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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

死にたがりの聖女

作者: 氷桜 零


死にたい。


私はずっと、そう思っていた。


ずっと幼い頃から、死にたいと思っていた。

強いきっかけがあったわけじゃない。

ただ生きるのがしんどかった。

死になくない人の中で生きるのも、社会に合わせるのも、仕事をすることも。

すべてが煩わしく、捨ててしまいたかった。


けれど痛いのは好きじゃない。

自殺は周囲に迷惑をかける。

だから願うのは、災害が起きないか、事故が起きないか。殺されないか。

ニュースで死んだ人を見ると、羨ましく感じる。

きっとそんなことを思うのは、私だけだろう。

普通の人とは違う考え方は、自分でも異常だとわかるけど、普通の人のようにはなれない。

それがまた、しんどくなる。


世の中は不公平だ。


生きたい人が死んで、死にたい人が生きる。

逆にすればみんなが喜ぶのに。

ああ、本当に、早く死にたい。




誰かが聞き届けくれたのか、ようやく死ぬことができた。

……はず、だったのに。




―――――


どうやら私は転生したらしい。

それも異世界に。


転生したことに気づいたのは、ついさっき。

今日から、聖女に指名された時だ。


なんと言うことだろう。

せっかく死ねたのに、また生きろだなんて。

希望を与えた後に、絶望を与えるなんて、神はなんて残酷なんだろうか。

いや、むしろ神などいないのかもしれない。

私に神などいない。

きっと、そうなのだ。


それにしても、聖女か。

ラノベの定番だけど、なんの面白みもない。

ここでの聖女も、ラノベの聖女とほとんど同じ。

治癒、浄化、結界、葬送ができる人のことだ。

葬送は、少し珍しいかもしれないが。


あ、でも、職場は選べるみたい。

一つ、良いところを見つけた。


「私は境界線へ行きます。」


騒めく周囲。

神官たちが、あの手この手で止めようとしてくる。


当たり前か。

だってあそこは、一番死が近い場所だから。

私にとっては、都合の良い場所。


境界線。

魔物の領域と人の生存圏を分ける場所。

毎日が魔物との殺し合いで、普通が普通出ない場所。

昨日まで笑い合っていた仲間が、今日は物言わぬ骸になる、過酷な場所。

誰も好き好んで行く人はいない。


だが、一番聖女を必要とする場所でもある。

誰かが行かなければ行けない。

神官としては、能力の高い私を、死地に行かせたくないのだろうけど。

でも私は行きたい。

きっと内心何を思っても、神官は反対しきれない。


その予想が当たり、私の職場は境界線になった。


もう帰って来ないつもりで、持っていく荷物以外は全て処分した。


忘れ物がないように最終確認して、一度も振り返らずに出発した。


途中までは乗合馬車に乗ってきたが、境界線まで乗せてくれる乗合馬車はなかった。

途中から降りて歩いて向かっていたら、たまたま親切な商人と出会い、乗せていってくれることになった。



境界線が近くにつれ、どんどん荒廃していく。

遠くの空は、黒いモヤで覆われている。

普通の人なら不安になる光景。

私は特に何も感じなかった。


境界線の近くに街があるらしいが、どう言う気持ちで、みんな住んでいるのだろうか。

まさか、私のような死にたがりばかりではないだろう。


境界線とは、どんなところだろうか。

受け入れてもらえるだろうか。


進むにつれて、些か緊張してきた。


境界線の街の名前はエルピスと言う。

希望の名を冠する街だ。

境界線は人類の死線であり、同時に希望でもあるのだと、後から知った。


初めて来たエルピスは、活気が溢れる普通の街だった。

空には一切の日は差さず、薄暗いと言うのに、誰もが前を向いて懸命に生きている。

王都までとは言わないが、地方の主要都市並みの発展と賑わいだった。


死ににきた私が、場違いであるかのように感じて、少し恥ずかしくなった。

私とは違う、懸命に生きる人々。

せめて、少しでも役に立って死にたいと思った。



ここまで連れてきてくれた商人さんに、お礼と金銭を渡し、街の入り口で別れることになった。

私はこのまま街の中心にある神殿に向かう。

街の割に、規模が小さい神殿だと聞いている。

その理由は、派遣されることを誰もが嫌がっているからだ。

この街の神殿にいるのは、自ら手を挙げたごく少人数の神官のみ。

聖女はもう何十年も派遣されていない。

恨まれていても、仕方がないことだ。

職場の人間関係は重要だ。

ギスギスした空気では、できれば仕事をしたくない。

死ぬのは怖くなくても、無駄な恨みは買いたくない。


しばらく歩いて、神殿のシンボルを見つけた。

開いたままの扉から、中を覗き込んだ。

神殿は街の中心部にあるが、室内はとても静かだった。


自分の足音が、神殿を響かせる。


「おや、お客さまですか?」


奥の扉が開き、そこから高齢の男性が姿を現した。


「あ、境界線に派遣されました。聖女のユフィーリアと申します。」


「おや、随分とお若い。いや、すまない。他意はないんだ。ただ、ここの神官は年寄りばかりでね。驚いてしまった。私は神殿長と神官長を兼ねている、デインと言う。これからよろしく。」


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


「基本的に神殿にいるのは、私を含めて3人なんだ。他はみんな要塞に常駐している。聖女様もそうなるだろう。砦には話を通しているので、行ってみてほしい。案内できなくてすまないね。」


