ、誰かに助けてほしかったのではないか。

 

 私はカバンからスマホを取り出した。一度も送ったことのない、母へのメッセージ画面。

 文章を打ち込み、送信ボタンの上で指が止まる。怖い――心臓が激しく脈打つ。

 その時、左手の時計が視界に入った。

 

 まるで、漣君が「栞、がんばれ」と背中を押してくれているような気がした。

 

 カチリ、と小さな音がした気がして、私は送信ボタンを押した。

 スマホをカバンにしまい、再び流れる海を見つめる。

 

(お母さん、今から会いに行きます)

 

 私の腕で、新しい時間が、確かに動き出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