第60話、グリフォンの件を報告
依頼は、盗賊団のアジトの様子を見てくること。俺はその依頼に関して、ある程度の一往のゴールに達したと判断した。
一にも二にも情報を欲しがっている冒険者ギルドのために、まずは帰還を優先した。やろうと思えば、他にもやれることはあるが、そこまでするほど俺も身軽ではない。
アクアの無事を最優先としている以上、余計なサービスをして彼女を危険に晒すわけにはいかないのだ。
ヴァンヘレー山を下山した。道中、もしかしたらグリフォンが襲ってくるかもと警戒したのだが、幸い遭遇はなかった。
ヴォワの町に到着すると、そのまま冒険者ギルドに直行した。
「おおっ、戻ったか!」
ギルドマスターのブルガンは、俺たちが戻ったと聞くや、さっそくギルマスの執務室に招き、説明を求めた。
「俺たちが確認した時、アジトは無人だった」
俺は冒険者の遺体から回収できた冒険者証を三つほど証拠とばかりに提出した。
「盗賊はモンスターを飼っていたようで、わかっている限り、グリフォンは二頭いたようです」
「二頭……!」
ブルガンは息を呑んだ。回収したグリフォンの羽根も参考資料として出しておく。
「一頭は例の討伐クエストが出ているのだと思います。現地の状況を見るにグリフォンは二頭いた」
その片方が、アジトにいた冒険者らを襲って殺害したようだった。
「冒険者全員の遺体を確認していないので、もしかしたら退避して山のどこかに潜んでいるのかもしれません」
あるいはその山のどこかで殺されているのかもしれない。
俺たちは登山中も下山中も、ついにグリフォンの姿を見なかったので、どこか別の場所に飛んでいっている可能性もあるが……いや、これ以上推測を口にするのはやめよう。たまたま俺たちは運がよかっただけで、グリフォンはまだ山にいて、次に登ってくる者に襲いかかるかもしれない。
「グリフォンはまだいると思うか?」
「わかりません」
こちらはあくまで盗賊団のアジトの様子を偵察するという依頼で行ったからな。敵対生物などの仕業や盗賊の残党がいたとしても、それを討伐しろとまでは依頼として受けていない。
「偵察クエストは果たしました。我々はこれで」
「討伐依頼を出したい。受けてくれないか?」
「別件でカミバルを目指している途中なんです」
俺は丁重に断る。
「護衛対象を放り出して危険に晒せません」
冒険者が依頼を中途半端にしてはいけない。ギルドマスターであるならお分かりでしょう。
「そうだな……。残念だ」
「ヴォワの町の冒険者が上手く討伐してくれることを祈りますよ」
「ありがとう。報酬は受け取りカウンターに用意させてある。そちらで受け取ってくれ」
「どうも」
俺とアクアは会釈して、執務室を後にした。
・ ・ ・
報酬をもらい、冒険者ギルドを俺たちは出た。アクアは例によって神妙な表情。
「依頼を断ったのは俺だ。君が気にすることではないよ」
「……はい、いえ」
後ろめたさを感じているらしいアクア。グリフォンが荒らし回った集落を道中にいくつも見かけた。だから危険な魔獣の討伐に協力すべきではないか――と、彼女の良心が言っているのだろう。
俺だって個人だったら、あの討伐依頼を受けたかもしれない。……あぁ、だからか。俺が受けていたかもしれないのに断ったのが自分のせいではないかとアクアは余計に思ってしまったのだろう。
だがグリフォンの討伐なんて受けたら、アクアの故郷への帰還がいつになるかわからなくなる。
グリフォンが二頭いたのは確定。うち一頭はおそらく俺が以前倒したやつだと思うが、残り一頭の所在は不明。
まだ山にいる可能性もあるが、そもそも一頭はかなり離れた場所まで移動して、俺たちと遭遇した。一番近いヴォワの町の周りでの目撃例がほとんどないところから、残る一頭もいずこかへ飛び去っているかもしれない。
そうなると、そいつを探して動き回ることになり、この討伐クエストから解放される日程の予想がつかない。下手したら、一ヶ月どころか半年くらいグリフォンを追い続けることにもなりかねない。
普通に考えれば、さすがにそこまで時間はかからないと思いたいが、何せ残り一頭についてはまったく目撃されていないから手掛かりがないのだ。
考えられるのは、早々に遠方に去っているか、山に巣を作り、そこにこもっているか。それか冒険者との戦いで深手を負って、ひっそりと息絶えている可能性もある。
やはり、受けるべきクエストじゃないな。現在の状況とは合わない。
「すみません」
アクアが何故か謝った。うん? いきなりなんだい?
「わたし、自力でグリフォンも倒せる力もないのに、生意気なことを考えていました」
グリフォンを討伐云々とか、正義感だけで言い出すものではない……ということなのかな。確かに、実力が伴わないのに格上に挑んでも返り討ちにあう可能性は高い。だから冒険者だって討伐モンスターにランクをつけて、それに匹敵するレベルの冒険者を当てようとしているのだ。
自重できて偉い……というのは上から目線が過ぎるかな? 何ていうべきか特に考えも浮かばず、俺は頷くことしかできなかった。
・ ・ ・
カミバル行きの隊商があった。
というか歩いていたら冒険者ですか、と声をかけられ、もしよかったら道中乗せるので護衛に加わってくれませんかと言われた。
馬車五台に結構な大人数。なるほど、いざ事が起きれば護衛も人数がいるかもしれない。まあ、ヴォワの町近くにいた盗賊団が一つ潰れていて、規模のある隊商を襲うような敵はいないとは思うが……。ま、何があるかわからないのが世の中だからな。
アクアに確認して、隊商に同行させてもらうことになった。
俺とアクアは最後尾の馬車に荷物と一緒に乗った。一台に二、三人は護衛を乗せるという方針だったらしいが、その護衛の人数が足りなかったから、その馬車に護衛は乗っていなかった。
さてのんびりして道中、移動といきたかったが、世の中そうそう都合よくできていなかった。
「何だか覚えがあるなぁ、こういう展開」
隊商が蜂の巣をつついたような大騒ぎになる。御者が叫ぶ。
「グリフォンですぜ!」
……みたいだな。やれやれ、また依頼を受けていない時に向こうからやってきたよ。