「いえ、大丈夫です。ありがとうございました。」


ここから要塞は少し距離がある。

神官は急な治療でも間に合うように、要塞に詰めているのだろう。

私の職場もそちらがメインのようだ。

神殿長にお礼を言って、要塞に向かうことにした。


街の人に要塞の行き方を聞きながら、東門から向かった。

要塞の人は、東門から出入りをしているとのことだった。


東門に立ち寄れば、門番に止められてしまった。

だが事情を説明すると、要塞まで馬で送ってくれた。

この街の人は親切な人が多いみたいだ。


馬で駆ければ、要塞まですぐだった。

要塞の塀が、見上げるほどに高かった。

大型の魔物でも入れないようにということらしい。


要塞の警備兵に話をすると、団長の部屋に通された。


「境界線に派遣されました、聖女のユフィーリアです。よろしくお願いします。」


「ああ、やっときたか。志願してくれて感謝する。黒狼兵団団長のヴォルフラムだ。早速だが、荷物を置いたら兵士たちの治療を頼む。」


「わかりました。」


「では部屋まで案内しよう。ここはいつでも人手不足で、至らないことは多々あるが、我慢してくれ。」


「大丈夫です。覚悟はしていますから。」


「そうか。」


団長は全く表情が変わらず、怖い印象の人だ。

しばらくは慣れないかもしれない。


私の部屋に行きがてら、要塞の説明をしてくれた。

怖い印象だが、説明は丁寧でわかりやすかった。


1番気をつけないといけないのは、警笛の回数。

回数によって、警戒レベルや守備配置が変わる。

それだけは忘れないようにしないと。


私の仕事は主に治癒だ。

戦闘は基本的に兵士に任せて、怪我を治すことを最優先にするように言われた。

それだけ治療ができる人がいないと言うことだ。


部屋に荷物を置いた後は、1階の治療室に向かった。

治療室はいつも一杯で、怪我人が多すぎて一室では収まらないらしい。

次の大きな戦闘がいつ来るかわからないので、できるだけ治してほしいとのことだった。


重症者用の治療室を団長が開けると、血の匂いと死の匂いが漂ってきた。

おそらく重症過ぎて、治せないまま寝かせているのだろう。

室内を覗いて、思わず足を止めてしまった。


「ううっ……」


「すいませ……ん、役に……たて、なくて。」


「もう、殺してくれっ……」


ああ、ここは死が限りなく近い。

魔物と人の境界線であり、生と死の境界線でもあるんだ。


瞬時にそう、理解した。


ここの人は生を諦めている。

彼らに対して、私はなんて残酷なことをしにきたのだろう。

私は、なんて平和な世界で生きていたのだろう。

ここの人たちの努力があるから、死があるから、この平和は保たれている。


視界が歪む。

きちんと見て治療しないといけないのに、よく見えない。


「キツイなら……」


私は何も考えず、感情のままに足を動かした。

歪む視界をそのままに、部屋の中心に立つ。


「ごめんなさい……」


両手を胸の前で組み、魔法を構築した。

部屋よりも尚大きい、薄緑の魔法陣。

今まで組んだことのある魔法より、大きく複雑な魔法陣。


死に瀕した者さえも強引に呼び戻す、ある意味禁忌に近い魔法。

使ったことはなくても、私が願えば叶う。

