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冒険者ウィロビー 気ままに冒険者ライフ  作者: 柊遊馬


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第64話、海中都市へ潜ってみた


「ここから海に飛び込む?」


 俺はオウム返しした。大型ボートに乗って洋上に出たはいいが、海の真ん中でじゃあここから潜ってくださいは、いくら何でも衝撃的過ぎた。


「そ、ここから」


 ナジェさんは下を指さすのだ。マーメイドの海中都市は、この下だっていう。水平線には辛うじて陸地と港湾都市カミバルが見えるが……。結構深いよね、ここ。


「ウィロビーさん」


 アクアが袋から例の水中呼吸ができる飴をよこした。……どうも。


「本当にここから潜るんだな」


 アクアは下半身を人魚のそれに変えると、するりと海に入った。

 俺はおぼえていないが、以前に行ったウィロビーと冒険者パーティーも、ここから直接海中都市へ向かったんだろうか。


「アクアマリンちゃんについていけば、都市には問題なく入れるからね」


 そうナジェさんは歌うように言った。何も心配いらないという顔。そりぁこの人もマーメイド。潜っても平気なんだもんな。

 さあ、躊躇っても仕方がない。せっかくナジェさんにボートを出してもらっているんだ。ここまで来て行かないはないぞ。

 魔法の飴玉を口に含む。


「準備はいいですか?」


 アクアの問いに、頷きで返す。ナジェさんが言った。


「そのまま思い切って飛んでおくれよ。ゆっくり入ろうとするとボートが傾いて転覆……はしないとは思うけど、念のためね」


 了解。俺はまたも頭を上下させて応える。とうっ! ボートからジャンプ。勢いで揺れたような気もしたが、もう体は海にダイブ。船の様子がどうなったかはわからない。

 振り返りたい衝動に駆られたが、アクアが俺の前を泳ぎ、下を指さした。


『行きますよ』


 軽い念話を送りつつ、マーメイド・アクアはするりと濃紺の海の奥へと進む。俺も後を追うが、マーメイドと違ってもたもた感が酷い。……人間は水中を自在に泳ぎ回るようには出来ていないんだ。


 太陽の光が上から降り注ぐ。今日は快晴。おかげで海の中が青く透けて見えるようだ。……底のほうは暗いけど、もしかしたら近づけば見えるようになるかもと期待してしまう。実際は、太陽の光が届かないから暗いのであって、たとえ底についても明るくなったりはしない。


 下に向かうとわかっているから、沈んでいても平然としているけど、そうでなかったら足が地につかない不安感が込み上げてくるんだろうな。


 ゆっくりと沈んでいくことしばし、海底に球体の上半分部分が見えてきた。ドーム型とかどこかで聞いたような、はて、どこだったか思い出せないが、とにかくあれがマーメイドの海中都市だろう。

 少し離れたところを魚の群れが通過し、底に目を向ければ砂地と岩棚、ピンクがかった珊瑚などが見えてきた。


 割と海底って雑多なんだな。もっと砂と岩しかない不毛なところを想像していたんだが、海底にも砂地に岩場、渓谷があって珊瑚や海草の林、森があるのだ。


 いいなぁ……。こういう思いがけない光景を見るのも旅の醍醐味というものだろう。この景色は海底に来ないとお目にかかれない。海の中にも風が吹いているように、流れというものがあって、海草がゆらゆらと揺れている。


『ウィロビーさん』


 アクアが手を振っている。


『入り口はこちらです』


 ドーム型海中都市の方へ誘導する彼女に俺も続いた。近づくとその大きさに驚かされる。まあ……都市だもんな。

 カミバルが丸々中に入っているようなもの、と言えば大きくないと嘘だよな。


 ドームの入り口――え? 入り口? 一見すると壁のように見えるそれにアクアが触れると、水面に触れて波紋が広がるように揺れた。そのまま彼女は進むと壁の中へを通過した。


 ほう、こういうものなのか。俺も見よう見真似で壁に触れ、勇気を出して一歩を踏み出す。あっさり、体が通る。

 そして壁を抜けると、マーメイドの海中都市の中。



  ・  ・  ・



 ドームの中には、水とそうでない部分が分かれていた。俺が口から飴玉を取り出せば、普通に呼吸できる。


「すっげ……」


 マナンティアル・ダンジョンと言われたあそこと同様に、塔状の建物がいくつもあって、水が覆っているそこからマーメイドが飛び出して泳いでいる。


「あれ、どうやって浮いているんだ?」

「不思議ですよね」


 アクアが下半身を人型にして、入り口脇の水たまりから出てきた。俺もブーツを水に浸水させながら水たまりをザブザブ進み、石畳の上に出た。当然、ながら全身ずぶ濡れだ。


「地上の人用に乾燥室がありますよ」


 水も滴る美人なアクアが、近くの建物を指し示した。水が囲っていないので、俺たち地上の人間用のようだ。


「じゃあ、ひとまず」


 このベチャベチャ状態で町中を歩き回るのは度胸がいる。それでなくても、清潔感に溢れて明るい街並みだ。そういえば海底なのに明るいなここ。

 天井を見上げれば、太陽がドームの向こうに見えた。こんな風に見えるものなのか、ちょっと違和感だが、これもここのマーメイドたちが環境を整えたのだろう。そう思ったほうが健全だ、きっと。


「ようこそ、地上の方――」


 薄い緑髪の女性が、乾燥室とやらの前に立っていた。人間の方……ではなく人魚なのだろうな、この人も。


「お代はいりますか?」

「いえ、タダですよ。乾燥させるだけですからね」


 マーメイド的に乾燥って天敵なような気がするけど、どうなんだろう。そんなことを考えていたら、アクアは入ってこず、いってらっしゃいと手を振っていた。


 さて、乾燥室とやらは……、おうふ、温風がぬるっと肌を撫でた。あまり広いと言えない中を進むと、ゴーと音を立てて強い温風が吹き込んできた。これは……ちょっと目を開けるのがしんどいな。


 何か間違っているような気がしないでもないが、これはマーメイドと人間の種族的な思考の違いなのかな……?

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