逃げてしまえばよかった!
初めて投稿します。
右も左も分かりません。
BLの意図はありません。
最低限のマナーを持ってお楽しみください。
「逃げてしまえばよかった!」
お前はそうやって、弾けたように笑った。
いつからだろうか。いつもと同じような朝を迎え、憂鬱な気持ちを抱きながら名残惜しくベットを離れる。そのまま顔を洗って、コーヒーを入れる。適当に焼いたトーストを齧り、ぼんやりとした頭で窓の外を見やった。生憎今日は曇りのようだ。いっそのこと晴れてくれれば気持ちも楽なのに。そんな時、スマホが短くなった。流れるように着信源を見ると、会社が爆発…なんてことは無く、見慣れた友人のアイコン。「今からドライブ行かん?(*^^*)」相変わらず騒がしい奴だ。腹立つ顔文字と共に、なんとものんきなお誘いだ。今から?仕事でそれどころでは無い。残念ながらこっちはそんなお気楽じゃないんだと、内心毒づきながら返信を考える。「お前暇なのな」「暇ってなんだよヽ(`Д´)ノ」「その顔文字どうにかならんのか」「可愛いでしょ(*^^*)」「とりあえず、今日は無理。仕事あるから。」「あー、それなんだけどさ…」
急に歯切れが悪くなった文面に、手が止まる。
「今日、世界終わるんだって」
は?脳の処理が追いつかない。何を言ってるんだこいつは。ついに頭がおかしくなったのか。
「何言ってんの?」「本当だよ」「お前ついに頭おかしくなったん」「違うよ!!本当に、世界が終わるんだ」
こいつはつまらない嘘を言うようなやつじゃない。だから余計に分からなくなった。明日世界が終わる?
「今日の夕方、でかい隕石がここに堕ちてくる」
「みんな死ぬ。だから、今日くらい全部投げ出して遊びに行こうぜ」
もしもそれが本当なら。今日、隕石が堕ちて地球が終わるなら。
「いいよ」
最後くらい、投げ出していいと思った。
送られてきた集合場所に行くと、さっきまで話してたあいつが待っていた。清々しい顔で、俺を見ると笑った。
「本当に来た」
「お前が誘っといてよく言う」
「はは!よっしゃ、じゃあ行こうぜ」
車に乗り込むと、俺とあいつは出発した。意気揚々と鼻歌を歌うのを見て、ひとつ質問を投げかける。
「どこ行くつもり?」
「海。とりあえず北!」
「北ぁ?」
「運転疲れたらお前もしろよ」
「はいはい。」
気温はそんなに高くない。けれど寒すぎないで、ちょうどいいくらいだ。高速に乗るのに合わせて開けていた窓を閉めた。平日だから車は少ない。あいつはずっと上機嫌で、おもむろにつけたラジオは午前8時を知らせた。
「お前、俺の事疑わなかったん?」
「え?」
「もっと疑われるかと思ってた。それか無視されるか。」
どれくらい走っただろうか。そろそろ限界だとあいつが言うから立ち寄ったサービスエリア。買ってきたコーヒー片手に、あいつがそんな事を聞いてきた。
「…別に、疑ってない訳じゃない。けど、お前がつまんねぇ嘘つかねぇの知ってるから。」
「…あっそ。次お前が運転な。」
「ん。」
「あ"ー疲れた…どっかで飯…」
「何食いたいよ?あ、俺次運転だから重いの無しで、あと生物以外で、早くて美味いやつ」
「お前が決めた方が早いだろそれ…」
「高速降りんのもあれだし次のサービスエリアにしよーぜ!」
「り」
「お前何にすんの」
「んー…なんか、米…?」
「アバウトすぎだろ」
「おにぎり屋さんの米って美味いんだぞ!」
「あーね。」
「そーゆーお前は何にするんだよ」
「ラーメン」
「重っっ」
「スヤスヤ寝やがってよー」
「ん"…?あ"ぁ、わり…」
「寝起き悪っっ」
「…ん…」
「あー寝た!こいつまた寝やがった!!ラーメンなんか食うからだよまったく…」
「そういや会社は?仕事あるって言ってなかった?」
「普通にサボり」
「うわ!なまはげに殺されるぞ」
「殺されはしないだろ…いやするのか?」
「知らねー」
「渋滞だりー」
「これ何キロ続いてんだ…?」
「予想3キロ!」
「残念5キロ」
「えっ惜しい」
「あともうちょい」
「目的地ってここなん?」
「もう少し行ったら海」
「よっしゃーじゃあ交代無しで」
「くっそ嵌められた」
運転を変わりながら5時間。俺たちは目的地までようやくたどり着いた。太平洋が見える海岸。砂浜は人ひとりいない。気がついたら雲はどこかへ行き、1番明るい流れ星が見えた。明日全ての命は消えてなくなるというのに、生命の源は今も爛々と輝いている。世界は何一つ変わることなく動いている。あの燃え盛る火の玉で全てが終わることも知らずに、人は日常を生きている。
「最後の夕焼けだ」
ふとあいつが呟いた。
「…なぁ、どうして俺を誘った?」
「なんとなく。お前となら、最後まで笑って過ごせると思った。」
みんなで肩を寄せあって泣くより、お前と一緒に話してる時の方がいい。そう言いながらあいつは笑った。けど、俺たちはもう無理だよ。少なくとも俺は、全てから逃げてありありと実感したんだ。
「…俺は、死にたくなかった。まだお前と馬鹿をして、今日みたいに笑いたかった。」
あいつの顔がぐにゃりと歪む。泣きそうな、それでも笑おうとする惨めな顔。
「楽しかったよ。多分お前が誘ってくれなきゃ、俺は今日のことを知ってても逃げられなかった。このことにも気づけなかった。」
「……おまえってさぁ、本当に…」
「なんだよ」
「なんでも!!楽しかったよ、俺も。」
「はは!」
気が付いたら頬は濡れていて、それでも俺らは笑うことを止めなかった。流れ星は勢いを殺すことなく空を駆けている。どんどん空が燃えていく。眠るはずだった世界が起きていく。この流れ星で世界が終わるなら、綺麗すぎる。
「こんなに楽しいなら、もっと早くから逃げてしまえばよかった!」