叶えてくれるのが、私の魔法だ。


Curar(クラール)


魔法陣から溢れた光が、怪我人の全身を包みこむ。

一層、光が強くなり、目が開けられないほどだ。



ごめんなさい……

癒して、また死地に送り出さないといけない。

死なせてあげることができなくて。

終わらせてあげられなくて。

楽にさせてあげられなくて。

本当に、ごめんなさい。



私はなんて、罪深いのだろうか。


頬を伝った雫が、魔法陣の中に溶け込んでいった。


光が収まったそこは、さっきまでの光景と一変していた。


失った身体を呆然と見るもの、飛び起きる者、固まる者。

皆、反応はそれぞれだが、突然のことに理解が追いついていないのは、誰もが同様だった。

それは団長でさえも例外ではない。


壁を隔てた隣から歓声が届き、やっと部屋の時間が動き出した。


「治っ、た?」


「生きてる。生きてるのか、俺は……」


「これでまた、守れる……」


うぉぉぉぉーーー!!!


誰もが喜びに打ち震える中、私はそっと部屋を抜け出した。

複数の部屋から歓声が漏れている。

私は逃げるように、当てもなく歩いていた。

気がつけば、自分に割り当てられた部屋に戻ってきていた。


まだ出勤初日なのに、仕事を途中で投げ出してしまった。

治療の後は、何をするのか聞かないといけなかったのに、逃げてきてしまった。


扉を閉めて、膝を抱える。

頭を占めるのは、先ほどの光景。


私は、私が1番嫌がっていたことを他人にしてしまった。

死にたい私が、生まれ変わって絶望したのに。

死にたかった兵を、生かしてしまった。

生きていれば、また死の苦しみを味合わせてしまうのに。


トン トン トン


「聖女殿?」


「……はい。」


団長が訪ねてきてくれたが、誰にも会う気が起きない。

扉を開けないまま、返事を返した。


「今いる怪我人は全て癒された。あなたのおかげだ。感謝する。」


「……違います。私は、感謝されるべきではありません。」


「何故?」


「きっとあのまま、楽になりたかった人もいました。死にたかった人が。なのに全て癒して、また死地に送るのです。彼らにとっては、私は死神でしょう……」


沈黙が広がる。


団長も私を恨むだろうか?

私は聖女なんかじゃない。

みんなにとっての死神だ。

ここに来て、そう理解した。

私がここにいる限り、ずっとそうだろう。


「自惚れるな。」


私の思考を遮る鋭い声が聞こえた。


「兵士に死ねと命じるのは私だ。治療を命じるのも私だ。命を背負うのは、団長である私だ。恨みも責任も背負うのは私の役目だ。あなたに譲るつもりはない。」


それは団長の覚悟だった。

団長の言葉は、何よりも重かった。

私なんかでは、到底抱えきれない重さだった。

きっと団長は、そうしてずっと戦ってきたのだろう。


「落ち着いたら、降りてきてくれ。皆、あなたに礼が言いたいと言っている。」


少しずつ足音が遠ざかって行った。



私は何のために、ここに来たのだろう。

迷惑をかけるため?

泣き言を言うため?

違うでしょう。

私の目的は、死ぬこと。

けれどそれでいいの?

みんなを見捨てて、1人だけ楽に死ぬの?

