第六話:沈む夕日と、不器用な告白
どれくらい、そこにいたのだろう。
気がつけば、夕日が水平線の向こうへ溶け出そうとしていた。
「……そろそろ、行かなくちゃ」
海沿いの古びた民宿に宿をとっている。私のことを覚えている人間なんていないだろうと高をくくっていたけれど、凪に声をかけられたことで、その根拠のない自信は完全に崩れ去っていた。
「いらっしゃい。道、迷わなかったかい?」
民宿のおばちゃんに迎えられ、「大丈夫です」とだけ短く答える。
よそ者の観光客だと思われているのなら、今の私にはそれが一番都合が良かった。
二階の部屋は全体的に古びてはいたが、手入れが行き届いていて不快な気はしない。
窓からは海が一望でき、先ほどの夕日はもう半分以上が波間に沈んでいた。
「晩御飯、十八時からでいいかしら?」
おばちゃんの問いに「はい」と頷く。
そういえば、朝から何も食べていなかった。空腹さえ忘れるほど、私の心は余裕を失っていたのだ。
さすがは港町というべきか、運ばれてきた夕食は、海鮮をふんだんに使った豪華なものだった。お腹を満たした後、私は窓際の椅子に深く腰をかけ、ビールのプルタブを引き抜いた。
冷たい液体を半分ほど一気に流し込み、サイドテーブルに缶を置く。
背もたれに体を預け、古い天井の木目を眺めていると、意識がまた、あの日へと引き戻されていく。
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瀬尾漣が転校してきてから、二週間が経っていた。
最初は物珍しさに声をかけていた凪たちも、そっけない態度の彼に早々と愛想を尽かし、今では誰一人として彼に触れようとはしなくなっていた。それどころか、「毎日同じシャツを着ている」なんて誰かが言い出し、クラスには彼を排除しようとする薄暗い空気が漂い始めていた。
私は席が隣という理由だけで、成瀬先生から事あるごとに彼の世話を押し付けられていた。凪たちの視線と、彼の拒絶。その板挟みに合う日々に、私の心は悲鳴を上げていた。
あの日も、移動教室の場所を彼に教えていた時だった。
突然、凪が唇を歪めて言い放った。
「深山さんと瀬尾くんって、なんか夫婦みたいね」
教室中が途端に沸き立ち、「ヒューヒュー」とはやし立てる声が響く。
私は顔を真っ赤にして、ただ床の一点を見つめていた。溜まった涙がこぼれ落ちないように、必死に目を見開いて。
その時だった。
騒がしい教室のノイズを切り裂くように、彼の声が届いた。
「……俺は、深山のこと好きだよ」




