第67話、そして旅に戻る ――エピローグ
「俺が勇者、ね……」
ペルルさんの語ったところによると、そうらしい。
世界に破滅をもたらそうとした魔王と戦い、それを倒した。だが勇者と魔王の戦いは、世界に大きな傷跡を残した。
俺は神に願い、世界の再生と魔王に関係するすべての記憶を消し去った。で、勇者として魔王と戦った俺は、関係しそうな部分の記憶を失い、今に至る、と。
「……」
一応、筋は通っているかな。神様については、人前に姿を現すなんてことはないから、ちょっと眉唾だけど、人から記憶を消し去るというのは、それくらいの存在でないと不可能ではないか。
ペルルさんは、知りたければ確かめればいいと言った。
魔王と勇者の記憶は、海底にいたマーメイドたちはそのまま残っている。同様に、この世界を探せば、他にも記憶を持っている者がいるかもしれない。
俺は何者なのか? かつては勇者だった。
なるほど、自分探しの旅の、一つの答えを得たわけだ。
冒険者ウィロビーの足跡を追えば、忘れている俺の過去を思い出せるかもしれない。それは正しかった。
重大な手掛かりを得られたから。これは俺が望み、人々と出会い、何がきっかけになるかはわからないけど、一つの回答に辿り着いた。
後は、それが正しいのか確かめて、さらに思い出せない部分を回収すればいい。
「つまり、俺のやることはこれまでと変わらないということだ」
自分の過去を求め、旅をする。何も変わらない日々。魔王を倒すとか、恐ろしい化け物と討伐するとか、そんな大きな使命があるわけじゃない。
まあ、場所によっては、危険なモンスターがいて、それと戦ったり逃げたりすることもあるだろう。
だが、世界を脅かす魔王とやらはいない。ありきたりで平凡な世界が回っている。それはある意味、魔王に関係する記憶を消したかつての勇者ウィロビーが望んだ世界なのかもしれない。
手掛かりに従い、旅をして、人と会って、かつての自分の足跡を辿る。俺にとって、それは日常であり、これからもそうなのだろう。
「これが俺の望んだ世界か」
きっと魔王との戦いで色々なものを失ったのだろう。そうでなければ記憶を消そうなんて思わない。
もしかしたら、このまま知らずにいたほうがいいこともあるかもしれない。
だが人間は不思議なもので、知らないものを知りたがる生き物だ。俺の中でおぼえていない事柄も、知らないからこそ知りたいと強く思っている。
きっと矛盾しているし、当時の俺からしたら、せっかく消したのに何を思い出そうとしているんだよと文句を言われるかもしれない。
いや、もしかしたら記憶については不可抗力で、本当はここまで忘れるつもりはなかったかもしれない。そして何か、悲しいとかそういうのとは別に忘れてはいけないことまで吹き飛ばしてしまった可能性もある。
……可能性。こんなことを言い出したら、キリがないかもしれない。
じゃあどうするかといえば、結局、旅を続けて自分探しをするしかないのだ。
・ ・ ・
「――旅立たれるんですね」
水の聖女アクアマリンことアクアは、俺の見送りにきてくれた。
「そうだ。いまの俺にはこれしかないからね」
君は、聖女としてこのドームポリスを守っている役目があるらしいけど。そう言ったら、彼女ははにかんだ。
「特にこれというお礼もできずにお別れというのは、寂しいですし申し訳なさもありますが……」
「なに、ここまで俺を導いてくれた。俺の探していた過去の手掛かりもあった。充分すぎる報酬だよ」
「お役に立てたのなら、よかったです」
アクアは笑みを浮かべたが、どこか寂しそうだった。付き合いは短いが、こんな俺にでも多少感情が揺れるくらいは仲よくなれたのかもしれないな。
「じゃあ、俺は行くよ。またいつか、この町に戻ってきたら歓迎してくれ」
「ええ、そうします。……ありがとうございました、ウィロビーさん。あなたの旅に幸運がありますように」
「ありがとう。元気でな」
俺は自分探しの旅に戻る。この広い世界に、かつての記憶を求めて。
最終話でした。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
特に盛り上がりもなく終わってしまいましたが、元々とある賞向けの作品ということで、そこで落ちたのをだらだらと続けても……ということで終了です。あまりウケもよくありませんでしたし。
新作のほうはwebnovelやネオページの方でもやっていますし、こちらでも連載、新作のほうも考えておりますので、その時はまたよろしくお願いいたします。
では、ここまでお読みいただきありがとうございました。次回作もよろしくです。