いいえ、どうせ死ぬのなら、華々しく咲いて死のう。

精々、役に立って、この命を使おう。



私は頬を叩き、覚悟を決めた。


緊張と不安を抱えながら治療室まで戻った。

早くなる鼓動と、それに反して遅くなる足。


1階に降りると、騒めきが聞こえてきた。

廊下にもたくさんの兵士たちがいた。


私を見ると、徐々に静かになる廊下。

その雰囲気に異変を感じたのか、室内にいた人も、次々と顔を見せた。


やっぱり、来ない方が良かったかも。

引き返そうと一歩足を引いた、その時。


「聖女様!」


大きく響く声で呼ばれた。


「ありがとうございました!自分を、友を救ってくれて、ありがとうございました。」


「ありがとうございます。」


「聖女様、ありがとう。」


「ありがとう、助けてくれて。」


1人の兵士を皮切りに、次々とお礼を言われた。

その勢いに圧倒されて、固まってしまう。

どうしたらいいかわからずに固まっていたら、後ろから肩に誰かの手が乗った。


振り返ると、そこにいたのは団長だった。


「ほら、あなたがしたことは、何も間違っていない。」


「……はい。」


私に言えるのはそれだけだった。

色々な感情がぐちゃぐちゃで、うまく言葉で表現できない。

でも、悪い気持ちではなかった。


今まで、これほど感謝を受けたことはなかった。

きっとこれは、私が本当に欲しかったものなのだろう。

治してよかったと、その時初めてホッとした。




ーーーーー


境界線の要塞に派遣されて、早くも1ヶ月が経っていた。

相変わらず小戦闘はあったが、重症者が出るような戦闘はなかった。


兵士との関係や他の神官との関係も、今の所良好だ。

ただ憧れの存在を見るようあ、キラキラした視線は今だに慣れないが。


そんな嵐前の静けさは、唐突に終わりを告げた。


警笛が4回、つまり警戒度が最高レベルの4。

魔物の大波が突如襲ってきた。


私も神官たちも、負傷者の治療に走り回って、休憩する暇もないくらいだ。

次々と運ばれる重症者に、神官は1人、また1人と力を使い果たして倒れていく。


魔物の波が来て6時間。

すでに動ける治癒者は、私だけとなった。


兵士たちが話をしていた。

6時間も、休みなく魔物が襲ってくるのは異常だと。


私も先ほどから嫌な予感が振り払えない。

背筋が凍るほど、何かか近づいてきている気がする。


グアァァァァァァ!!!


上から、何かに押さえつけられているような圧力を感じる。


これは、なんだ?


「せ、赤竜だぁぁぁ!!」



赤竜……竜?

魔物の頂点、最高位の竜?

そんなの伝説でしか聞いたことがない。

実在していたの?

まずい、竜は空を飛ぶ。

もし、要塞を飛び越えて街に向かったら……



私はそこまで理解して、治療室を飛び出した。

命令違反など、頭になかった。

走って向かうのは、要塞の上。

息を切らしながら、全力で走り、扉に飛びついた。

開け放たれた扉を出ると、目の前にいると錯覚しそうなほど大きな赤い竜、赤竜。



しっかりしろ、私!

私になら、できる。

いや、私が守らないと。



震えそうになる足を殴り、無理矢理足を進める。


赤竜は口を大きく開けた。

口の中に炎が渦巻く。

上空から要塞の破壊を狙っている。


あれを打たせては危険だと瞬時に判断した。


Pared(パレー)


私は両手を前に突き出し、最大出力で結界を張った。


「うぐっ……」



重い。

けどここで、引くわけにはいかない。

ここで結界が解かれれば、要塞の人間はみんな死んでしまう。

それだけは、防がないと。



団長が驚いた顔で振り返ったのが、やけに目についた。


「ケホッ……」


咳と共に、口から血が流れる。



まずいな。

魔力の使いすぎた。

でも、これでいいい。

兵士たちの傷も治さないと。



Curar(クラール)


