第五話:季節外れの転校生と、錆びた鍵
六月の終わり。
梅雨の湿り気を帯びた風が教室を抜ける中、季節外れの転校生がやってきた。
「今日からこのクラスの仲間になる、瀬尾 漣君です。お父さんは時計職人で、仕事の都合でこの岬町に来られました。みんな、仲良くするように」
担任の成瀬先生の言葉に、凪が「はーい!」と真っ先に両手を挙げて愛想を振りまく。
教壇に立つ彼は、うつむき加減に、消え入りそうな声で「……瀬尾漣です。よろしくお願いします」とだけ言った。
私の席は教室の一番後ろの窓際。ちょうど隣が空席だった。
「じゃあ、深山さんの隣に座ってちょうだい」
促されるまま、彼は私の隣に腰を下ろした。
「深山栞です。よろしくね」
転校生を気遣って、精一杯の笑顔で声をかけた。けれど、彼は返事ひとつせず、ただじっと窓の外の海へ視線を投げていた。
それが、私と彼の始まりだった。
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「……栞!? ちょっと、聞いてるの?」
不意に現実の声が割り込み、凪が私の顔を覗き込んできた。
「あ……うん。聞いてるよ」
「もう、ぼーっとしちゃって。はい、連絡先交換しよ」
凪は私の返事を待たず、もたついている私の手からスマホを奪い取ると、慣れた手つきで勝手に自分の連絡先を登録した。
「瑞穂とか拓海のこと覚えてる? みんな栞ちゃんに会いたがるだろうな〜。私、これからバイトだから行かなきゃ。また連絡するね!」
嵐のような騒がしさを残して、彼女は軽やかに手を振って去っていった。
一人残されたベンチで、どっと重い疲れが押し寄せる。
せっかく、何年もかけて心の奥底に閉じ込めてきたのに。
ようやく、この町の潮の匂いも、彼の名前も忘れられそうだったのに。
私は震える指先で、カバンの中にある銀色の腕時計に触れた。
凪が言っていた、「あいつ、栞ちゃんのこと好きだったんじゃなかったっけ?」という言葉が、呪文のように頭の中で反芻される。




