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第7話、街道でご同行


 冒険者は自由だ。

 のんびり草原を歩いていると、風が心地よく、晴れた空の下、ポカポカした陽気が降り注ぐ。

 遠くに見える山々には、薄らと白いものが見えているが、季節の上では春なんだよな。


 俺は、どこまでも広がる草原を行く。旅の大部分は、こうした移動だ。徒歩旅は身軽だが、その道のりは果てしなく遠く感じる。


 ネガティブなことを言えば、目標物がないから延々と、黙々と歩き続けることになる。何もないということは、自分が進まない限り、そのままということで、少し休んだところで、ゴール――町や集落には辿り着けない。こうなってくると、背負っている荷物を含め、足取りも重くなるわけだ。


 今はお日柄もよく、気温も最適だが、そんなベストな状況というのは、実はそれほど多くない。


 平原ということは、風が遮られることなく、そのまま当たることを意味する。ちょっと風が強いと、これが体力を奪ってくる。追風ならともかく、向かい風となると、風と格闘しながらの前進になる。

 そしてその風もまた、温か過ぎれば汗をかくし、冷たいと体温が奪われる。これがまた疲労感を確実に増す。


 ああ、しんどい。しんどい。しんどい。

 だから、俺は街道に沿って歩いている。時々やってくる馬車は、反対方向は見送るだけだが、時折、後ろから追い抜いていこうとする人や、馬車もあって――


「お兄さん、一人?」

「見ての通りだよ」

「行く方向が同じなら、乗ってく?」

「お言葉に甘えて」


 ラットンという四足の輓獣に荷車を牽かせている少年の好意に甘えて、便乗させてもらう。

 御者台の少年は帽子を被っていたが、全体的に日焼けしていて、野外での仕事が多いのだろう。……積み荷は、水瓶が六つ?


「水汲みかい?」

「そう。フランバの泉の水」


 少年は答えた。毎日、泉の水を汲み、村まで運ぶのが仕事なのだそうだ。


「だから襲っても、金目のものはないよ」


 少年はにこりと笑った。あはは、とこちらも笑うが、俺、ちょっと勘違いしていたかも。声が高いし、若干胸もある様子。少年ではなく、少女だったか。


 まあ、だから何だってわけでもないし、俺には関係ないけど。……襲うことはないけど、それを言うなら、よく俺みたいなの、乗っけようと思ったね。


「このまま、真っ直ぐ行けば、ボクの住んでいる村があるよ」


 ボクっ娘か……。


「そこから先には行かないけど、問題ないね?」

「ああ、村まででも運んでもらえるだけありがたいよ。運賃を払わないとな」


 乗せてもらったお礼はしないといけない。これも礼儀というやつだ。


「いいよ、そういうのは。……あ、ちょっと寄り道したいんだけど、それに付き合ってもらっていい?」

「構わないよ」


 俺も急ぎ旅じゃないんでね。


「ただ、時間がかかるようなら、村に泊まれる場所とか相談させてくれると助かる」


 最悪、野宿でも俺は構わないんだけどね。せっかく村に寄るなら、屋根のある場所で休みたい。


「それなら、家に泊まりなよ。部屋なら空いてるし」

「いいのか? それはありがたい。……親御さんは大丈夫かな?」


 勝手に決めて、後で旅人を泊めるのは嫌って言ってこない?


「大丈夫。うちにはお婆ちゃんしかいないから」


 ……どう大丈夫かはわからないが、まあ、それならそれでいいか。実際に訪ねて断られたら、その時はその時だ。


「お兄さん、冒険者でしょ?」

「おっ、わかるか?」


 冒険者票を見せていないけど、まあ旅装しているが、護身用の武器のみならず防具まで身につけていれば、わかってしまうか。


「これから寄る場所、もしかしたら獣が出るかもしれないから、向かってきたら追い払ってほしい」

「護衛クエストだな」


 ギルドを通さない仕事は、あまりしないものだけど、車に乗せてもらったお礼ということで、その仕事、やらせてもらおう。


 街道を進んでいた車は、ある場所にきたら方向を変えた。かすかに道らしきものがあるが、草が侵食していて、あまり通行していないのがわかる。

 そのだいぶ先に森が見えた。


「あの森か?」

「そう。道がだいぶ消えかかっているけど、道なりに進めば、古いお屋敷があるんだよ」

「お屋敷?」


 貴族とか領主の、と思ったが、瞬時にその考えを打ち消す。道が消えかけている先の屋敷だ。昔はともかく、今はおそらく無人なんじゃないかな……。


「その屋敷に何をしに行くんだい?」

「昔ね、そこに女の子がいたんだ」

「女の子?」


 いた、というのはどういうことかな? 住んでいた、じゃなくて?


「友達か?」

「だと思う」


 少女は、なんとも曖昧な調子だった。友達かと言われると、どうなのだろうと首を傾げる程度のお付き合いだったのかもしれない。


「屋敷ってことは、商人とかお貴族様の持ち物だったのかねぇ」


 それとなく聞いてみれば、少女は小首をかしげる。


「よくわかんないな。……でも、なんて呼ばれていたかは知っているよ」

「へぇ、なんて屋敷だ?」

「ウィロビーの屋敷だって」

「ウィロビー!?」


 思いがけない言葉に、俺はビックリしてしまった。いやいや、まったく予想外だぜ。こんなことってある?


「ウィロビーって、あの冒険者の?」

「冒険者? うーん、ごめん、ボクにはわからないや」


 あー、そう。たまたま同じ名前なのか、俺が追っている伝説の冒険者ウィロビーと関係があるのか。


「俄然、興味が出てきた」

「そうなの?」

「ああ、タダでもやるぜ、ってくらいにはな」


 果たして、どんな屋敷かな。ワクワクしてきた!

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