生命力を魔力に変換して、結界と治癒に、さらに力を注ぎ込む。



きっと隙を作れば、団長なら、みんななら倒すことができる。

3つも力を行使したら、私は持たないかもしれない。

けれど、それでいい。

もともと、何の価値もなかった命。

ここで使えば、私の命にも価値があったと思える。

死にたがりの私の死に、価値を見出せる。

でも、できればもう転生はしたくない。

やっと、私の人生も終わる。

これは、私のハッピーエンド。


私は、3つ目の魔法を構築した。

生命力も使った、最大の拘束魔法。


〈|Restrictionsレストリクシオン


空中からいくつもの光の鎖が、攻撃で空中で動かない赤竜を拘束した。


「ぐっ……ゲホッ、ゴホッ。」


赤竜の抵抗を、力技でねじ伏せる。


立っていられずに、膝をついて薄れつつある意識を繋ぐ。



意識が途切れる前、目に映ったのは、団長が赤竜の首を落とす光景。

目の前が真っ暗になり、全ての魔法が解除された。


真っ暗な意識の中、微かに団長の声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。




ーーーーー


髪を撫でる優しい手つきに、意識が浮上した。

目に飛び込んできたのは、真っ白な部屋。

薬品の匂い。

ここは治療室かとぼんやり考えていると、視界に眉間に皺を寄せた団長の顔が映った。


「だ、ん、ちょう?」


「馬鹿か、無茶をしやがって!俺がどれだけっ……」


団長が言葉を飲み込んだ。

眉間に皺を寄せていたのは、怒っていたのではなく心配してくれていたのか。


ゆっくりと上体を起こすと、団長が支えてくれた。

いつになく、優しい手つきだ。

一瞬、団長の偽物かと疑ってしまった。

だって、団長とはそこまで深く関わっていなかったはず。

初めは色々あったけど、その後は治療報告に行くくらいだった。

どう言う状況かわからず、困惑してしまう。


「あの、私、死んだと思っ……ひっ。」


睨まれた。

今まで見たことがないくらい、鋭く睨まれた。


「この俺が、簡単に死なせるとでも?」


「いえ、でも……」


()()()治療をした。」


「え、えぇぇぇ。まさか、アレ、ですか……?」


「死にかけのお前を助けるのに、アレ以外何がある?」


「あ、う、あぁぁぁ……」


恥ずかしくなって、両手で顔を隠した。

全身が熱を持っているのがわかる。


「どうして、助けたんですか……?」


「どう言う意味だ?」


「……私は、ずっと死にたかったんです。死に場所を探していました。死んだって、良かったんです。」


「だから、何だ。お前が死にたくても、俺が死なせん。絶対にな。死なせてなんてやらないから、覚悟しておけ。いいな?」


「えぇぇぇぇ……」


いつもの紳士さはどうしたのだろうか。

見たことがないくらい、団長が強引だった。

それこそ、顔に似合った威圧感と強引さだ。


「俺はもう行く。今はしっかり休め。」


団長は自分の主張だけを言って、席をたった。

部屋を出ていく直前、何かを思い出したかのように顔だけ振り返ると、


「ああ、それから、いい加減名前で呼べ。わかったな?」


なんてことない風に要求だけして、去っていった。


団長の微笑みを見て再起不能になった私は、ベットに潜り込んで、頭から布を被って不貞寝したのだった。





さて、それからの私のことを少し話そう。

療養期間が終わり、いつも通り勤務していると妙に生温かい視線と遭遇した。

いや、一部は気の毒な視線も送られていた。

不思議に思いながら、気にしないでいたのだが、数日後に団長から呼び出しを受けた。


仕事内容かと思って団長室に行って、渡されたのは婚約証明書。

団長の名前と保証人の名前が、バッチリ記入済みのやつ。

後は私の名前を書けば、完璧なやつ。


私はいつの間にか知らないうちに、団長に外堀を埋められていたのだった。

気づいた時には、全て遅かった。



いや、何で?

どう言うこと?



私が正気に戻った時には、すでに婚約が成立していた。



いやいや、本当、何でぇぇぇぇぇ!?



私は1人、頭を抱える羽目になったのであった。




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― 新着の感想 ―
このまま振り回されて死ぬことを考えられなくなるのでしょう。 さすが、団長です。……ところで、お名前は?
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